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✓コスメの王様/高殿円

▽あらすじ
時は明治の世。
秀才ながらも、山口の家族を支えるため
進学をあきらめ、単身神戸に出てきた少年・利一。
牛より安い値段で花街に売られてきた少女・ハナ。
神戸の花隈での二人の出会いは、
やがて日本の生活を一変させる
発明、大ヒット商品誕生へとつながっていく。
そして、幼い日に誓い合った約束の行方は?

▽印象に残った文章

殴られてもいややと言える人間が
この世のどこにおるんやろう。
いやや言える人は幸せなこっちゃ。
この世には牛代わりに売られる子も、
殴られても親や弟らのためにと
歯を食いしばって仕送りをする子もおる。

人の性とは、良いも悪いもあってこそのもので、
そこに付け入ろうとする悪い連中がいる以上、
落ちる時はあっという間である。
それを憎みこそすれ、
我を忘れるほど激怒してはならないし、
ましてや悲しみで狂うようなことがあってはならない。
激怒や深すぎる嘆きは
人からむやみに時間ばかり奪う…
真心を手放してしまっている。
心のない人間はみな鬼だ。

決して人は狂ってはならん。
人を憎み過ぎるな。
怒りに身を任せすぎるな。
狂えばあっという間に隙ができて、
人々に引きずり降ろされるから。

「おとこはんは、
みな仕事がうまく行き始めると、
仕事仕事で、仕事を一番にしはる。
女子供は二の次で世間体のためにおるだけで、
お座敷に来てまで仕事の話や。
そのうち利一さんも
そういう顔をするようになりはった。
そういう男はんに添うには、
女は、またそういう男はんのための
顔を作らなあかんようになる。」 

▽感想
利一もハナもたがいの背中を見つめながら
前へと進んでいっているなと思った。

ハナのためにから始まり、
大衆が使える化粧品をと品質や材料をこだわって作る。
利一の世の中を読み取る力が凄くて、
これほど頭が回れば物も売れるだろうなと思ったが
それよりも、ハナを想う気持ち、大衆を想う気持ちが
人を引き付けたんだろうなと思った。

ハナも利一を見ながら花街で技術を磨き、
利一にこれだという助言をして何度も助けてきた。

いつかおたがいに…と思っていた利一がハナに送った

「僕が大阪の堺町あたりに家を買うたら…
その家に銀杏の木があったとしたら、
いや、なくてもや。
もうお座敷にはでんで、
僕の前だけでたぬきを踊ってくれる?」

というプロポーズが
ハナのことをとても想っているなと
心が温かくなった。
恋愛小説をてんで読まないけど
これにはきゅんとしてしまった。
ハナが泣く泣く利一と日本に分かれを告げるところも
涙が出てしまった。

芸妓はただ男に媚びをうっているものだと思っていたけど
実は、仕事と仕事や人と人の縁をうまく結ぶ
そんな役も買っていたんだなとこれを読んで知った。
それも踏まえたうえで、大金を積んでいるんだよなあ。

最後、二人ですき焼きを食べれて良かった。

✓コスメの王様/高殿円/小学館

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