mrmonaka

オーストラリアのブリスベン在住。公立小学校で日本語教師。日本やオーストラリアや世界の子どもたちと「言葉あそび」をしながら、楽しい世界を創っていきたい人。寅さん、スタートレック、哲学、映画、だじゃれが好き。

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オーストラリアのブリスベン在住。公立小学校で日本語教師。日本やオーストラリアや世界の子どもたちと「言葉あそび」をしながら、楽しい世界を創っていきたい人。寅さん、スタートレック、哲学、映画、だじゃれが好き。

最近の記事

表情筋が動けば笑顔なのか?

2024年11月20日、サイエンティフィック・アメリカン誌に興味深い研究が掲載されました。エセックス大学の研究チームによる実験では、電気刺激を用いて被験者の表情筋を強制的に動かし、笑顔や眉をひそめる表情を作り出しました。実験結果によると、強制的に作られた笑顔は気分を向上させ、逆に眉をひそめる表情は気分を低下させたとのことです。この結果は、「笑顔は気分を良くする」という一般的な言い伝えに科学的根拠を与えるかのように見えます。 しかし、この実験には根本的な問題があります。それは

    • 分断を乗り越えるきっかけに欠かせないこととは?

      アメリカでは政治的な分断が深刻化し、対立する政党の支持者を「不道徳」と見なす傾向が強いとされています。しかし、Scientific Americanの2024年10月28日の記事(https://www.scientificamerican.com/article/people-overestimate-political-opponents-immorality/)によると、これは多くの場合、誤解に基づいていることが明らかになりました。調査によると、共和党員と民主党員の双方

      • あなたもわたしも投げ込まれてしまったんだ

        先日、デヴィッド・フォスター・ウォレスの『This Is Water』という講演を視聴し、私たちの思考について深く考えさせられました。彼は、私たちが日常生活の中で無意識のうちに行っている「自動的な思考」について語っています。それはちょうど、水の中にいながら水の存在に気づかない魚のようだと例えられています。 例えば、スーパーマーケットのレジに長い列ができているとき、多くの人は次のような「自動的な思考」に陥りがちです: - 列に並んでいる人々を「自分の時間を無駄にする邪魔な存在

        • U理論の可能性と限界:過去からの自由は可能か

          U理論の可能性と限界:過去からの自由は可能か オットー・シャーマー博士が提唱するU理論は、過去の記憶や知識からの「ダウンロード」を止め、「今ここ」から未来の可能性(種)を見出すという二つの重要な主張をしています。この理論が世界中で支持されている理由は、その単純明快なイメージにあるでしょう。コンピュータがダウンロードを停止するように私たちの思考も「停止」でき、種が芽吹くように新しい可能性が現在から生まれるというイメージは、直感的に理解しやすいものです。 しかし、この理論には

          「裸眼思考」というもう一つのレンズ

          荒木博行氏の『裸眼思考』という著書は、変化の激しい現代のビジネス社会において、従来の固定観念から脱却し、新しい視点でビジネスを構築することの重要性を説いています。たとえば、「書店は本を売る場所である」という固定観念を捨て、「知的出会いの場」として再定義することで新たなビジネスモデルを構築した蔦屋書店のような例は、本書が提唱する発想の有効性を示しています。 しかし、「裸眼思考」という概念には、以下のような原理的な問題が存在します: 1. 認識論的な矛盾 - 「レンズを外

          「裸眼思考」というもう一つのレンズ

          裸眼思考 - 先入観を外して世界を見る - 荒木博行著の書評と考察

          荒木博行氏の著書「裸眼思考」は、私たちの思考の在り方に新しい視点を投げかけています。本書で提唱される「裸眼思考」とは、既存の知識や目的意識によって制限されない、あるがままの観察と理解を重視する思考法です。 従来の「レンズ思考」(知識や目的に基づいた合理的判断)と対比される本アプローチの特徴は、以下の3段階にまとめられます: 1. 観察段階:知識や目的を一時的に脇に置き、五感を使って状況を把握 2. 保留段階:即断を避け、疑問や気づきを保持 3. 記録段階:観察で得られた気

          裸眼思考 - 先入観を外して世界を見る - 荒木博行著の書評と考察

          宮沢賢治と西田幾多郎が出会う交差点宇宙

          宮沢賢治は、日本を代表する詩人・童話作家の一人です。子供向けの作品として親しまれていますが、大人になって読み返すと、その深遠な世界観と宇宙観に改めて魅了されます。 賢治の特徴的な点は、自然との関係性の捉え方にあります。岩手県の豊かな大自然の中で育った彼は、自分を自然から切り離された個体としてではなく、自然現象の一部として捉えていました。例えば『春と修羅』では、自身を「現象」として描写し、あたかも電灯の中の照明のように、より大きな存在の一部として表現しています。この表現からも

          宮沢賢治と西田幾多郎が出会う交差点宇宙

          暇と退屈を乗り越える「センスの哲学」

          千葉雅也氏の『センスの哲学』は、著者の前著『現代思想入門』で展開された脱構築的思考をさらに深化させた著作です。本書では、私たちの生活に存在する様々な二項対立を脱構築していく試みが、丁寧に展開されています。 特徴的なのは、まず「芸術と日常生活」という対立の脱構築です。従来の「崇高な芸術」対「平凡な日常」という区分を解体し、日常のあらゆる場面に芸術的要素が存在することを著者は指摘します。また、「センスの良し悪し」という価値判断についても、「正しいセンス」という絶対的な基準の存在

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          「スーパーのレジ待ち」で人生が変わる? - ハーバード大学の伝説のスピーチ

          デヴィッド・フォスター・ウォレスの「This is Water」という講演動画をご存知でしょうか? 「This is Water」―この一見シンプルなタイトルの講演に、私は人生を変えるような重要なメッセージを見出しました。 講演の核心は、「水の中の魚」という比喩です。魚にとって水は当たり前すぎて、その存在を意識することはないでしょう。人間も同じように、日常の中で当たり前すぎて意識することのない重要な事柄があります。その一つが、私たちの「思考」そのものです。 ここで思った

          「スーパーのレジ待ち」で人生が変わる? - ハーバード大学の伝説のスピーチ

          【本質観取】「飽きる」とは何か?

          今回も哲学者、教育学者である苫野一徳さんのゼミに参加し、そこで本質観取に取り組んでみました。 テーマは「飽きる」とは何か? 「飽きる」という現象は私たちの日常生活でよく経験することです。この「飽きる」という感覚の本質を理解することで、私たちは飽きないための方法を見出すことができるのではないかと思いました。 ⭐️ 私の経験では、何かに飽きるという現象は、心が完全には満たされないという感覚と密接に関係しているように感じます。常に何かが足りないような、満たされない隙間のよう

          【本質観取】「飽きる」とは何か?

          宇宙には善が実在する?! - 宇宙飛行士たちの証言から

          立花隆さんの『宇宙からの帰還』を読み返して、私たちには想像もつかない宇宙飛行士たちの特異な体験に、あらためて強い印象を受けました。 宇宙飛行士たちに共通しているのは、宇宙空間での体験が彼らのアイデンティティーを大きく揺さぶったということです。 その結果、人生が大きく変わった人も少なくありません。例えば: - 宗教的な目覚めを体験し、宗教家になった人 - 使命感に目覚めて政治家への道を選んだ人 - ビジネス界でリーダーとして活躍を始めた人 一方で、この体験があまりに衝撃

          宇宙には善が実在する?! - 宇宙飛行士たちの証言から

          永遠の価値か、新しい創造か ―プラトンとニーチェが示す人間の成長の2つの道―

          プラトンの「エロス」とニーチェの「力への意志」について、最近の学びを通じて考察してみたいと思います。 プラトンの対話篇を読んで印象的だったのは、「エロス」という人間の根源的な力についての議論です。プラトンによれば、エロスとは人間を現象界から理想の世界、そして永遠の世界へと導く力です。例えば、私たちは最初、目の前の美しい容姿に心を奪われますが、次第により普遍的な美しさへの理解を深め、最終的には「美そのもの」という本質的な価値へと向かっていくことができるのです。 この学びの過

          永遠の価値か、新しい創造か ―プラトンとニーチェが示す人間の成長の2つの道―

          【哲学読書会レポ】苫野一徳•特別授業「ルソー『社会契約論』」

          「社会契約論」の読書会は大変勉強になり、参加者の皆様に心から感謝申し上げます。今回の学習内容と、それを五七五調の言葉遊びでまとめたものをご紹介させていただきます。 ⭐️ 今回は通常の読書に加え、言語学で用いられるコンコーダンス(用語の使用頻度分析)という手法を使って、「社会契約論」における単語の使用傾向を調査しました。分析によると、最も頻出する単語は「人民」「国民」で約480回、次いで「国家」「政治体」が420回、「法律」が350回、「主権者」が280回、そして「意思」が

          【哲学読書会レポ】苫野一徳•特別授業「ルソー『社会契約論』」

          【哲学読書会レポ】西田幾多郎「善の研究」 - 善とは何か?

          ❤️今回の哲学読書会は、西田幾多郎さんの「善の研究」。私にはハードルが高いのですが、何かその魅力に取りつかれ、自分は「純粋経験」をしたことがあると勝手に思い込み、涙さえ流したこともありました。それほど、以前ゾッコンラブだった西田幾多郎さんですが、今回でお別れをするようなつもりで参加しました(笑)。しかし今回参加して皆さんと対話をして後で読み返してみると、また西田さんに惚れ直した感じです(爆笑)。やはり古典の読書は、1人で読むよりも、しっかりと対話の中で読んだ方が全然素晴らしい

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          AIは「良さ」を理解できるか?―ルソーの『社会契約論』から

          ルソーの『社会契約論』をコンコーダンス(用語索引)を用いて分析すると、興味深い発見があります。作品中で最も頻繁に使用される形容詞は「良き・善き」で48回、次いで「正しい」が42回、「必要な」が35回、「強い」が30回出現します。このデータだけを元にすると、ルソーはまるで普遍的なあるいは絶対的な善があり、それを基準に社会契約論を論じていると言う解釈も成り立ってしまいます。しかし、実際にルソーの述べる良さと言うのは、そのような絶対的な善を前提にはしていないのです。 ルソーは「人

          AIは「良さ」を理解できるか?―ルソーの『社会契約論』から

          プラトンが示すエロスの本質とは?

          プラトンの「饗宴」は、一般に「おじさんたちの酒席での恋愛談議」と誤解されがちですが、実は人間の魂の成長と哲学的真理の探求を描いた深遠な作品です。私は最近、この作品の本質をより深く理解するため、コンコーダンス分析という手法を用いて研究を行いました。これは文章中の言葉の出現パターンや頻度を分析する言語学的アプローチです。 分析の結果、最も頻繁に登場する言葉は「エロス(愛の神)」で135回、次いで「美/美しい」が112回、「ソクラテス」が98回、そして「愛/愛する」が89回という

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