ネロ・ウルフ長編26『母親探し』The Mother Hunt(1963)紹介と感想
レックス・スタウト 鬼頭玲子訳『母親探し』論創社, 2024
2014年から論創社から出ているレックス・スタウトのネロ・ウルフシリーズ。
今年の作品は、ドラマ化された作品は日本でも放送されましたが、原作としては日本初訳になります。
あらすじ
六月初旬の火曜日、ルーシー・ヴァルドンから受けた依頼は、家の前に置き去りにされていた赤ん坊の母親を見つけること、九か月前に亡くなったリチャード・ヴァルドンが父親である可能性を明らかにすることだった。
わずか三日で赤ん坊を一時預かっていた女性、エレン・テンザーを見つけ出したが、アーチーが接触を図った直後に失踪してしまった。
更に、時を置かずしてエレン・テンザーが絞殺体となって発見される。
その後も、ソール達の協力を得ながらも遅々として進まない母親探し。
果たして赤ん坊が置き去りにされた理由とは……。
紹介と感想
赤ん坊の母親探しというウルフとしては変わった依頼から始まった事件は、当然のように殺人事件となっていきました。
しかし、大っぴらに殺人事件を調べるとクレイマー警視に母親探しと殺人を結び付ける根拠を与えてしまうため、表向きは母親探しをメインに行っていく事になります。
そんな厄介な事件を持ち込んだ依頼人は、アーチーと良い仲になっていくことで、ただでさえ仕事をやらされているウルフへ余計なストレスを与えていく事になりました。
多くの女性と仲良くなるアーチーですが、今回はその入れ込み具合が違います。幸いなのか、リリー・ローワンが不在だったので良かったです。
謎解き部分はかなり弱い本書ですが、キャラクター主導の軽妙な私立探偵小説としての面白さがあり、ドラマ化の原作に選ばれた理由も分かります。
基本的にはアーチーを中心とした母親探しの調査がメインの展開となります。
ソール、フレッド、オリーなどのレギュラーキャラクターが多数登場しますが、今回のMVP探偵はサリー・コルベットでしょう。
彼女が加わった作戦が描かれる第十二章~第十三章の部分が、本書の捜査でも特に面白い部分になります。
また、ウルフが40分かけて作ったスクランブルエッグを食べたくなりました。
シリーズ初心者でも雰囲気が好きなら楽しめると思いますが、基本的にはシリーズキャラクターのやり取りが好きな人に向けたファン向けの作品になると思います。
次回は、これまた『グルメ探偵ネロ・ウルフ』でドラマ化されている未訳長編 Prisoner's Base(1952) になるようなので楽しみです。
映像化
ティモシー・ハットン主演『グルメ探偵ネロ・ウルフ』A Nero Wolfe Mystery(2000~2002/米)
シーズン2 第5話「マザー・ハント」Motherhunt(2002)
原作に忠実な映像化ですが、ウルフの出番を増やしたり、ドラマとしての展開を考えたエピソード変更はあります。
また、ルーシーのキャラクターが原作とは少し印象が変わっており、環境問題の活動家の側面も追加されています。
ウルフが完璧なスクランブルエッグを作る様子も再現されていたのは面白かったです。
忠実な映像化になるので、物語的には原作以上の見どころはありません。
しかし、追加されたキャラクター描写などに良い部分があり、特に警察車両にウルフを乗せようとしている時のクレイマーの笑顔が印象に残ります。
ドラマ概要
脚本/シャロン・エリザベス・ドイル
演出/アラン・スミシー
時間/94分
キャスト
ネロ・ウルフ/モーリー・チェイキン(前島貴志)
アーチー・グッドウィン/ティモシー・ハットン(西田絋二)
クレイマー警部/ビル・スミトロヴィッチ(安元洋貴)
フリッツ・ブレナー/コリン・フォックス(斉藤隆史)
ソール・パンツァー/コンラッド・ダン(小原雅一)
フレッド・ダーキン/フルヴィオ・セセレ
オリー・キャザー/トレント・マクマレン
ロン・コーエン/ソール・ルビネック
ルーシー・ヴァルドン/ペネロープ・アン・ミラー(渡辺智美)
マニュエル・アプトン/リチャード・ウォー
ウィリス・クリュッグ/ボイド・バンクス
ジュリアン・ハフト/スティーブ・クミン
レオ・ビンガム/ジェームズ・トルーカン
サリー・コルベット/マノン・フォン・ゲルカン
ネロ・ウルフ長編既読リスト
読んだことがあり印象に残っている作品について記録しておきます。
☆はお気に入り、〇は☆ではないけど面白かった作品です。
01.毒蛇(1934)
〇02.腰抜け連盟(1935)
03.ラバー・バンド(1936)
☆04.赤い箱(1937)
☆05.料理長が多すぎる(1938)
☆06.シーザーの埋葬(1939)
〇07.我が屍を乗り越えよ(1940)
☆14.編集者を殺せ(1951)
17.ザ・ブラック・マウンテン(1954)
19.殺人犯はわが子なり(1956)
☆22.殺人は自策で(1959)
〇26.母親探し(1963)
〇28.ネロ・ウルフ対FBI(1965)
33.ネロ・ウルフ最後の事件(1975)