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アジアから見た日系企業の課題~日系を脱する

中国が安価な労働力を提供する「世界の工場」から、購買力を備えた巨大市場へと変貌する中、日本企業の中国事業戦略も大きく変化していかなければなりません。その事業戦略の成否を左右するものの一つに人事戦略・人事施策があると考え、中国へ進出する日系企業の支援を行っているのが、株式会社コチコンサルティングです。


同社の総経理を務める畑伴子さんは、20年以上にわたり、中国の成長と中国に進出した日系企業を間近でご覧になってきた、いわば「生き証人」のような方です。

◎畑 伴子(はた ともこ)氏プロフィール
株式会社日本航空勤務後、1997年より中国初の日系人材会社としてパソナグループ中国法人を立ち上げ、現地責任者を務める。2004年より日本にてグローバル人材紹介を専業とする株式会社パソナグローバルを設立、代表取締役に就任。日中間、国際間のグローバル人材紹介/人材活用コンサルティングに携わる。 2008年パソナグループを退き、株式会社コチコンサルティングを設立。中国最大手の国営人材会社である上海市対外服務有限公司との業務提携により、在中日系企業の人事管理支援に従事。2012年より、長年の中国人事業界での経験を活かし、日系企業の人事業務を全方位的に支援するコチコンサルティング(上海)を設立。中国における人材紹介、人事管理領域の日本人第一人者。

今回の対談では、この20年あまりの間に、中国をはじめとするアジアの市場がどう変化し、それに伴って日系企業の立ち位置がどう変わってきたのか、日系企業や日本のリーダーたちがアジアの人々からどう見られているのか、そして、日系企業が人材の面でどのような課題を抱えているのかを伺いました。

欧米とも日本国内とも異なる“アジア”という視点で見ることで、「日本の企業がグローバルでなぜ勝てないのか」「日本人がグローバルポジションを獲るうえで何か課題なのか」が、より鮮明にご理解いただけることと思います。

1.日本優位は大きく低下

🙋‍♀️伊東
今や、グローバル化はアジア化と言われています。アジアの勢いは、日本企業にとっては脅威になってきています。畑さんは、上海を拠点に、20年以上にわたり、アジアの市場をご覧になってこられましたが、この間、アジアにどんな変化が起こり、どのようにピジネスが変わってきたとお感じですか。

🙋‍♀️
最初の変化は、やはり中国だったと思います。その前に台湾、香港、シンガポールが注目された時代もありましたが、やはり、中国が改革開放(1978年から鄧小平を中心として実施された経済政策。文化大革命後の経済を立て直すため、経済特別区の設置、人民公社の解体、海外資本の積極的な導入などが行われ、市場経済への移行が推進された)によって経済が伸び始め、そこに外資系企業が入ってきたことで、アジアが“エマージング・マーケット”(新興国市場)として表舞台に出てきました。

そして、中国で起きたことがベトナムやミャンマーで横展開されてきたというのが、これまでの状況です。

日本企業とアジア諸国の関係については、ご存じのように、当初は日本が優位でした。欧米企業と比べると地の利もありますし、「日本の製品やサービスは素晴らしい」と世界から称賛されていた時代です。アジアの国々とは明らかな経済格差もありましたので、アジア諸国に対していくらか“上から目線”のようなところはありましたが、それでも、日本をお手本ととらえて、ついてきてくれていました。

ところが近年は、各国が力をつけ、日本との経済格差が縮小するにつれて、立場は逆転しました。今では誰も、日本人だからということではリスペクトしてくれません。

私は2000年まで上海に常駐し、その後も2008年まで毎月出張で現地にいっていましたが、2008年時点では明らかに逆転していました。

実はそれ以前も、日系企業に人気があったかというと、そうではありません。ただ、現地の人からすると、それなりに学べることがありました。今、現地の人に聞いても、「文化が好き」とか「アニメが好き」ということくらいしか、日本語を学ぶ動機はありません。「経済的先進国」や「仕事を学べる国」としては、日本のポジションが大きく低下してしまいました。

2.日系企業への関心の薄さ

🙋‍♀️畑
かつて、「日系企業はビジネススクールだ」と言われていました。新卒の賃金はそこそこ高く、入社後に教育してもらえるので、スキルや経験のない人は、まず日系企業に入社し、そこでビジネスの基本を学んだら次の会社に移るというわけです。 

私は最近、「そうであったらいいのに」とさえ思います。今の日系企業では、ジュニアクラスですら学ぶことがなく、人が育っていません。 

以前は、中国の国営企業では、十分な教育が行われていませんでした。 

しかし、今は違います。中国の企業は、会社を成長させるために、人を育てなければならないと考えています。そのため、「一番よい人事制度を採り入れよう」「一番よい教育を行おう」と、欧米系企業の最先端の制度を積極的に導入してきました。

それに対して日系企業では、体系立った教育というより、先輩の背中を見て育つ従弟制度的なOJT教育が中心ですので、学ぶのに時間がかかります。中国人から「私は何年経ったらマネジャーになれますか?」と聞かれることかありますが、スピード感が全然違います。

ですから、大学生の就職希望企業ランキングを見ても、トップ100の中に日系企業は1社も入っていません。以前から少なかったのですが、それでも、かつては何社か名前が挙がっていました。ちなみに最近は、グーグルよりも、中国工商銀行やアリババが上位に来ています。

🙋‍♀️伊東
日系企業への関心はなくなってしまい、すでにランキング外ということですね。一方で、中国企業がランキングに入ってきているということも注目すべき点ですね。 

🙋‍♀️畑
私は98年ごろから継続的に賃金調査を行っており、日系企業の賃金の低さ、特にマネジャー層になると差が大きくなることなどの問題点を指摘し続けてきましたが、私が言ったくらいでは、日本本社は耳を貸してはくれませんでした。

3.変わろうとしない日系企業

🙋‍♀️伊東
アジアにおける日本の地位が低下したのは、中国の成長によるものか、それとも、日本企業の変革が遅れて落ちていったのか、どちらが主な理由でしょうか。 

🙋‍♀️畑
中国が成長する中、日本が手をこまねいて見ていたということだと思います。グローバルで見ても、アメリカなどは変わりましたよね。でも、日本はこの30年間、変わろうとしてきませんでした。 

🙋‍♀️伊東
「失われた20年」と言われていたのが、すでに「失われた30年」になりました。

🙋‍♀️畑
このままいくと、「失われた30年」になります。この30年、日本の賃金水準は上がっていません。これは、報酬が上がるような変革をしてこなかったということです。今までと同じことをして同じ報酬を得るということを続けてきた結果が、今の状況をまねいていると思います。

一方、中国は、報酬が上がった分、生み出すものも変わってきました。日本人が「賃金が上がらない」と嘆くのは、自己責任だと感じます。 

🙋‍♀️伊東
中国がそれだけ速いスピードで動いてきたわけですから、進出した日系企業も、競争力を高めるために、変革に取り組み、アジアのグローバル化のスピードに対応するために、自分たちが変わることをスピードアップしてもよさそうですが、それはなかったのでしょうか。 

🙋‍♀️畑
規模は大きくなりました。初めは小さく進出していたのが、市場の拡大に伴い、事業を横展開してきました。エリア的にも、かつては北京と上海だけだったのが、武漢や成都などに広がっています。 

ですが、日系企業が中国で何か新しいものを生み出したかというと、何も生み出していないというのが実態だと思います。極端に言うと、日本にあったものをただ横展開しただけです。

🙋‍♀️伊東
中国市場が良かったことに甘んじ、これまでのビジネスモデルを踏襲したというのは、そのとおりだと思います。ものづくりの会社であれば、「国内でつくっていたのを外に出しただけ」という印象があります。でも、気がつくと、中国の人件費もどんどん上がってきてしまいました。

🙋‍♀️畑
人件費が上がっても稼げる方法を考え出すべきところ、何もしてこなかったのが、この30年間の日系企業です。振り返ってみて、誰か気づかなかったのだろうかと不思議に思います。 

🙋‍♀️伊東
この変化のスピードに対応できている日系企業というのは、どういう会社ですか。

🙋‍♀️畑
成功しているのは、商品力とマーケティング力の強い会社くらいです。変化に対応できているわけではありません。 

🙋‍♀️伊東
このままでは、日系企業はアジアで勝ち残れませんね。優秀な人材を採用することにも苦戦しています。

4.おすすめ人材アセスメントソリューション

5.グローバルポジションを獲りにいく

グローバル企業において、日本人は優秀な部下にはなれるが、グローバルポジションはとれないという事態が起きつつある。外国人、とりわけアジアの優秀なリーダーたちが、日系企業の重要ポジションを占め始めている。このままでは、日本人はグローバルはおろか、国内でも重要なポジションをとれないことが危惧される。
日本企業では、なぜリーダーシップ開発が停滞しているのか。グローバルポジションをとれるリーダー人材は、いかにして輩出されるのか――。
日本人のリーダーがグローバルで戦うために世界基準で獲得すべきリーダーシップスキル、及びリーダーシップ開発成功の要諦、人事が起こすべき変革、経営のコミットについて、具体的事例とリーダーシップに関するグローバル・データを織り交ぜながら解き明かす。

6.株式会社マネジメントサービスセンター

創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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