動機適合を見極めるための面接方法
1.優秀な人材が退職する理由
採用面接において、モチベーションの適合性は、知識や経験、コンピテンシーよりも軽視されがちです。しかし、個人のモチベーションを理解することは、その人の職歴や知識を把握するのと同じくらい重要です。有能な候補者は多いかもしれませんが、組織が求めるのは、応募要件を満たしているだけでなく、熱意をもって高いパフォーマンスを発揮しようとする人材です。単に仕事をこなしながら次の機会を探しているような人ではありません。
本コラムでは、動機適合の定義、採用時にそれを考慮することが重要な理由、そして動機適合を見極める面接方法についてご紹介します。その前にまず、優秀な人材が離職する理由を探り、次に、離職率と動機適合の関係について解説します。
優秀な人材の退職が増えていると感じたら、その理由を探るべきです。退職者面接で理由を尋ねると、新しいキャリア、業界、勤務地にチャレンジするよい時期だと言われるかもしれません。あるいは、コーチングやフィードバック、信頼性、共感、インクルージョンをより求めていると答えるかもしれません。 LinkedInが実施したWorkplace Culture Reportによると、ミレニアル世代の10人中9人が、自分の価値観と合う会社で働くためなら給与が減ってもかまわないと考えていることが示されています。これは、次世代のリーダーが雇用主に対し、より多くを求めていることを示唆しています。彼らは給与よりも、インクルージョン、共感、成長と発展の文化を重視しています。そして、自分の価値観が組織の価値観に合わなければ、彼らは去っていくでしょう。
実際、今日の離職率は高くなっています。MSC/DDIのグローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2021調査によると、半数以上の組織で離職率が上昇していることが示されています。また、2021年9月の追跡調査では、組織の33%がパンデミックの初期より離職率が上昇した、さらに20%が著しく上昇したと回答しました。
2.動機適合を見極めることにより、離職率を下げる
機会が訪れた時に、なぜ、組織にとどまる人もいれば、退職してしまう人もいるのでしょうか?退職につながる要因はさまざまですが、その根本的な原因の一つは動機適合の低さ、つまり、その人が理想とする仕事と実際の業務が一致しないことです。
人は望む仕事や組織、勤務地と実際のものが異なる場合、簡単にやる気やコミットメントを失ってしまいます。最終的に、その人の離職でチームは混乱し、組織には高い代替コストが発生します。投資した人材が長期にわたって職務に従事し続ける確率を高めるためには、採用プロセスをどのように改善すればよいでしょうか?
採用プロセスにおいて応募者の動機適合を見極めることが、退職を未然に防ぐ鍵となります。それは、応募者が満足し、意欲的に業務に取り組み続けられるよう、彼らのやりたいことと仕事内容が十分に一致しているかどうかを判断する、迅速で簡単な方法です。
3.動機適合とは
動機適合の定義は、タレントマネジメントの分野で多く見られます。MSC/DDIは、応募者を評価する際に、包括的かつ実用的な、以下の定義を使用しています。
定義:組織、職務、場所がもつ特性と、個人が満足を感じる要因とが一致する度合い。組織、職務、場所に対して個人が満足できる程度。
応募者の動機適合を確認することで、その人の志向が職務の特性とどの程度一致しているかを把握できます。また、その職務にどれだけ満足し、意欲的に働けるのかを見極めるよい指標にもなります。動機適合の診断は、応募者が「できること」ではなく、「やりたいこと」を予測するものであるため、コンピテンシーの評価とは異なります。 履歴書の上では優秀に見えても実際には努力を惜しむ人が、誰しも思い浮かぶでしょう。彼らは応募要件を満たしており、業務をうまくこなすこともできますが、仕事の状況に満足しておらず、自分の能力や力を最大限に発揮しようとしないのです。
4.動機適合とバイアスの混同
次のような懸念を耳にすることがあります。採用担当者が採用プロセスにおいて動機適合を重視すると、その判断にバイアスがかかり、多様性が制限されるのではないか。「適合」とは、単に「合う人」を見つけるための合言葉ではないか、というものです。
動機適合とは、応募者の志向や仕事観を理解することであり、彼らがその業務にどの程度満足できるかを判断するものです。これは差別をしたり、民族、宗教、文化的背景が似ている人だけを採用したりするための言い訳ではありません。
ダイバーシティ&インクルージョンを優先しながらも、動機適合性の高い応募者を探すことは可能です。採用担当者には、その職務で成功する方法は一つではないことを理解させましょう。アプローチやスタイルが異なっていても、同じように効果的で意欲的である可能性があります。
動機適合を見極める際にバイアスがかからないようにするために、選考基準は担当者の好みではなく、客観的な職務要件に基づいていることを確認しましょう。公正かつ包括的な採用プロセスは、常に職務分析から始まります。これは、業務内容に精通している専門家が、成功に必要なプロフィール(サクセス・プロフィール)、すなわち知識、経験、コンピテンシー、個人特性(動機適合を含む)を定義するものです。 さらに、サクセス・プロフィールには、その職務におけるモチベーションと長期的なコミットメントを予測する、職務適合、組織適合、勤務地適合の特性を客観的に定義する必要があります。そうすることで、面接官は確立されたプロフィールに基づいて、各応募者を一貫して比較できるようになります。
5.動機適合の種類
動機適合には、職務適合、組織適合、勤務地適合の3つの種類があります。
①職務適合
職務適合は、仕事上の活動や責任が、応募者の希望とどれだけ一致しているかを確認するものです。言い換えれば、応募者が仕事自体に満足感を得られるかどうかを見極めるものです。
一般的な職務適合の要素には、達成感、やりがい、他者へのコーチング、報酬、出張の頻度、人間関係の構築、仕事の多様性などがあります。職務適合を確認する際は、次のような質問が有効です。
②職務適合
組織適合は、組織文化、運営のしかた、価値観が、応募者の特性と一致しているかどうかを確認するものです。一般的な要素には、行動へのバイアス、顧客指向、地域社会への貢献、継続的改善、技術指向などがあります。組織適合を確認する際は、次のような質問が有効です。
③勤務地適合
勤務地適合は、地理的特性と応募者が満足を感じる環境がどの程度一致しているかを確認するものです。例えば、アウトドアが好きな人は、公園やゴルフ場、サイクリングロード、ハイキングコースがある地域に最も幸せを感じるかもしれません。しかし、家族がいる場合は、地域の教育制度の質を重視するかもしれません。
転居を伴う転勤がある職務では、勤務地適合を見極めることは特に重要です。新しい勤務地が個人の望むライフスタイルに合わなければ、退職してしまうことがよくあります。
空いているポジションがある場合は、職場環境や業務の進め方の変化を反映させるために、動機適合の要素を更新する必要があります。私たちの仕事はここ数年で劇的に変化しており、そのスピードは加速しています。 オフィス勤務から突然在宅勤務に変わったり(またはその逆)、テクノロジーの導入によって主要な業務プロセスが一変したりすると、動機適合の要素に影響が及ぶことは容易に想像できます。仕事、組織、そして勤務地が大きく変わる中で、エンゲージメントとコミットメントの高い人材も変わっていきます。
6.なぜ応募者の動機適合を見極めることが重要なのか?
長年にわたる研究により、動機適合は職務満足度、欠勤率、離職率に共通した予測因子であることが示されています。動機適合を確認することは、個人の満足度を保証するためにも重要です。それにより、生産的でエンゲージメントの高い従業員としてその職務を続ける可能性が劇的に高まります。
さらに、モチベーションの高い従業員はパフォーマンスも向上します。彼らは自分の行動や成果に責任をもち、新たな役割を担う可能性が高くなります。また、前向きにプロセスや製品、サービスを改善するための提案も行います。
もし応募者の動機適合が、採用/不採用の決定において重要な要素として考慮されなかった場合、何が起こるでしょうか?入社後のオンボーディングやスキルアップに投資しても従業員の期待は満たされず、不満が募り、1年以内に退職してしまうことがよくあります。あるいは、不満を抱いた従業員がとどまったとしても、そのパフォーマンスは低下します。
その結果、業績不振の改善に時間を費やすか、その従業員を解雇して別の人材を雇うことになるでしょう。その間に、時間、人的投資、生産性が失われます。退職に伴う多額のコストは言うまでもありません。 組織は、仕事の要件と従業員の希望との間の「ミスマッチ」をなくすために、多くのリソースを費やすことになります。したがって、最初に時間をかけて動機適合を確認し、適切な人材を確保することが必要なのです。
7.動機適合を見極める面接の質問
動機適合を見極めるための面接とはどのようなものでしょうか?まず面接チームは、職務に精通した専門家が特定した業務、組織、勤務地の適合特性に基づいて、動機適合のプロフィールを作成することから始めます。これは、従業員の仕事満足度(および不満足)と定着率にとって最も重要です。
次に、応募者に対してこれらの特性に焦点を当てた質問を行います。その後、面接官は応募者の過去の志向や仕事観と、職務の動機適合のプロフィールを比較し、一致する項目・一致しない項目を洗い出します。
タレントマネジメントの専門家は、応募者の過去の経験に焦点を当てた行動面接が、将来のパフォーマンスと定着率を予測するための最良の情報を与えてくれるという意見で一致しています。行動面接に動機適合を確認する質問を加えるのは簡単ですが、知識、経験、コンピテンシーを網羅しようとすると、動機適合は軽視されがちです。
そこでMSC/DDIでは、インタビューガイドを作成し、面接官に対して動機適合を見極める質問のトレーニングを行うことで、正確な評価を下すための情報を素早く収集できるようにしています。この方法は、面接が対面でもオンラインでも有効です。
動機適合を見極めるには、次のような質問をします。
8.職務適合に関する質問例
職務適合を見極めるのに役立つ質問例をご紹介します。
これらの例には、誘導尋問や理論的な質問が含まれていません。もしあなたが応募者で、「私たちのチームは速いペースで仕事をしていますが、そのような環境で働くのはどうですか?」と質問された場合、どのように答えますか?この質問は面接官が期待する「正しい」答えに誘導しており、あなたは「ぜひそういう環境で働きたいです」と答えるかもしれません。
しかし、面接官が本当に知りたいのは、締め切りの厳しい状況であなたが実際にどのように感じるかです。これを知るためには、過去の満足度や不満足度に関する情報が必要です。
面接では、応募者の過去の仕事経験に対する満足度や不満足度に焦点を当てた自由形式の行動質問をするように心がけましょう。そして、応募者の希望や過去の経験を収集し、それらを職務のプロフィールと比較して一致する点と相違する点を見極めます。この一致と不一致の数と強さを基に、職務、組織、勤務地への適合性を評価します。
9.コミットメントを見極めるための質問
面接の過程では、応募者の長期的なコミットメントを予測するための情報を収集する機会が多くあります。まず、履歴書や職務経歴書を確認し、在職期間や転職の傾向を見ましょう。次に、過去の退職理由を明確にする質問を行い、職歴に空白期間がないかを確認します。その際、先入観をもたずに詳細を尋ねることが重要です。過去のキャリアにおける決断は、応募者の優先事項や好みについて、他では得られないような貴重な情報を提供してくれます。
面接官が応募者の仕事観に関する情報を収集する際には、応募者もその職務が自分の動機に合うかどうかを判断できるよう、情報を共有する必要があります。応募者が客観的に判断を下せるよう、職務、組織、勤務地に関する十分な情報を提供してください。これにより、入社後に期待通りにならなかった場合の離職のリスクを大幅に減らすことができます。
10.動機適合を見極める面接で採用の精度を高める
採用決定は、応募者にも雇用者にも重要な双方向プロセスです。応募者の希望と職務の特性が確実に一致すれば、双方に有益な結果が得られます。両者は大きなリスクと報酬を伴う重要な長期的決断をしているのです。その決定が持続可能であるためには、相互に利益をもたらすものでなければなりません。
雇用者にとっては、職務特性と本人の希望が最も合致する人材を選ぶことが、長期的な成果につながる最大の利益となります。同時に、応募者は、職務の現実的な側面を理解し、十分な情報を基に意思決定を行うことが大切です。
動機適合を見極める面接は、こうした双方の目標を達成する手段となります。また、応募者が気づきにくい職務の特長をアピールするよい機会でもあります。貴社特有の動機付け要因は、競合他社の求人との差別化を図るうえで強みとなる可能性があります。競争の激しい労働市場において、動機適合は応募者にとっても採用する組織にとっても、ますます重要な要素となります。
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13.会社概要
会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント