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世界の誰もが口にする、ある共通表現とは?

言語の不思議な二面性 - 文化的差異と生物学的共通性

私はオーストラリアで20年以上日本語教師として外国語教育に携わってきました。言語について学べば学ぶほど、その奥深さと可能性に心を奪われます。まるで底なしの井戸のように、どれだけ探求しても新たな発見が続くのです。

従来、言語学では言葉と対象物の関係は恣意的なものだと考えられてきました。例えば、「木」という対象を英語では"tree"、フランス語では"arbre"と呼ぶように、音と意味の間に必然的な結びつきはないとされてきたのです。これは言語学者フェルディナン・ド・ソシュールの提唱した考え方です。

しかし、最近の研究でこの定説が覆される可能性が出てきました。サイエンティフィックアメリカン誌(2023年11月27日付)で紹介された研究によると、世界の130以上の言語を調査したところ、痛みを表現する際に「あ」という音が普遍的に使用されているという興味深い発見がありました。例えば、日本語の「痛い」、英語の"ouch"、スペイン語の"ay"など、音の共通性が見られるのです。

ただし、調査された言語は世界に存在する言語の約10分の1に過ぎません。そのため、この発見から即座に「言語には普遍的な基盤がある」と結論付けるのは早計でしょう。

この研究は、言語が持つ二つの側面を示唆しています。一つは文化や社会によって形作られる側面、もう一つは人類共通の生物学的基盤に根ざした側面です。例えば、現代社会で見られる様々な分断—人間同士の対立、人間と自然の乖離、個人と社会の断絶—を乗り越えるためには、この両面を理解することが重要です。

確かに、AI翻訳の発展により言語の壁は低くなってきています。しかし、機械翻訳は話者固有の微妙なニュアンスや独創的な表現を完全に捉えることは難しく、どちらかというと標準的な表現に寄りがちです。まるで味の個性を失った工場製の食べ物のようなものかもしれません。

このように、言語には文化的多様性と生物学的共通性という二つの側面があります。これらを理解し、尊重し、機械翻訳に依存しないイキイキとした言語で対話することで、より深い相互理解が可能になるのではないでしょうか。​​​​​​​​​​​​​​​​


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