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十津川シリーズ長編3『消えたタンカー』(1975)紹介と感想

西村京太郎『消えたタンカー』光文社, 1983

まだ読んだ事の無かった初期の十津川を読んでみました。

西村京太郎はドラマの方がお馴染みで、原作は、十津川シリーズ長編5作程度と中短編数作、名探偵シリーズ全4作、左文字シリーズ数作、『殺しの双曲線』などのノンシリーズ数作程度しか読んでない初心者になります。


あらすじ

インド南端から1000キロの沖合で58万キロリットルの原油を運んでいたマンモスタンカーが炎上した。
近くを通っていた船に救助されたのは乗務員32名中、宮本船長含む6名のみだった。
それから一週間後、宮本船長が散歩ルートにある崖下で死体となって発見される。
責任を感じての自殺と思われたが、警視庁に6名の生き残りを殺害するとの予告状が届いた。
不審に思った捜査一課長は、十津川警部補に内密に捜査を行うように依頼した。
十津川が調べ始めると、宮本船長はブラジルへの移住を考えていたことが分かり、更に同じく救助された船医の竹田がブラジルへ移住した。
その後も、日本に残っていた4名とその家族が次々と殺されていく。
果たして、タンカー炎上の裏に隠された秘密とはなんなのか、姿の見えない殺人者の正体は……。


紹介と感想

長編だけで300冊を超え、中短編の数もかなりの数にのぼる十津川シリーズの第3作目になります。


十津川について
今回の事件は、十津川が警部補で独身、まだ海洋関係の事件を多く手掛けている時代です。

初期作なので十津川のキャラクター説明もしっかりされていました。少し長いですが引用させてもらいます。

 十津川には、さまざまなアダ名がついている。ある人は、タヌキといい、ある人は狼と呼ぶ。タヌキというのは、たぶん、彼のどこかユーモラスな外見からきているのだろう。一六三センチ、六八キロの身体は、お世辞にもスマートとはいえないし、中年太りでややせり出した腹のあたりは、いかにもタヌキだ。不精ひげをはやしているときなど、いっそう、タヌキに見える。そしてまずいことに、不精ひげを生やしていることのほうが多いのである。そのため三十七歳という年より老けて見える。

西村京太郎『消えたタンカー』光文社, 1983, p.44

更に、凶悪な犯人に左手を撃たれた後遺症で左手も少し不自由と説明されています。

今回は、長引く風邪に悩まされており、捜査が上手く言ってない時を中心に咳を繰り返しハンカチを手放せません。これが、最後の犯人とのシーンにも絡んできました。

中盤からはカメさんなどと一緒に、十津川藩として捜査に当たるようになりますが、終盤は有給休暇を取って、カメさんと二人、そして最後は単身で南アフリカまで乗り込みます。

食事の好みについても記載されており、蕎麦とコーヒーが好きで、パンとお茶が嫌いとのことです。しかも、銀座の中華料理店で名人と言われるコックに教えてもらった本格的な中華風焼きそばを亀井刑事に振る舞う姿も見ることができます。


事件について
タンカーの炎上から始まる派手な事件は、大きく3パートに分かれています。

事件発生から十津川単独での捜査が手短に書かれた後、中盤からは謎の殺人犯の視点によるパートも挟みながら、十津川たち警察陣と犯人による対決が北は長野から南は沖縄に渡って繰り広げられます。

そして、事件が落着したと考えられた終盤、十津川は事件のチグハグさ加減に疑問を抱き、有給休暇を取って亀井刑事を相棒に事件を一から振り返っていきます。

全体的に大味な物語で、突っ込もうと思えばどこまでも突っ込めるのですが、中盤の犯人との対決を描いたサスペンスの緊張感や、後半に入ってガラッと空気が変わり十津川が仮説を一つ一つ確認して可能性を潰していく過程はしっかり読ませます。

事件の大味さやスケール感に対して、あくまでも地道に推理と捜査を繰り返す十津川という対比も好きです。

そして、最後に犯人に対して直接正体を突きつけるシーンは作中の描写をしっかり使用しており納得感があります。

物語中で事件をスッキリと終わらせているわけではありませんが、物語後に大きく動きがあるであろうと匂わせる描写で終わっているのも、モヤモヤしすぎず読み終われるので良かったです。

減点法にすると点が下げられるが、加点法にすると点が上がっていく、そんな読後感です。
個人的には犯人造形や殺人方法は好みではありませんが、最終的には面白い気持ちが勝ったので、もう少し十津川シリーズを読んでいきたいという気持ちになりました。

初期作らしい豊富なアイデアを、過剰な位のエンターテイメントの要素で包んでおり、十津川の推理も納得度があるため、エンターテイメントとしての警察小説やミステリー小説が好きで細かいことを気にしすぎない人なら、今読んでも楽しく読めると思います。

「第一、あんたは、おれの名前だって、まだわかっていないはずだ。そんなことで、どうやって、おれを捕えたり、日本へ連れて帰ることができるんだ?」
「いや、私は、君の名前を知っているよ」
 十津川は、この部屋に来て、初めて、反撃に転じた。

西村京太郎『消えたタンカー』光文社, 1983, p.382-383
十津川と犯人の攻防

映像化

中野良子・主演 『消えたタンカー』(1981) ※未見
 十津川警部は夏八木勉


渡瀬恒彦・主演 十津川警部シリーズ
 第50話「消えたタンカー」(2013)

時間的な制約もあり、生き残りの5人が殺される流れは全体的に簡略化され、それぞれの家族は出ずに殺されるのは本人たちのみとなっています。
船長も銃殺となっているため、最初から殺人事件として捜査され、予告状もありません。細かい点では、小島の行き先が沖縄ではなく北海道・苫小牧となっています。
また、謎の狙撃犯の視点は最低限のみとなっているため、原作にあった警察VS狙撃犯という空気感は薄くなっています。

前半は簡略化されているとはいえ原作を踏襲した展開ですが、後半はドラマオリジナル展開へと大きく舵を切っていきます。
事件の背景は変更されており、原作からある派手さとオリジナル部分とのチグハグ感が強く、最終的に良く分からないと感じる内容になってしまったと思います。

ドラマ概要
脚本:佐伯俊道
演出:池澤辰也
製作:TBS/テレパック
時間:95分

キャスト
十津川省三/渡瀬恒彦
 亀井定雄/伊東四朗

  西本功/堤大二郎
安原美知子/山村紅葉
 小西淳平/中西良太
 村川留美/古川りか
 山下智志/山田アキラ
 小林雅人/内山翔人
 本多時孝/中原丈雄

 黒川秀隆/川地民夫
 真鍋勇蔵/西田健
   白井/せんだみつお
 鈴木晋吉/中本賢
 野上次男/小倉一郎
 小島史郎/伊東孝明
八木沼ケイ/かでなれおん
 赤松淳一/宮下裕治
奥平浩一郎/渡哲也


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