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阿津川辰海『阿津川辰海読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』紹介と感想

阿津川辰海『阿津川辰海読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』光文社, 2022


本書は、ミステリー作家であり無類の読書好きである著者の、本への愛と博識ぶりが分かる、全3部構成の解説・エッセイ集になります。
その紹介数は総勢362名、1,018作品と驚きの量。
第23回本格ミステリ大賞[評論・研究部門]受賞作です。


「第1部 阿津川辰海は嘘をつかない~阿津川辰海 読書日記~」では、〈ジャーロ〉のサイト内で現在も連載しているエッセイから、2022年3月掲載の第35回分まで収録されています。
この第1部から既に圧巻の読書量&博識ぶりで、隔週連載とは思えないほど毎回メインとなる本の紹介以外にも、最近読んで面白かった本や、紹介している本に関連した本など、ほぼどの回も複数冊を紹介しています。

主にミステリーがメインですが、SFやミステリー部分がメインとは言えない本、最新作から過去作と、その読書の幅広さに脱帽しました。

本書で取り上げられている作品で、自分が実際に読んだことがあるのは『雲をつかむ死』等のクリスティー著作、『魔術師を探せ!』、『悪魔はすぐそこに』、『五番目のコード』、『ヨルガオ殺人事件』等のホロヴィッツ著作、『木曜殺人クラブ』シリーズ、『自由研究には向かない殺人』くらいでした(『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』など、文章中で少し触れられているものを加えればもう少し増えます)。

未読の本の方が多いのですが、それでも面白く読めて、その本自体も読みたくなる、著者の熱量が感染していく感覚が味わえます。
特に、オススメする作品のミステリーとしての特徴・見所を作品毎に捉えて言語化できる能力が羨ましいほど高いです。

清水義範を紹介する第6回、ランドル・ギャレットを紹介する第8回、ディック・フランシスの紹介以外にフランシス既読作品の各論まで乗っている第14回、D・M・ディヴァインの翻訳済み各作品のネタバレなし紹介を行っている第16回、『ヨルガオ殺人事件』『木曜殺人クラブ』『自由研究には向かない殺人』と珍しく既読作品ばかりが紹介されており既読者目線で楽しめた第23回などが特に好きな回でした。

記事執筆時点で連載も第74回となっているため、再びの書籍化を待ちたいと思います。
それまでに、今回の読書で増えた読みたい本を読み切れるかだけが不安です。


「第2部 解説子の記憶」では、2022年3月までに担当した解説11本が掲載されています。
こちらは、第1部以上に解説を担当した本の内部まで踏み込んでおり、読みごたえも抜群でした

『雲をつかむ死〔新訳版〕』だけは、クリスティーなので出版時に購入して読んでいましたが、当時も『雲をつかむ死』の魅力をロジカルに解説する手際に感動したものです。

その他の読んだことがない本の解説も面白く、解説を読んだことで紹介されている本も読みたくなり、それでいて読んでいても面白いだろうと思える内容になっていました。

第2部で『雲をつかむ死』以外で特に好きなのは、『パレードの明暗 座間味くんの推理』、『探偵さえいなければ』、『旅師・冬狐堂🈩 孤罠』、『オクトーバー・リスト』の解説でした。


「第3部 創作の種は日常に潜む」は、各種媒体に掲載されたエッセイを収録しています。
こちらも本にまつわる話がメインですが、ゲームやアイマスなど話題は多岐にわたります。

様々な話題があることで、著者の興味の幅の広さや、それが著作に活かされていることが良く分かる内容となっています。

どれも面白いエッセイですが、エッセイ風ショートショートの〈忘れられた犯人〉、東川篤哉と対談した時の様子を綴った〈東川先輩に会いに行こう!〉、『謎のクィン氏』や『終りなき夜に生れつく』などを大胆な再解釈を施してアニメ化するなら声優は誰が良いかを妄想するオタク全開の〈妄想クリスティーキャスティング アニメ編〉、著者のミステリー執筆方法について触れられている〈小説家は名探偵よりも先に解く〉辺りが特に楽しかったです。


自分の大好きを凄まじい熱量で他者に紹介する。しかも、その紹介の仕方が上手いとあって、ニコニコしながら最後まで気持ちよく読めました。

また、紹介された本だけでなく、著者の本も『紅蓮館の殺人』『蒼海館の殺人』の2冊しか読めていないので、こちらも未読作品を読んでいきたいところです。

本書自体も面白く、読みたい本がどんどん増えていく内容となっており、オススメです。

 私は何よりも、ミステリーを語りたい。その作家の魅力、作品の凄さ、シリーズ全体を通した時のその作品の面白さ。本を読めば読むほど、あるいは、書けば書くほど、語りたいことは次から次へと溢れ出てくる。ですが、その根底にある想いはやはり、ミステリーに関する新しい発見をしたいとか、自分の話を聞いて欲しいとかではなく、「この面白すぎるミステリーを、とにかくオススメしたい」という想いなのではないかと考えたのです。えらぶって評価する、という気持ちはありません。
 好きだから、語りたいのです。

阿津川辰海『阿津川辰海読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』光文社, 2022, p.8 まえがきより

今後読みたい本の記録

本書で取り上げられていた本の中で、特に読んでみたいと思ったものを、自分へのメモ代わりに残しておきます。

清水義範『国語入試問題必勝法』
高橋泰邦『衝突針路』
恩田陸『灰の劇場』
ヨルン・リーエル・ホルスト『警部ヴィスティング』シリーズ
ディック・フランシス『出走』『利腕』『度胸』『名門』『横断』『黄金』など
ベア・ウースマ『北極探検隊の謎を追って:人類で初めて気球で北極点を目指した探検隊はなぜ生還できなかったのか』
スザンナ・キャハラン『なりすまし 正気と狂気を揺るがす、精神病院潜入実験』
D・M・ディヴァイン『運命の証人』など読んでいなかった作品たち
山沢晴雄『死の黙劇〈山沢晴雄セレクション〉』
笹沢佐保『招かれざる客』ほか
エイダン・チェンバーズ『おれの墓で踊れ』
M・W・クレイヴン『ストーンサークルの殺人』
サラ・ピンスカー『新しい時代への歌』
佐々木 譲『笑う警官』ほか道警シリーズ
R・A・ラファティ『とうもろこし倉の幽霊』
アンディ・ウィアー『火星の人』『プロジェクト・ヘイル・メアリー』
笛吹太郎『コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎』
宮内悠介『かくして彼女は宴で語る 明示耽美派推理帖』
ジェニファー・ロウ『不吉な休暇』
ジェラルディン・マコックラン『不思議を売る男』
新庄節美『雨あがり美術館の謎――名探偵チビー』
スチュアート・タートン『名探偵と海の悪魔』
石持浅海『月の扉』など座間味くんの推理シリーズ
東川篤哉『探偵さえいなければ』他、読んでなかった烏賊川市シリーズ
北森 鴻『旅師・冬狐堂🈩 孤罠』
ジェフリー・ディーヴァー『オクトーバー・リスト』
阿津川辰海『星詠師の記憶』

書き出してみると思った以上に読みたい作品が多くてビックリです。
焦らず、少しずつ読んでいけたらいいなと思います。


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