行動科学で考える人材採用~偶然を期待する採用からの脱却―「名人芸」から「科学的」へVol.5(2/4)
3.行動情報を複数収集すると真偽がわかる
ところで、面接において行動事実を聞きだす場合、一つの事例だけではりスクがあると考え たほうがいいでしょう。というのも、応募者は面接官からの行動質問を予測して、一つだけはとびきり上質の行動事実を用意していることが小なくないからです。
最近、「学生時代に頑張った経験について詳しく話をする」ノウハウが流布しているようです。ある人事担当者の方から、「学生時代に最もあなたが力を入れた経験について話をしてください」という質問に対して、すばらしいエピソードを話す学生かいる、あるいは、同じような話を何人もの学生から聞いた、という笑い話も聞きました。
行動科学という点で、大切なポイントは、その行動の再現性ーーー頻度です。火事場の馬鹿力ではなく、安定的にその行動をとることができるかどうかを確かめることが重要です。
たとえば、応募者(学生のAさん)が、「自分の所属する○○部が意見の食い違いによって分裂しかかったとき、私はまず双方の言い分をよく聴いたのち、話し合いの場を設けて互いの理解を促すなど、いわば調整役に徹することを通じて、 ○○部を従来以上に活力のある組織にまとめあげました」
と語ったとしましょう。学生時代の行動は入社後の行動を予測するわけですから、この行動事実はAさんのコンピテンシーを推し量るうえで、かなり評点の高い内容だといえます。
しかしながら、この良質の行動特性がAさんのコンピテンシーとして本当に根づいたものかどうか、それを検証しなければなりません。もし、コンピテンシーとしてある程度確立されたものなら、その行動特性は将来において繰り返されるのと同様に、過去(学生時代)においても繰り返されているはずなのです。
ですから、先の回答へのフォローアップ質問は、次のようになるでしょう。
「なるほど、それはすばらしいことですね。では、部活動の他の場面で、もしくは部活以外の場面でもけっこうですので、人間関係がもつれた難しい状況に直面したときのことを、もう一つ話してもらえますか?」
こうした投げかけに対して、 Aさんから一つ、二つと先の回答と同様の行動事実が語られるようであれば、Aさんのコンビテンシーは再現性がある、つまり本物だということになります。逆に、最初のエピソード以外にまともな回答が返ってこないようであれば、先の回答だけでその学生の行動(コンピテンシー)を高いと評価することは危険だということになります。
応募者が回答したすばらしい行動でも、一つだけで満足するのではなく、いくつかの事例を収集し、その再現性を確認するためのフォローアップ質問が必要です。このことが、「行動は繰り返される」「行動は行動を予測する」という統計学的知見にほかなりません。
4.行動情報は鮮度も大切
ここで前項に述べた内容を少しまとめてみましょう。
コンピテンシーとは、「職務に必要な能力要件、あるいは会社の求める能力要件を具現化するだけの行動がとれる」ということです。しかし「傾向と対策」を学習した学生(中途採用の応募者も同じですが)は、こうしたコンピテンシーに該当する行動事実を一つくらい語ることができます。ですから面接する側のポイントは、 行動は行動を予測する」における「過去の行動」について、いくつかの場面での応募者の行動事実を聞きだし、その行動の再現性(定着)を確認することです。
みなさんの職場を見渡しても、卓越したパフォーマンスを発揮することがあるけれど、そのパフォーマンスが続かない、というような人がいないでしょうか。あるいは1年だけトツプに躍りでたけれど、それ以外の年はずっと低迷している営業担当。こうした人が転職する場合、面接の際に話すのは「たまに」と「1年だけ」の輝かしい実績です。
それが「たまに」であり「1年だけ」なのかを検証するには、その頻度を確認しなければなりません。つまり、高いコンピテンシーを示す行動が、過去において高い頻度で繰り返されたのかどうかを。したがって、収集すべき行動情報は一つではなく複数聴取することを、面接に臨む際は念頭に置いてください。
このように、収集すべき行動情報には「頻度」が大事です。それと同時に、行動情報の「鮮度」もまた大切な要素なのです。
新卒採用において、応募者がインターハイに出場した話などをすると、質問が高校時代のクラブ活動に集中することがあります。また中途採用でも、新卒で入社したころにまでさかのぼって、古い時期から順に仕事内容を尋ねる面接官が少なくありません。
しかし、高校時代に燃え尽きて大学時代は凋落したような生活を送った学生もいれば、社会人になって長いあいだ雌伏の時代を過ごしたのち、たとえば最初の転職を機に花開いた人もいるわけです。
収集すべき行動事実は直近のものがよりリアルであり、判断材料としての信憑性も高い。つまり行動情報は野菜や魚と一緒で、旬のもの、新鮮なもののほうが価値は高いのです。ですから、質問を差し向ける対象時期は、なるべく直近を、少なくともここ数年間の範囲に限定していただきたいと思います。
5.行情報の収集の基本は「STAR」
ここまで、応募者の行動事実を収集する面接がなぜ科学的アプローチなのか、ということを述べてきました。次に、実際の採用面接で応募者の現在までの行動を十分理解するために、どのように行動情報を集めればいいかについて、最も理解しやすい概念として、「STAR」という面接手法をご紹介することにしましょう。
先に私は行動質問に欠かせない要件として、
の3点を挙げました。
これに④その行動の結果が確認できることーーーーを加え、面接官が自らの質問が行動質問になっているかをチェックできるとともに、一つひとつの行動事実から応募者の行動特性(としてあらわれる能力・コンピテンシー)の全容を把握できるようにしたのが、「STAR」という手法なのです。
図にあるように、「STAR」は、
という英文の頭文字から命名されました。
これが意味するのは、「ある特定の状況下やある特定の役割の中で、あなた自身は実際に何をして、だからどうなったのか」というように、要点を押さえた話を、面接官は応募者に対して事細かに聞いてください、ということです。というのも、コンビテンシー面接の精度は、応募者の行動事実に関する情報収集力とその量によるところが大きいからです。
ただ、応募者の行動・言動だけがわかっても、その行動をとるに至った背景(応募者がその行動を「なぜ」とらなくてはならなかったのかという背景)や、その行動がもたらした影響(応募者の行動の成果や結末)が明らかにならなければ、その行動の意味や質(効果)を測ることはできません。それを可能にするのが「STAR」なのです。
行動事実をこの三つの要素に整理しているので、応募者の現在までの行動を確実に知るうえで、とても活用しやすい概念といえるでしょう。
たとえば、「私が大学のサークルで部長をやっているとき、大きなもめ事があったんです」と学生がいったら、「それはどんなもめ事だったのですか?」と尋ねるのが「状況・役割」(を確認するための質問)です。
「はい。活動方針についての会議をしていたら、仲間の一人が○○ということをいったので場が紛糾しました。それで、私が仲裁に入ったんです」と学生が答えたら、「仲裁ということですが、もう少し詳しく話してください。どんなふうつに、どういうやり方をしたんですか?」が「言動」。その回答に対して、さらに「あなたがそのようにはたらきかけたことによって、そのもめ事はどうなったんですか?」が「結果」です。
質問の構成と目的はとてもシンプルなのですが、実際の面接ではほとんど実行されていません。途中まで尋ねることはあっても、「仲裁しました」との回答に「なるほど」と、面接官自身の想像力の中で仲裁行動をイメージして納得してしまう。そういうケースが少なくないのです。応募者の回答に対して、いわゆる「突っこみ」が足りない、ということです。
その意味で「STAR」は、面接官が自らの突っこみ不足をチェックするツールともなるわけです。コンピテンシーを探る大切な質疑応答を他の話題に転換する前に、「STAR」に照らし合わせて、情報がきちんと取れているかをチェックしていただきたいと思います「状況や任務・役割の事実関係は確認したか」「行動事実は収集したか」「その結果や効果は聞きだしたか」というふうに。
「STAR」に準じて質問し、「STAR」に準じてチェックするーーーこれによって、収集すべきコンビテンシーに関する応募者の行動情報の全体が、満遍なく確実に入手できるのです。
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会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
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事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント
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