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【小説】都市伝説STF


お題:ステップオーバー・トーホールド・ウィズ・フェイスロック


 こんな都市伝説、聞いたことある? 『STFを一発で完璧にキメられると、願いが何でもひとつ叶う』って話。STFっていうのは、正式名称で『ステップオーバー・トーホールド・ウィズ・フェイスロック』というプロレス技で、蝶野が使う絞め技。元祖とか原型とか、裏型、新裏型とかいっぱい種類があるらしいんだけど、とにかくSTFを完璧にキメる、これがポイントなんだって。

 うちの家、生まれた時から子沢山貧乏だったから、大人になったら絶対金持ちになってやるって決めててさ。小学校5年生の時にその話を聞いて、これだ! と思って飛びついたんだよね。だから、めっちゃ練習した。ボロボロの座布団を人に見立ててやったり、時には毛布をぐるぐる巻きにして人の太さに見立てて練習したりさ。本当は兄弟相手にやりたかったんだけど、まあかわいそうだし、一発でキメなきゃって思ってたから、人以外でとにかく練習した。一時は朝起きて一回、学校へ行っている間にイメトレ、帰り道はダッシュで帰って、飯と風呂と睡眠時間以外はSTFにかけてた。今だと笑っちゃうくらい馬鹿な話だけど、本当に信じてたんだよ。
 高校卒業する直前かな。やっと思った通りにいけるって確信して、友達に土下座して頼み込んで、やっと実行した。やっぱり毛布とは違うけど、今までずっと取り組んでいた謎の自信と、よくわからない興奮で、それは見事に一発でキメられたのよ。「金持ちになりたいんだーッ!」って叫びながらさ。
 そしたら、それを他の友達が撮ってていつの間にかTwitterにアップされて、めっちゃバズったんだよね。結果、そこから声がかかって、紆余曲折あってこうして正式にプロレスラーとして今リングに立っているわけですよ。

 こんな感じでいいっすかね? え、嘘だろ? 信じるかどうかはおまかせしますよ。
 ただ、ファイトマネーで夢は叶いましたから、どうです、あなたもやってみたら願いが叶うかもしれませんよ?

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