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「量」の採用から「質」の採用へVol.8(4/7)

7.採用にはトップ自身がかかわるべき

事実、トップ自身が前項に挙げた危機感や認識をもっている企業は、採用活動のあり方が明らかに違います。

私がよく存じあげている経営者の場合、自社の採用活動に対して積極的にかかわっていらっしゃいますが、それは最終面接に自ら立ちあうということだけにはとどまりません。

「わが社は今、こういう方向に進んでいる。したがって、今年の採用活動におけるミッションはこうで、わが社の求める人材はこういう人だ」

と、人事部門の担当社員だけではなく面接を担当する社員にも明確な指示を出していらっしゃいます。

「こういう人だ」の内容は概して大まかであり、けっしてコンピテンシーの要素にまで落としこんだものではありません。しかし、トップの言葉としてはそれで十分なのです。むしろ、この会社で採用活動を全社的取り組みにまで押しあげているのは、経営者が自らのコミットメントを直接伝える、このような力強いメッセージであることは間違いありません。

また、別の経営者ですが、自身は超多忙の身であるにもかかわらず、採用活動の中間報告を都度作成させ、それに目を通しながら適宜具体的な指示を出している方もいらっしゃいます。報告書に記された評価概要を見て、経営者から

「この学生を役員面接に進めたのは、何がどうよかったのか」

との質問があるわけですから、面接官や評価のとりまとめ役である人事部の方の意識が全然違うわけです。もちろん、この会社は「コンピテンシー面接」をとり入れていますから、トップからの質問に対しても、その理由を明確に伝えることができるのはいうまでもありません。

もちろん、採用活動の総指揮をとる方の職位は、会社の規模や業態によって違ってくるでしょう。中小企業の場合、その任にあたるのは間違いなく経営者であるべきです。

ただ、それが経営者自身であれ人事担当役員であれ、あるいは(取締役)人事担当部長であれ、社のトップやそれに連なる方には、ぜひ採用活動にコミットしていただくことを、ここで繰り返しお願いしたいと思います。

トップがかかわれば、採用が変わります。そのかかわり方の中で、「わが社の現状と将来方向を見据えたとき、わが社に必要なのはこのような人物だ。それを的確に見極める方法論はあるか」

という投げかけがトップからなされたとき、採用は確実に「コンピテンシー採用」を軸に据えた内容に変わっていくでしょう。

なお付言すれば、経営者の中には、企業理念としてオーソライズされていない自らの個人的な価値観や人物観を、採用選考の基準として押しつける方がいらっしゃるとも漏れ聞いていますが、ここでいうコミットメントは、もちろんそういうことではありません。 

先にご紹介した経営者の方々と同様、右に挙げたような問題意識をもって旧来型採用の是正を先導していただきたい。それが私の切なる希望です。

8.役員面接のあり方

トップのかかわりということに関して、次のようなことも付言しておいたほうがいいでしょう。それは「役員面接」のあり方についてです。

私自身は役員面接を、先に挙げた「将来のリーダーとして期待できる【コア人材】が誰かを、経営者の視点で見定める場にするのが理想的だと思っています。それは、面接に参加される役員の方のモチベーションにもなるでしょう。しかし、どうも現実はそのようにはいっていないようです。

ある企業の担当者は、最終の役員面接まで残った優秀な学生が、役員との面談内容に失望したことを理由に内定を断ってきた、と嘆いていました。このように役員の言動は、学生にとって企業そのものの印象となるほど強いインパクトがあるのです。 

ところで、「コンピテンシー面接」を企業がとり入れる際、それを面接の場で正しく運用するためには「評価者(面接官)トレーニング」が必須であることは前述したとおりです。いくらインフラを整備しても、面接官に質問技法などの面接スキルかないと、正しい判断はできません。 

しかしながら、このトレーニングを役員の方に受講してもらう会社はまずないようです。人事部門としても、役員にそのようなお願いをするのはさすがに気が引けるでしょう。 

しかしその結果、人事課長などから、たとえば次のような悩みをお聞きすることがあるわけです。 

「ウチの役員たちは、ほんとに勝手なんですよ。いい学生を採れというから高いコンピテンシーをもった学生を役員面接の段階に進めたのに、『これは』という人を役員面接で落としてしまうんです。あわてて修正のお願いに行きますけどね」 

たしかに学生の中には、役員による最終面接ということで、ヘンに身構えてしまたり、あがったりして、普段どおりの受け答えができなかったという人もいるのでしょう。しかしそれとはかかわりなく、役員の中には個人的な価値観や勝手な思いこみで、学生をふるい落とす方もいらっしゃるようです。 

こういう場合はどうしたらいいかと問われても、先の人事課長のように役員のところに出向き、「この学生は1次・2次面接において、こういう行動事実から、このような高いコンピテンシーが認められ……」という判定理由を直接伝えて説得するか、あるいは役員面接の場で、事前に個々の面接対象者の判定理由を説明する、という方法のほかにありません。 

もちろん、面接官トレーニングに参加していただき、そこで面接スキルを学んでもらうことが、最良の解決策ではあるのですが……。 

ある会社の人事課長からこんな話をうかがったのでご紹介しておきましょう。 

「役員の<学生の好み>にはあれこれ注文はつけられませんから、役員面接の前の段階でコンピテンシーの高い学生を絞りに絞りこんでおきます。つまり、『どうかな』と思う人は役員面接に進ませない。ですから、役員の学生に対する好みがどうであれ、またその好みによって合否判断がなされても、最終的には必ず我々が太鼓判を押した学生が残る、というわけです」

なるほどな、と思いました。役員面接に進んだすべての学生が必須コンピテンシーのスペックを満たしているから、役員の好き嫌いで選んでも必ず能力の保証ができるわけです。 

ただこの方法は、優秀な学生が多数応募してくる大手ブランド企業だからこそ可能なのかもしれません。とはいえ、自信をもって「絞りに絞る」ことができるのは、この会社が「コンピテンシー面接」を正しく活用しているからこそです。

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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🔵会社概要

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント


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