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若さま侍捕物手帖・長編04『おえん殿始末』(1955)+大川橋蔵主演・若さま第3作目 紹介と感想

城 昌幸『おえん殿始末 若さま侍捕物手帖』講談社, 2021(電子書籍)


あらすじ

お中﨟歌川の局・おえんの方に仕えるおみよは、歌川の実家・駿府台へ口上を承って来いと言いつけられたが、駕籠は見知らぬ屋敷で止まった。
美しい児小姓に顔見知りの女形、怪しい気持ちを持ちながらも酒を進められるままに飲んでいると、伝三という見知らぬ男が忠告に飛び込んできた。
しかし、その伝三の背後で刀が振り下ろされる。

場所は飛んで、船宿・喜仙では、遠州屋小吉が若さまへ奇怪な事件を持ち込んでいた。
お中﨟歌川の局・おえんの方に仕えるおいくが、何かを恐れながら一人で歩いて実家に帰ってきたその日、天から矢が飛んで来たとしか思えない方法で殺されたのである。
おいくは、土蔵の鉄の桟格子のある高窓から打たれたと考えられたが、その土蔵は河岸っぷちにあり、梯子も立てかけられないようなところにあるのだ。

殺人を病死や自殺にしようとする輩に、若さまの笑いと弁舌が颯爽と飛ぶ。
大奥を巻き込んだ将軍の世継ぎ争いに端を発した一大陰謀に立ち向かう人々を描く一大巨編。

紹介と感想

事件は豊臣家再興を狙う人物による、大掛かりな陰謀でした。
そんな勝手な欲望に晒され、多くの女心が弄ばれましたが、偽りの言葉では最後まで騙しとおすことができませんでした。

今回の若さまはどこか妖精のような存在で、いつの間にかあちこちに出没し、その触媒により他の人間が各々の考えのもとに動き出す、ということが繰り返されます。
妖精の若さまは自ら刀を抜くことはせず、盟友・本多平八郎が代わりに悪人を斬りまくります。

物語の途中から印象が変わる人物が多く、特に小笹、お蝶、伝三あたりが印象に残ります。
小笹は、物語の最初に出て以来暫く出番がありませんが、物語後半になると素晴らしく印象に残る活躍を見せる為、本作品でも特に好きになりました。
お蝶と伝三は、決して良い人ではないけど、それでも憎めない人達で、これからは命にかかわるような悪さには手を出さずに、仲良くケンカしながら生きて欲しいと思います。

もちろん、いつものレギュラーである遠州屋小吉も、しっかり頑張っていました。

犯人一味は、他者の気持ちや生命を全て自分達の道具としか思わない人達でした。
他者も自分と同じように恋をしたり、欲を持っているという、基本的な事に目を向ける事ができれば、違ったのかもしれません。
作中、若さまが何度か悪事から手を引くように直接伝える場面がありますが、引くことができない人間の末路がありました。

犯人一味もすぐに明かされ、ミステリー的な興味はほぼありませんが、陰謀に立ち向かう人たちを描いた娯楽時代冒険小説として楽しませてもらいました。

物語の最後に、おいく殺しと父・宗兵衛のエピソードに戻ったら、大きな事件は全ては一人の殺しから露見したということで、話としても人情としても締まりが更に良くなった気がするので、そこは惜しいです。

「色恋と言うもの、とかく嘘が多いな。あまり、夢中にならぬがよかろう、とは言うものの夢中にならぬと面白くはなし」

城 昌幸『おえん殿始末 若さま侍捕物手帖』講談社, 2021, 「なすな恋 十」
色恋に関する若さまの意見

二人が膝まずいていると、その前を供の女中たちが過ぎて行ったが、みんな、それとなく、この妙なお庭番の顔を、ちらりと見ていった、そして、上様に、よう似ていると思った。

城 昌幸『おえん殿始末 若さま侍捕物手帖』講談社, 2021, 「旋風 十二」
お庭番に扮した若さまを見た女中達の感想

大川橋蔵主演03「若さま侍捕物帖 魔の死美人屋敷」(1956)

原作に沿った物語が展開されます。
原作における物語の前半部分を丁寧に描くので、中盤から後半の物語は、原作から若さまが出る所をメインに、いくつかの章を抜き出してコンパクトに再構築した感じの物語となっています。

周囲の人の若さまのいない所での出番は、物語に必要な部分以外は基本的に全てカットされ、若さまも妖精ではなく、ヒーローとして存在しています。

そのため、一人一人のキャラクターの印象が薄まっており、話の展開や感情の変化が急すぎるかなと感じますが(特にお蝶や忠弥の辺り)、映画だけ観てそう感じた場合は、描かれていない所で色々あったんだなぁと思ってください。
また、原作と同じくおいく殺しと父・宗兵衛が、物語の発端以上のものではなかったのも残念な所でした。

ただし、一本の娯楽映画としては、動き出したら考える暇もなく物語が動き出し、程よい所でアクションシーンも挟まるため、楽しい気持ちのまま飽きずに観ることができます。

この時代の娯楽シリーズは、主演以外は作品によってレギュラーキャラクターでも役者が変わる事が多いため、前作と主要キャラ3人のキャストが一緒であり、若さまのテーマソングなども変わらず流れる、シリーズものとしての良さもありました。

大川橋蔵の殺陣も、前作からわずか数か月ながら、しっかり上達しているのが感じられ、その流石の成長の早さを感じられます。

高岡に対峙した遠州屋に向かって、「こいつ、出来るぜ。お前、斬られるぜ」と笑顔で言う若さまがかわいかったです。その後の、若さまと高岡がお互いに向かい合っただけで、実力を見抜き合って斬り合いにならなかったのも良かった。

総じて、展開が早すぎて物足りなさもありますが、前作よりスッキリとまとまっており、何も考えずに90分間楽しめる作品になっていました。

原作との主な違い(ネタバレあり)

・原作では最初しか出番がなかった文次郎も殺される。
・若さまと用心棒・高岡の間に原作にはない、お互いを認め合う絆ができ、これが後半の展開に繋がっている。高岡の正体も変更になっているため、原作の粗野な感じが無い実力重視の侍という感じが強くでていた。
・喜仙に刺客が押し込み、喜仙内で飄々と戦う若さまが観られる。かっこいい。
・将軍の鷹狩りイベントはなく、代わりに貞代の方が安産祈願の参詣途中を襲われ形になり、一味の行動を読んでいた若さまが颯爽活躍になっている。
・小笹が全面カット、悲しい。
・ちなみに、鍵屋の重蔵、本多平八郎、将軍や川村など色々と出ていない。
・その他、女形の路之助や増山は、個別エピソードが無くなったため、出番も印象も割を食った感じ。増山が路之助を弓で滅多打ちにしながら、憎しみと愛情が入り混じって背徳的な気持ちを感じるシーンはちょっと見てみたかったかも。

キャスト

  若さま侍/大川橋蔵

   おいと/星美智子
 遠州屋小吉/星十郎
 佐々島俊蔵/沢田清
   とん平/花沢徳衛

    お蝶/千原しのぶ
   おみよ/丘さとみ
    忠弥/江原真二郎
阿部伊予之助/竜崎一郎
    和尚/岡譲司
   永井保/立松晃
    増山/鳳衣子
野ざらし伝三/山茶花究
  高岡雄助/清川荘司

映画概要

「若さま侍捕物帖 魔の死美人屋敷」(1956)
原作:城 昌幸『おえん殿始末』
脚本:村松道平
監督:深田金之助
時間:90分

東映・大川橋蔵主演シリーズ作品リスト
01「若さま侍捕物手帖 地獄の皿屋敷」(1956)原作:『双色渦紋』
02「若さま侍捕物手帖 べらんめえ活人剣」(1956)原作:『双色渦紋』
03「若さま侍捕物帖 魔の死美人屋敷」(1956)原作:『おえん殿始末』
04「若さま侍捕物帖 鮮血の晴着」(1957)原作:「五月雨ごろし」
05「若さま侍捕物帖 深夜の死美人」(1957)原作:「だんまり闇」
06「若さま侍捕物帖 鮮血の人魚」(1957) 原作:『人魚鬼』
07「若さま侍捕物帖 紅鶴屋敷」(1958)原作:「紅鶴屋敷」
08「若さま侍捕物帖」(1960)
09「若さま侍捕物帖 黒い椿」(1961)
10「若さま侍捕物帖 お化粧蜘蛛」(1962)


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