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✓やがて訪れる春のために/はらだみずき

▽入院中の祖母から、庭の様子を見てきてほしいと
頼まれた村上真芽(まめ)。
彼女が目にしたのは、荒涼とした景色だった。
花が咲き誇った庭に、しっかり者の祖母に、
いったい何が起きたのか?
庭を復活させようとする真芽は、
怪しげな凜zんの家の売却計画など
様々な困難に直面するが、
幼なじみたちの力を借りながら奮闘する。


▽印象に残った文章

花の言葉が出てこないのは、
言葉として使ってこなかったからだ。
日々の暮らしで必要としなかったせいだ。
それは自分が、自然から、花から、
遠ざかったていた証拠である。

「楽しみだね。
今日、まめ子は、自分の夢の種をまいた。
きっとその種は土に根を張り、芽を出し、
大きく育っていくだろうよ。
そのための準備を、ハルばあも今からしておこうかね。

「でもその多くの不安っていうのは、じつはハルばあのものではなくて、
まわりの人間、私の親や叔母の不安なんじゃないかなって、
思ったりするんだよね。
ハルばあの不安は、周りの人間の言葉で大きくもなるんじゃないかって。」

「私だってね、忘れたくて忘れるわけじゃないのよ。
私のことを、勝手に決めないでほしい。
ふつうにしてほしいだけなの。」

▽感想
認知症の疑いのあるハルばあちゃん。
話が進んでいくと、たまにハルばあちゃんの話が
本当だったりもするから、
実は元気で認知症なんかじゃないよと言ってくれればよかったのになぁ。

大好きな人がいつも元気だったのに、
元気がなくなったり、今まで違う様子だったりするのを見るのはつらい。
まめ子も元気になってほしくて、お庭に帰ってきてほしくて
と願って色々と試行錯誤しているんだろうなあと思った。

認知症の悲しい所は、当人もその周りの人も変えてしまうこと。
忘れたくて忘れるわけじゃない。
ハルばあちゃんの心の叫びを聞いたとき涙が出た。

ハルばあがまめ子のために色々としてくれていた形跡が
庭のあちこちにあった描写があって、そこでも涙が出た。

老いは悲しいし怖い。
でも老いは、いつか自分にも親にも子供にもやって来る。
その老いに対してどう向き合っていくか、
とても大事なことだなと思った。

やがて訪れる春(ハル)のために
なのかとタイトルを読み直して
ふっと心が温かくなった。

色々な事を考えさせられる本でした。

✓やがて訪れる春のために/はらだみずき/新潮社

↳単行本

↳文庫本

サンプルもありますので、ぜひ

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