プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)はスタートアップや中小企業にこそ必要な考えかもしれない
いくつかの動画やweb記事、書籍を読んでいて思ったことのメモ。
内容としては、スタートアップ、ベンチャー企業、中小企業であっても、群戦略、つまり複数の製品やサービスを指向し、ポートフォリオを駆使して連続的な成長をしていくことが求められるのでは?ということです。
プロダクトポートフォリオマネジメント
複数事業をマネジメントする考えとしては、古くからプロダクトポートフォリオマネジメント、略してPPMが有名です。
PPMは、事業を市場における成長率と占有率のマトリクスで捉え、経営資源を最適に配分することを目的としています。
PPMは複数の事業を抱える大企業向けの考え方なイメージがありましたが、最近はスタートアップやベンチャーなど新興企業や中小企業であっても有効な考え方かもしれません。というのは、マルチプロダクト・サービスによる連続的な成長や、それらを統合した顧客体験(トータルなUX)がより重要になってきているからです。
複数の製品サービスの管理、運用を行うことで成長している企業の事例をピックアップしてビジネスのヒントを探ってみたいと思います。
事例1:急成長するアパレルブランド会社
まず見ていくのは複数のアパレルブランドを展開するyutori社です。以下のリハックというYoutube番組で拝見しました。
平均年齢が20代前半の若い企業ですが、グロース市場に上場している成長企業です。この企業は複数のブランドを展開しており、それぞれのブランドごとに売上規模やKPI(成果指標)を設けて社内の健全な競争を促しています。
先行している成功ブランドの存在があることで、各フェーズごとの課題や成功要因を把握し、新興のブランドをグロースさせるための勘所やチェックポイントを設け、仕組み化されているようです。
最近ではD2Cブランドが注目を集めていますが、製品特性や市場セグメントによっては一定の成長上限があり、単一のブランドでストレッチしようとすると成長が歪になったり、コストが合わなかったり、既存客の離反につながったりします。いわゆる、死の谷というやつです。そこで、複数のブランドマネジメントを行うことで、企業として単一ブランドのみの成長の限界を突破することができるわけです。
D2Cの死の谷については、以前尾原さんがYoutubeで解説されておりましたのでご参考に。
アパレルラグジュアリーブランドの世界最大手であるLVMHなどもM&Aを繰り返して巨大な企業になっていますが、新興のブランド企業であっても早期からポートフォリオを前提とした組織や文化設計することが有効ということではないでしょうか。
yutori社では、3ヶ月に1回ほど新しいブランドやサービスのコンペが行われ、新しい取り組みが次々と生まれる仕組みがあるようです。またM&Aによって新しい若いブランドを会社に加え、既存のノウハウを元にブーストしたり、若いクリエイターの力が発揮、循環するようにしているようです。
ここでユニークなのは各ブランドをリーグ制で管理しており、スポーツのリーグ(一部、二部、三部など)のように、規模やフェーズで分けて、健全な競争を促しているようです。この仕組みはサイバーエージェント社の仕組みを参考にしたようです。
リクルートやサイバーエージェントなど、日本でも新規事業早出で知名度の高い企業は、こうした仕組みづくりに長けています。ボトムアップやトップダウンのアプローチや、新しいものが生まれる土壌、クライテリアに基づいて新規事業を育てる仕組みなどが整っていることが大きな特徴ですね。
事例2:豆腐業界の統廃合
こういう事例を語る時には、ついついIT企業や最先端のテクノロジーを活用している企業など、また大企業などは注目されることが多いですが、次は伝統的な食品産業について見ていきたいと思います。
以下の書籍を読んで非常に面白かった豆腐メーカーの相模屋のお話です。
かつては数万件以上あった豆腐メーカーも近年は減少傾向にあります。一方で、一定の豆腐の消費需要は一定数確保されているため、業界内で企業の統廃合が起きてきているようです。
相模屋さんは、日本の伝統的な豆腐の食文化を守りつつ、一方で新製品開発にも力をいれています。
そこで役立つのがポートフォリオの考え方です。豆腐製品のなかでも、基盤となるベーシックな絹や木綿などの製品を徹底的に標準化し、効率的なオペレーションで生産しつつ、新製品の開発をポートフォリオで管理して運営しているようです。
相模屋さんのケースがユニークなのは、一般的には「成熟産業」において、既存事業の磨き込み、新製品の開発、M&Aによる拡大と仕組みの展開を組み合わせることで大きく成長されている点です。
業界内における、企業の統廃合というのは自ずと発生するものだとは思いますが、単なる足し算ではなく、ビジョンを持って、プロダクトポートフォリオとシナジーをマネジメントしつつ、掛け算や冪乗で経営成果を最大化して
います。
このような取り組みにより、ここ20年で「20倍」ほどまで売上を拡大されてきたというので驚きです。
これから日本のさまざまな産業で起きてくることが予想されますし、対外(グローバル)にビジネスを行っていくうえで必要不可欠な取り組みであると思われます。
豆腐業界における 事業構造再構築の取組み
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/seizo/attach/pdf/vision_documents-46.pdf
事例3:スタートアップでマルチプロダクト戦略
次の事例は、日本で急速に成長しているITベンチャー企業であるLayerX社に関する話です。
この企業はスタートアップでありながら、すでに複数のプロダクトサービスを提供しております。特にバクラクという法人向け支出管理のサービスでは、コンパウンドスタートアップという戦略を採用しています。
コンパウンドスタートアップとは、LayerX社のCEOの福島氏は以下のように定義しています。
一つのプロダクトだけで成長することは難しい時代であり、特に日本ではIT化の流れが浸透していないためにますます難しくなっています。
しかし、レイヤーXはユニークな戦略を採用しており、請求書処理やビジネスカードの発行など、従業員の作業効率を向上させるプロダクトから金融サービスまで幅広く提供しています。
ユーザーはこれらのプロダクトを組み合わせて使うことで、より便利な体験を享受することができます。このようなプロダクト戦略を実行するのは難しいものですが、成功すれば他の企業よりも加速度的に成長することができます。
また、ユーザーにとっても単一プロダクトからハードル低くスタートし、その後に組み合わせて利用してより効果を大きくできるのも魅力となります。これからは、単一の製品やサービスだけでなく、ユーザーの一連の体験を改革するサービス展開をしていくことが求められる時代になっていると言えるでしょう。
詳細は以下のブログを読んでみてください。
ポートフォリオの土壌には熱狂と仕組みが必要だ
上記のいずれの事例でも、マルチプロダクト・サービス・ブランドを実現するためには、組織の文化や人材の基盤が必要です。企業(文化)が魅力的であり、面白い人材やユニークな人材、スキルのある人材が多数いることが、新しい製品やサービスが次々と生まれる豊かな土壌となります。
その結果、社内の人たちは次々と新しいことを覚えたり、チャレンジしたりする楽しさ、面白さを追求でき、同時にお客さんにもそれを提供していくことができます。このサイクルを回すことで、競合企業との製品や組織文化の面での強みを尖っていき、MOAT(競合優位性)を築くことにつながります。
「御社の強みはなんですか?」という質問に対して、一部のテクノロジー企業やIPなどの企業を除いて、中長期的に強いのは「人材と文化です」と言える組織ではないでしょうか。
まとめ
各社の事例から以下のポイントに整理できます。それぞれのテーマで深ぼっても面白そうなので、また調べて整理してみたいです。
連続的な成長のために複数のブランド、プロダクト、サービスを仕掛けることは必要不可欠である。
事業ごとのフェーズや特性に応じて主要な成功要因やKPIを定義、観測する。
各事業をポートフォリオで管理し、健全な競争や共創が発生するように組織や人材の土壌をつくる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?