見出し画像

アガサ・クリスティー『パーカー・パインの事件簿』紹介と再読感想

アガサ・クリスティ 山田順子訳『パーカー・パインの事件簿【新訳版】』東京創元社, 2021

アガサ・クリスティー・アワーを再見したため、シリーズ内でドラマ化されたパーカー・パインも再読しました。

また、パーカー・パインは個別短編集の他に2編の短編があり、早川書房では『パーカー・パイン登場』と『黄色いアイリス』に分かれて収録されています。
東京創元社の『パーカー・パインの事件簿【新訳版】』では、この別に収録されていた2編も合わせて1冊に納めておりクリスティーによる前書きもあるため、シリーズ短編のみが目的の場合はこちらを選択すると1冊で全て読む事が出来ます。


収録短編あらすじ

Are You Happy? If Not Consult Mr. Parker Pyne(1932)

中年の妻の事件
マリア・パッキントンは、夫のジョージが若い女に夢中になっていることで、怒りと同時に孤独を感じていた。そんな時、パイン氏の新聞広告を見て、物は試しと訪ねてみることにした。

無聊をかこつ少佐の事件
ウィルブレアム少佐は東アフリカから英国へ帰ってきてから退屈な日々を過ごしていた。そこで、パイン氏の事務所を訪れて、退屈を取り除いてもらいたいと依頼した。パイン氏は依頼を引き受けるが、それには危険が伴うと忠告する。

悩めるレディの事件
ダフニ・セントジョンという女性がパイン氏を訪ね、友人のナオミが所有しているダイヤの指輪を盗んでしまったので、何とかバレずに返却したいと依頼をした。パイン氏は、クロードとマドレーヌをナオミの家へ潜入させる。

不満な夫の事件
レジナルド・ウェイドは、妻が別の男と結婚するために自分と離婚しようとしていることに悩んでいた。彼は、まだ妻が好きなのだ。パイン氏は、他の女性に目を向けた事が無いというレジナルドに、ある作戦を提案する。

ある会社員の事件
ミスター・ロバーツは、妻や子どもと一緒に堅実な暮らしをしていた。48歳になったロバーツは、自分は恵まれていると思いながらも、普段の日常とは違う心躍る体験をしたいという気持ちがあった。妻と子どもが妻の実家へ行っている間にパイン氏の事務所を訪れたロバーツへ、パイン氏はある任務を依頼する。

大富豪夫人の事件
ミセス・アブナー・ライマーは、お金の使い道を教えて欲しいとパイン氏の事務所を訪れた。ありあまる程のお金があるが、夫が亡くなってから人生が退屈でしょうがないのだという。果たして、前金として千ポンドを貰ったパイン氏が仕掛ける作戦とは……。


The Arabian Nights of Parker Pyne (1933)

ほしいものはすべて手に入れましたか?
エルシー・ジェフリーズは、夫に会いに行くために乗ったイスタンブール行の列車の中でパーカー・パインを見つけ、夫が使っていた吸い取り紙に残っていた奇妙な文言について相談してみることにした。

バグダッドの門
バグダッドへの旅は、パイン氏を含め様々な国籍の人間が参加していた。その頃、ロンドンでは背任横領の罪で出廷を求められていたサミュエル・ロングが逃亡したらしい。その夜、ある街の《夜の歓楽街の館》で、同行者のスメサーストが悩んでいるのを知ったパイン氏。次の日のバスの中で、スメサーストは死んでいた。

シーラーズの館
シーラーズへの旅の途中、パイロットのヘル・シュラーガルから、現地で暮らし、同国人を寄せ付けない変わった英国人の女の話を聞いたパイン氏。最初は二人だった女は、ある日一人が死んでしまった。少し情報収集をしたパイン氏は、自身の新聞広告を入れた手紙を女性に送ってみると、館に招待された。

高価な真珠
ペトラ中心部の野営地に6人の男と1人の女からなる旅行者がいた。次の日の、キャロル・ブランデルの耳に着いている真珠のイヤリングが片方だけ紛失した。全員の身体検査をしたにも関わらず見つからない真珠は、一体どこに……。

ナイル河の死
ナイル河下りの船には、パイン氏の他にレディ・アリアドネ・グレイル一行が乗っていた。横暴なアリアドネを中心に複雑に絡み合う人間関係。パイン氏は、アリアドネから夫に毒を盛られているので証明して欲しいと依頼される。しかし、その直後にスリリキニーネで毒殺されるアリアドネ。犯人は、虐げられていた夫なのだろうか。

デルフォイの神託
ミセス・ピーターズはギリシアに興味が無かったし、デルフォイのホテルにも満足できなかったが、溺愛している息子の為に我慢していた。ある日、その息子を誘拐したと脅迫状が届いた。途方に暮れたミセス・ピーターズのもとに、ある広告の切り抜きと一緒に手紙が届いた。


ポーレンサ入江の出来事(1935)
旅行でスペインのマヨルカ島へ行ったパイン氏は、同じホテルに泊まっている英国人のチェスター夫人から悩みを話したそうな空気を感じて偽名を使った。しかし、知人と出会ったことであっさり正体がバレたパイン氏は、夫人の息子・バジルの女性問題について相談を受けることになってしまう。

レガッタレースの日の謎(1939)
アイザック・ポインツが取り出した《明けの明星》と言われるダイヤ。イーヴが盗んでみせると挑発し、みんなの間を一巡する間にダイヤは消えてしまった。しかし、イーヴは盗んでいないという。さて、相談を受けたパイン氏はダイヤを見つけられるのか。

※ポワロを主人公として掲載された作品「ポワロとレガッタの謎」(1936)を、経緯は不明ですがパインものに書き直した作品になります(ポワロver.は論創社『十人の小さなインディアン』で読めます)。


紹介と感想

まさに雑誌に乗っていると軽く楽しめるタイプの作品で、昔から結構好きなシリーズです。
もっと色々な作品が読みたかったし、上手な二次創作や連ドラを観てみたいと改めて思いました。

特に前半の悩み相談編は、準レギュラーとして秘書のミス・レモン、脚本担当のアリアドニ・オリヴァ、作戦を実行する際の役者として働くクロード・ラトレルとマドレーヌ・ド・サラなど、パインの仲間たちが少ない出番の中でも印象に残る活躍をするため、キャラクターものとしても楽しめます。


お気に入りをあげると、
悩み相談編からは、ちょっとした冒険の面白さと日常の幸せの再発見を描いた「ある会社員の事件」
何事も過ぎたるは及ばざるが如しであり、自分の本質は変わらないものだということを感動的に描いた「大富豪夫人の事件」

旅行編からは、ポワロが主人公でも良いと言われがちな旅行編において典型的なイギリス人という雰囲気のパイン氏だからこそ説得力が生まれた「シーラーズの館」
旅行編最後の短編だからこその構成が光る「デルフォイの神託」

そして、悩み相談編と旅行編の両方の要素があり、連ドラ後のスペシャルドラマの趣がある「ポーレンサ入江の出来事」となります。

 あなたは幸せですか? 幸福でないかたはパーカー・パインにご相談ください。
 リッチモンドストリート十七番地。

「ばかみたい! ほんとうにばかばかしいわね」そしてまたつぶやく。「でも、どんなものなのか、ちょっと行ってみるだけなら……」

アガサ・クリスティ 山田順子訳『パーカー・パインの事件簿【新訳版】』東京創元社, 2021, p.13
パイン氏の広告を読んだミセス・パッキントンの反応

『アガサ・クリスティー・アワー』(1982)での映像化について

第1話「中年夫人の事件」
 脚本:フレダ・ケルソール
 演出:マイクル・シンプソン

マライア・パキントン/グウェン・ワトフォード
 クロード・ルトレル/ルパート・フレイザー
ジョージ・パキントン/ピーター・ジョーンズ
      ナンシー/ケイト・ドーニング

第5話「不満軍人の事件」
 脚本:T.R.ボウエン
 演出:マイクル・シンプソン

チャールズ・ウィルブレアム/ウィリアム・ガント
   アリアドニ・オリヴァ/ラリー・バワーズ
   マデレーン・ド・サラ/ベロニカ・ストロング
    フリーダ・クレッグ/パトリシア・ガーウッド

 両話とも出演
 パーカー・パイン/モーリス・デナム
   ミス・レモン/アンジェラ・イースターリング

パーカー・パイン役のモーリス・デナムは、1965年の映画『ABC殺人事件』でジャップ警部を、ジョーン・ヒクソン版『パディントン発4時50分』でルーサー・クラッケンソープを演じています。
また、グウェン・ワトフォードはジョーン・ヒクソン版『書斎の死体』『鏡は横にひび割れて』でドリー・バントリーを演じています。

『アガサ・クリスティー・アワー』の他のドラマ化作品と同様に、物語の筋は原作に忠実ながら、筋を更に活かすための描写を足して見ごたえのある内容に仕上げています。

初めて観た時は、パインが自分の想像より明るい人物で少しびっくりしましたが、再読時にパインって結構はっちゃけた人物だと認識を新たにしました。
そして、このパインと、サポート能力抜群のミス・レモンの組み合わせが結構好きなのです。

どちらのドラマも面白いものになっているので、このキャストのままでシリーズ化して欲しかったと思ってしまいます。

いいなと思ったら応援しよう!