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銭形平次捕物控36「八人芸の女」(1935)+大川橋蔵・主演 第23話「闇夜の目」(1966)紹介と感想

野村胡堂『銭形平次捕物控(二)八人芸の女』嶋中書店, 2004, p268-305


あらすじ

最近噂の若い女と腕利きの侍の二人組の強盗『疾風』。
その巧妙な手口で次々と盗みを成功させ江戸中を震え上がらせていた。
遂に平次の縄張りにも現れ、あろうことか盗んだ金の一割を平次の家へ投げ込んできた。
八五郎が調べてきたのは、尤も怪しい人物二人と怪しくない人物二人。
平次は、事件の舞台に現れる八人芸の女・お島に接触を計る。

紹介と感想(ネタバレあり)

凛々しい女性の生き方と平次の心持ちが光る一篇です。
盗んだ金を投げ入れるのは、平次への挑戦と思われるほどの凄腕の疾風ですが、事件の裏には善性に包まれた思いがありました。

凄腕の人間が相手なため、差塩のシーンには平次の投げ銭もあります。
物語のバランスが良いため、読み終わった後に一定の満足感が感じられる、結構好きな話です。

また、お島は1950年発表の第239話「群盗」に再登場しています。「群盗」は今作から3年後を舞台にした直接の続編となります。

「親分、とうとう神田へ入って来ましたぜ」
「何が? 風邪の神かい」
 その頃は江戸中に悪い風邪が流行って、十二月頃から、夜分の人出がめっきり少なくなったと言われておりました。
「いえ、風は風だが、あの『疾風』と言われている強盗で……」

野村胡堂『銭形平次捕物控(二)八人芸の女』嶋中書店, 2004, p268


映像化作品

1939年に梅江田譲次・主演で同題の映画が公開されていますが、残念ながら未見です。

大川橋蔵・主演 第23話「闇夜の目」(1966)

骨格は原作に沿っていますが、原作よりも謎解き味を薄めて人情方面を強化した作りになっており、人間関係も一部追加・変更があります。

原作では物語後半まではお島以外の容疑者はあまり話題に上りませんが、ドラマでは序盤から怪しい複数の容疑者について調べる流れになります。

原作では台詞の中でしか出番がなかった万七親分も、状況説明を兼ねて原作通り誤認逮捕を見せてくれます。そして、最後は平次へ嫌味を言いに家まで訪ねてくる仲良しぶりです。

平次親分は、最後の捕物で十手クルクルからの銭連続投げがカッコ良かったです。

原作にも要素としてあった、〈武家として堅苦しい考えに囚われて生きる苦しさ〉という部分を膨らませたような内容になっています。
原作と物語としての狙いは違いますが、人情系捕物帳として面白い話しでした。

「お侍の家に育った者たちはそうだ。家だの、面目だのに囚われて、真の心をどこかへ置き忘れてしまう。まったく、かたっくるしくていけねぇや」
「そうでしょうか」
「もっと自由に楽しく生きたほうがいい。歯がゆく思います」

大川橋蔵・主演 第23話「闇夜の目」(1966)より
平次からお島への言葉

ゲスト
  
お島/楠 侑子
森 右門/美川陽一郎
  お通/加藤水夏
  新三/嶋田景一郎

大川橋蔵版レギュラーキャスト(当話出演者のみ)

銭形平次/大川橋蔵

  八五郎/佐々十郎
   お静/八千草薫

三輪の万七/藤尾 純
   清吉/池 信一
笹野新三郎/神田隆


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