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【小説】都市伝説STF

【小説】都市伝説STF

お題:ステップオーバー・トーホールド・ウィズ・フェイスロック

 こんな都市伝説、聞いたことある? 『STFを一発で完璧にキメられると、願いが何でもひとつ叶う』って話。STFっていうのは、正式名称で『ステップオーバー・トーホールド・ウィズ・フェイスロック』というプロレス技で、蝶野が使う絞め技。元祖とか原型とか、裏型、新裏型とかいっぱい種類があるらしいんだけど、とにかくSTFを完璧にキメる、これがポ

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【小説】バニラムーン

【小説】バニラムーン

お題:電子タバコ
 小さな月が差し込むような部屋だった。顔と顔が見えるくらいの暗さに、網戸から映り込む向かいのアパートの外廊下の明かりが星のように瞬いている。私の匂いがしないのに知っているような既視感があるのは、何度も夢で見たことがあるからかのか、それともあまりにも絵画的な光景だからなのか、どっちでもよかった。
「ここで吸ってもいいよ」
 小さな音がして、くすんだ灰皿が目の前に現れる。
「匂うの嫌

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【小説】忘れもの

【小説】忘れもの

 これを読んでいる頃には、私はこの世に別れを告げているでしょう。何故、最後の手紙の出だしはこれが定番なのでしょうね(笑)
 こういうのは好きではないのですが、貴方が決まりは守るべきだと言っていたので、たまには従ってみようかと思います。

 貴方と診察室で出会った時のことはよく覚えています。同じ考えの人がいた安堵と、こんな考え方は間違いだという理性。私は立場上、否定しか言葉にはしませんでした。今更で

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【小説】星の狭間をかき混ぜて

【小説】星の狭間をかき混ぜて

お題:夏の終わり

 運命なんて、信じない。全ての事象は自分が選んだか、選ばれたか、それだけ。
 どっかの詩人が『自分の前に道はない、自分の後ろに道はできる』なんて書いてたけど、本当にその通りだ。振り返ったからやっとわかるだけ。今いる場所がいいかどうかも、過去になってしまったものからしか導き出せないから。

 昔、仲の良かった男友達がいた。同じようなスイミーのTシャツを、それぞれ買ったとも知らずに

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【小説】鏡合わせの行き末に

【小説】鏡合わせの行き末に

お題:さよならは一度だけって言ったよね

「今日は帰らないって、本当に彼女心配しないの?」
「そういうの気にするタイプじゃないから」
 とか言ってラブホでする会話じゃないでしょ、なんて野暮なことは言わない。
 この部屋に必要なのは、無駄に高値なアルコールと何回か使ったらぶっ壊れる名入りライター、あと酔った勢いって口実だけ。あとマルボロとだらしない快楽も。
 本当にそれだけでいい。一番必要なのは“求

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【小説】#たこ焼きハント

【小説】#たこ焼きハント

お題:たこ焼き
 目覚めたら、顔がのっぺらぼうになったと思いきや、まさかのたこ焼きになっていた。
 鏡で見たところ、素のままーーソースもトッピングが何もされていないーーがデフォルトらしい。嘘だろ、と思わず呟き、冷や汗をかいたと思ったら、ソースが滲み出てくる。というか、なんで見えてるんだ。普通に声も出てるし。とにかくよくわからないが、顔だけがたこ焼きの謎生物となってしまった。
 この姿で外に出ても、

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【小説】信者イヤー

【小説】信者イヤー

「来年もこうして、夜景役なんですかね〜、私たちは」
 ため息まじりに煙を吐くと、思ったよりも真っ白だった。さっき開けたばかりの缶コーヒーは、外気にさらされてあっという間にぬるくなる。
「まあそんなもんだよ、この業界は」
 ここはまだ、ホワイトな方だし。
 先輩の口から吐き捨てるように出た言葉と一緒に、水を張ったゴミ箱へ吸い殻が吸い込まれていく。ジュッ、と小さく鳴いたそれは、私たちの命にとても似てい

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リッチブラック・ラプソディ

リッチブラック・ラプソディ

「好きとか性欲とか、全部外注できちゃえばいいのに」
「じゃあ俺に発注すればいいよ」
 彼との関係を語ろうとしたら、二言で終わってしまう。発注側と外注側。あくまでWin-Winの関係だったと、今でも信じたい。

 男女の関係よりも、もっとビジネスライクな付き合いだった。かといって、ATMのような事務的手続きだったと言われたら違う。べっこう飴の上澄みだけをひと舐めするような、それくらいの甘さだけを、何

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ショートショート「つよみとうまみ」

何も考えたくない夜は、決まってポトフをつくると決めている。誰に教わったのか、テレビで見かけただけなのかは覚えていない。ただ「料理中は目の前の食材のことと美味しくなることだけを考えればいい」って言ってたのが、すごく印象的だった。玉ねぎをザクザクと刻むと、当たり前だけど涙が止まらなくてホッとする。いつから泣けなくなったのか。泣かない強さよりも、今はなりふり構わずすがることが本当の強さなのだと思ってしま

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距離感

 デートの前って緊張する。約束の五分前、私は鏡の前に立つ。お化粧はこれで大丈夫、汗で崩れていない。服も昨日お店で駆けずり回って買った水色のワンピースと赤い靴。店員さんも「お客様のためにあるような服と靴ですね~」と言ってくれた。勿論、リップサービスだろうけど。くるりと一回転して全身をチェック。ニッコリ微笑めば赤い唇の私が可愛く微笑み返す。今日も完璧な、はず。ああ、髪型を忘れていた! 慌てて確認すれば

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