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読書感想文

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佐々木譲『制服捜査』(2006)紹介と感想

佐々木譲『制服捜査』新潮社, 2009 収録作品あらすじ 逸脱 志茂別町駐在所に赴任してきた川久保篤は、さっそく高校生の山岸三津夫失踪事件に関わることになる。捜査を開始すると素行の悪い同級生の存在が浮かび上がるが、三津夫は見つからない。そんな中、事件は意外な方向へと展開していく。 遺恨 地元の酪農家・大西の飼い犬が散弾銃で殺される事件が発生。散弾銃での犯行という点に危険を感じた川久保は独自に捜査を始め、近所の大規模酪農家・篠崎に眼をつける。しかし二日後、篠崎が死体となっ

2024年10月の読書まとめ+『あくまのかんづめ~周防パトラのエッセイ集~』『スロウスタート12』『税金で買った本12』『世界の雪景色』紹介と感想

今月は小説にエッセイに絵本に漫画に写真集と、数は多くないけど種類的に結構盛り沢山な読書になったと思います。 周防パトラ『あくまのかんづめ~周防パトラのエッセイ集~』エムディエヌコーポレーション, 2024 VTuberとして活躍する周防パトラ初めてのエッセイ集になります。 生い立ちから配信裏話、好きなものの話しなどエッセイの他に、上坂すみれ、真鍋賢行との対談や悪友Mちゃん書下ろしの漫画など盛り沢山の内容になっていました。 パトラの本音が余すことなく描かれており、配信で魅

最後の晩ごはん20『最後の晩ごはん 優しい犬とカレーライス』(2024)紹介と感想

椹野道流『最後の晩ごはん 優しい犬とカレーライス』KADOKAWA, 2024 あらすじ 今日も海里は淡海邸で朗読の練習を行っていた。 サンドイッチを食べながら様々な話をした日の帰り、淡海邸の前に現れた黒い犬に導かれた海里と淡海は、近所にある邸宅でとあるものを見つけてしまう。 淡海は、行き先の無かった黒い犬を成り行きからマヤと名付けて一緒に暮らすことにした。 その頃から海里は不思議な声を聞くようになって…。 シリーズ概要 スキャンダルに巻き込まれ芸能界を追われた五十嵐

2024年9月の読書まとめ+『世界の名著がすじがきでわかる 読んでおきたいベスト26』『日本人なら知っておきたい日本文学 ヤマトタケルから兼好まで、人物で読む古典』感想

9月は、漫画は殆ど読めませんでしたが、先月に続き普段の読書傾向とは違う本をいくつか読み、いつもとは違う刺激を得た一か月でした。 三浦朱門編『世界の名著がすじがきでわかる 読んでおきたいベスト26』あ・うん,2004 三浦朱門がセレクトした世界の名著26冊のあらすじが、作者の簡単な紹介とともに記載されています。 選ばれている本は、読んだことが無くても名前だけは多くの人が訊いた事のある本ばかりでした。 自分は、作家単位なら作品を読んだことはあったり、映画化されたものを観たり

遠藤周作『私の履歴書 落第坊主の履歴書』(1989)紹介と感想

遠藤周作『私の履歴書 落第坊主の履歴書』日本経済新聞出版社, 2013 1989年6月に「日本経済新聞」へ掲載された、幼少期からの前半生を振り返る「私の履歴書」と、その内容に関連した過去のエッセイの再録で構成されています。 十数年振りに狐狸庵先生のエッセイを読みましたが変わらぬ面白さを感じることが出来て嬉しかったです。 滑稽で軽妙な軽さと人の深い所まで見抜くような深さのバランスが良く、そのどちらにも人間がしっかり描かれていました。 友人の自殺や戦時中の話など、シリアスな内

つんく♂『「だから、生きる。」』(2015)紹介と感想

つんく♂『「だから、生きる。」』新潮社, 2015 2015年4月に母校・近畿大学の入学式の日から振り返る、上京してからの仕事一色の忙しい毎日、後に妻となる女性と出会ってから結婚、子供が生まれて価値観や過ごし方が変化していく幸せな日々、喉頭癌発覚後の闘病から口頭全摘出となるまでを赤裸々に綴ったエッセイになります。 自分にとっては『リズム天国』のプロデューサーとしてのイメージが強いのですが、本作を読むことで悩みや嫉妬もする立体的な一人の人間として浮かび上がってきました。 不

又吉直樹『第2図書係補佐』(2011)紹介と感想

又吉直樹『第2図書係補佐』幻冬舎, 2011 紹介と感想 芸人であり作家である著者による、ヨシモト∞ホール発のフリーペーパーに掲載された本を媒介にした自分の人生や考えを語るエッセイに書下ろしを加えてまとめた一冊です。 本書には、あまりにも繊細で感情豊か、しかし社会に対して上手く表現できない一人の若者としての著者が描かれていました。 そして、その著者の語りを通して、紹介されている本にも興味を持てる所が本書の凄い所だと思います。 読んでいる自分と似ている様に見えながらも、

阿津川辰海『阿津川辰海読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』紹介と感想

阿津川辰海『阿津川辰海読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』光文社, 2022 本書は、ミステリー作家であり無類の読書好きである著者の、本への愛と博識ぶりが分かる、全3部構成の解説・エッセイ集になります。 その紹介数は総勢362名、1,018作品と驚きの量。 第23回本格ミステリ大賞[評論・研究部門]受賞作です。 「第1部 阿津川辰海は嘘をつかない~阿津川辰海 読書日記~」では、〈ジャーロ〉のサイト内で現在も連載しているエッセイから、2022年3月掲載の第

ケサランパサランについて~『ケサランパサラン日記』の紹介と感想+ケサランパサランについて調べたこと

西 君枝『ケサランパサラン日記』草風社, 1980 西 君枝『ケサランパサラン日記』紹介と感想  自宅の庭先で偶然ケサランパサランと出会った事から始まる、孫にも協力してもらいながらの観察の日々。 そして、ケサランパサランの持主が多いと言われている宮城県への旅の記録を、豊富な写真と一緒に送る。  自分にとってケサランパサランと言えば、スーパーマリオワールドで登場し、スーパーマリオブラザーズワンダーでも再登場している、あれでした(マリオではケセランでした)。  しかし、この

鞍馬天狗シリーズ短編「鬼面の老女」「西国道中記」紹介と感想

「鬼面の老女」(1924) 大佛次郎『鞍馬天狗 第十巻』中央公論社, 1969, p.3-32 あらすじ 小野宗春亡き後、弟の小野宗行が全てを奪ってしまった。 宗春の忠臣・浦部甚太夫に連れられ、逢阪山で武術を教えられながら育った宗春の一子・宗房。 成人し、甚太夫も亡くなり、金に困って叔父を頼って実家へ行くが、計略に嵌められ一銭ももらえなかった。 その帰り、密使を捕まえようとしていた鞍馬天狗一味と刀を交わす宗房。 誤解も解け、父を知っているという鞍馬天狗と知己を得る。

鞍馬天狗 長編第3作『角兵衛獅子』(1927~28)紹介と感想

大佛次郎『鞍馬天狗 第一巻』中央公論社, 1969, p.1-200 野村萬斎が鞍馬天狗を演じたNHK時代劇が好きで、いつか嵐寛寿郎の映画も観ようと思っていた『鞍馬天狗』。今回、原作を手に取る機会があり読んでみました。 最初に選んだのは、鞍馬天狗と言えば杉作少年とのイメージから、超有名作『角兵衛獅子』にしました。 ちょうど、入院中に読んだ『ねこぱんち』で大佛次郎と猫の関係を描いた漫画を読んだので、これもまた一つの運命だと思うのです。 あらすじ 角兵衛獅子の杉作は、稼ぎ

鞍馬天狗 長編第6作『山嶽党奇談』(1928~1930)紹介と感想

大佛次郎『鞍馬天狗 第一巻』中央公論社, 1969, p.201-499 あらすじ 京都東山の高台寺横の路地には、白髪の老人の姿をした化物が姿を見せると騒がれていた。 また、化物だけでなく最近は山嶽党という暗殺集団まで現れていた。 鞍馬天狗は、ただの人殺し集団を野放しには出来ないと山嶽党を追いかけるが、中々尻尾を掴めず、何度も命を狙われてしまう。 隠れ家を変えようとしていたある夜も、鞍馬天狗と杉作は山嶽党の一味に命を狙われる。 同士である大前田逸郎の援助もあり、短筒で撃た

鞍馬天狗 長編第22作『女郎蜘蛛』(1957)紹介と感想

大佛次郎『鞍馬天狗 第八巻』中央公論社, 1969, p.1-212 あらすじ 京で起きた公卿連続予告殺人。死の日を予告した書状が舞い込むと、その予告通りに人が死ぬのだ。 高倉三位という最初の犠牲者から手紙を見せてもらった鞍馬天狗。その後、高倉は血染めの衣類だけを残して消えてしまった。 鞍馬天狗は岡っ引の長次や、犬猿の仲である与力の鹿倉藤十郎とも情報を交換し合い事件を調べ始める。 事件を調べて見えてきたのは、人を見下し秘密主義、しかし内実は金もないのに物欲と色欲に溢れる公

笹沢左保『結婚って何さ』(1960)紹介と感想

笹沢左保『結婚って何さ』徳間書店, 2022 あらすじ 上司に理不尽に叱られた遠野真弓と疋田三枝子は、その場で会社を退職した。 その日は飲み潰れてやろうと入った三件目のバーで、見知らぬ男と一緒に飲む事になり、流れで三人で旅館へ宿泊した。 しかし、次の日の朝には男は首を絞められ殺されていた。 部屋の鍵はかかっており、犯人として捕まる事を恐れた二人は現場から急いで逃げ出す。 事件を追うための僅かな手掛かりは、男が持っていた名詞と切符だけ。 次々と現れる疑惑の死の先にある真実と