採用の戦略的視点~採用成功の三つのポイント「正確」「公平」「賛同」Vol.6(3/4)
7.「ターゲット・コンピテンシー」の2大効用
以上のような手順を経て、「人が組織の中で成功する要因は何か」という観点から「自社に必要なコンピテンシー」を決めます。このようにして、組織にとって必要とされる複数のコンピテンシー(総じて「ターゲット・コンピテンシー」――面接でフォーカスすべき「的」となるコンピテンシー――とよぶことにします)が設定されるわけです。
本マガジンでは、新入社員の主な配属先となる現場の課長クラスに議論してもらい、その意見を(人事部門が)集約するという方法を例にとりましたが、この方法がベストだといっているわけではありません。
ほかにも、人事部門の担当者がいろいろな現場をまわって管理職の意見や要望を聴取し、得られた情報をもち帰ってとりまとめるというやり方もありますし、情報を整理してとりまとめる段階で、私たちのようなコンサルタントがサポートに入るケースもあります。
いずれの方法をとるにせよ、ターゲット・コンピテンシーの設定は採用を成功させるうえでの最も重要なプロセスとなり、ここに組織としてのビジネスの方向性やそれに伴う人材戦略と人材要件に関するさまざまな考えを反映させるわけです。
ターゲット・コンピテンシーは必ずしも一定ではありません。会社の経営方針や事業戦略の転換、あるいは、採用市場の変化などを踏まえ、「求める人物像」にその条件を反映させ、常に時代にあった人材要件を設定する必要があります。
このようにターゲット・コンピテンシーは、「コンピテンシー面接」の設計・実施に際し、企業にとって必要な人材を「正確」に予測するための鍵となり、同時に組織の人材戦略を採用面接において具現化するための重要な要素となるのです。
とりわけ「採用面接」における大きな効用は、
の2点といえるでしょう。
以下、この二つの効用を実現するための方法論について、話を進めたいと思います。
8.まず、必要不可欠なコンピテンシーを選定する
まず効用の①について、次のような事例を紹介しましょう。あるクライアントで面接官トレーニングを実施したときのことです。
模擬面接が終了し、合否決定を行う統合会議(詳細は次章参照)の最終段階で、模擬面接をした学生への評価は、必要不可欠の能力要件として選んだターゲット・コンピテンシーのすべてにおいて「基準に達している」との判定が出ました。ところが、トレーニングに参加していた数名の面接官から「採用したくない。何かが違う」という意見が挙がったのです。
なぜ、このようなことが起こったのでしょう。私はその原因を次のように解説しました。
「必須のコンピテンシーが基準に達しているにもかかわらず、採用したくないという結論になるのは、御社にとって最も重要であるはずの何か大切な要件がこのターゲット・コンピテンシーの中に盛りこまれていない、ということです」
つまり、ターゲット・コンピテンシーを決める際に重要なことは、自社にとってどんな能力要件が本当に重要なのかを、合意が得られるまで徹底的に議論を重ね、しっかりと見極めることにほかなりません。先のトレーニングでは、前段としてのこの見極めが欠けていたわけです。
また、複数のターゲット・コンピテンシーの中から、あらかじめ「必須であり不可欠のコンピテンシー」を厳選することが、採用を成功させるうえでのポイントとなります。
いうなれば、最も必要かつ不可欠なコンピテンシー以外の項目の評価が「○」であっても、「この項目が×だったら採用しない」という能力要件を定め、同時にターゲット・コンピテンシーの優先順位づけをするわけです。
たとえば、新卒採用で多くの企業が重要視している評価基準に「目標達成」があります。しかし一方で、自社の公的・社会的事業特性からCSR(企業の社会的責任)の履行に注力している企業であれば、コンプライアンス(法令や社会規範、企業倫理の遵守)に則った言動がきちんととれるかどうかも、「達成意欲」に加え、必要不可欠なコンピテンシーとして位置づけるのではないでしょうか。
一部の社員といえども、これを欠如した行為が発覚して会社自体に社会的・経済的な制裁が課せられ、会社が存亡の危機に陥った例は、みなさんのご記憶の中でも少なくないはずです。
ですから、たとえば「目標達成」にかかわる能力要件が高く評価された学生であっても、この「コンプライアンス」に関する行動事例が「×」の場合――「自分の言動がルールに違反することをあまり気にしないで、とにかく大きな成果をあげることにこだわる」とか「自分や自分が所属する組織の利益のためなら手段を選ばない」といった明らかな傾向を示す場合、「この人は目標達成に執着するあまり、コンプライアンスを無視した行動をとる危険性がきわめて高い」との判断になり、不合格となるでしょう。
そうです。「行動は繰り返される」からです。
この「正確」な判断は、コンプライアンスが必要かつ不可欠なコンピテンシーに選定されたからこそ導きだされたものといえるでしょう。
つまり、面接官がこのターゲット・コンピテンシーに重点を置いてその確認のために、「STAR行動情報」を意識的に引きだし、かつまた、あいまいな(不完全な)「STAR行動情報」にはフォローアップ質問を重ねて、学生の過去の行動を浮き彫りにした結果として、その行動性向が必須項目と抵触することが判明したわけです。
したがって、ターゲット・コンピテンシー、中でも優先順位の高いコンピテンシーを決めたら、当然のことながら、そのことをすべての面接官が共通認識としてもっていなければなりません。「この重要なコンピテンシーについては、必ず十分な行動情報を収集しなければならない」と。
あるいは、面接の設計において次のような組み立てをするのも有効でしょう。
たとえばターゲット・コンピテンシーが6項目あって、そのうちⓐⓑⓒの3項目が特に重要なコンピテンシーに選定されたとき、このⓐⓑⓒについては1次面接でも質問し、さらに2次面接でも重ねて質問するというように。いわば必須項目には二重のバリアを張り、同時に「正確」を期すわけです。このように、1次面接と2次面接の役割分担を図式化すると、表のようになります。
この表では、面接時間に制約のある1次面接では4項目(四つのコンピテンシー)を質し、2次面接では重要とするコンピテンシーに加えさらに追加で二つのコンピテンシーについて質問するという設計になっています。
採用面接で確認すべきコンピテンシーの数や重要度、面接の設計の仕方などは、企業の採用プロセスによってその具体的な方法はさまざまですが、大事なことは、ターゲット・コンピテンシーを組織としてしっかりと設定することです。
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会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント
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