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おやすみ、先輩。さよなら、未来(掌編)#創作百合 #SF百合

おやすみ、先輩。さよなら、未来(掌編)#創作百合 #SF百合

 放課後の理科実験室は肌寒い。いつものようにテーブルに寝そべっている冬月先輩の隣に腰かける。化学部とは名ばかりの部活動だ。所属する生徒は幽霊部員ばかりで、まともに参加しているのは私と……冬月依子先輩だけ。来年になれば先輩も受験のために引退してしまうから、そしたら事実上の廃部だろう。私は残るつもりはない。先輩のいない理科実験室なんて、薬と水の臭いがたちこめるだけのただの部屋だ。
 冬月先輩はいつも寝

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おきつねさま

 いつかのことを思い出す。
 私がまだ人のふりをして生きていたときのことを。
 ずっと昔、人は獣と深く結びついて生きていたのだという。野原は獣だけのものではなく、人もそこに寝そべり、獣たちと同じ世界を共有していたのだと……今ではビルが建ち並び、この一帯は見渡すばかりの舗装路だ。私の祀られているお社は山道の外れにあった。ながい戦争が終わったあと、それを不憫に思った善良な者が、然し何の勘違いか移住先の

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ペトリコールと桜色

ペトリコールと桜色

 駅ビルには決まってコスメのフロアがある。幼い私はいつも、そこを通るのが苦手だった。厚化粧のにおい。着飾った女性たちの生白い肌。降り注ぐ照明の冷たさ。そのすべてが、息苦しくて仕方がなかった。

「社名にもあるFrostは……こちらの香水は創設者の思い入れがあって……」

 そんな私が、どんな因果か客に香水を売りつけている。ガラス瓶に注がれたそれらには、それぞれ価格と香りのモチーフ……それと販促のた

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ふじうのこと #大人百合

 藤生の背中には、背骨をなぞるように裂傷の跡がある。白くて艶やかに膨らんだそれは、蛹の羽化を連想させた。行為のあと、豆電球の照らす下で橙色に染まったその傷をなぞると、新しい皮膚の柔らかさが指にまとわりついてきた。細く平板な背中に走る縫い跡と傷跡。それが、絶頂を迎えたあとの見慣れた景色だった。

「緑間先輩……今、背中に触りましたか?」

 丁寧な口調でそういって、ベッドの端に腰かけた藤生は肩越しに

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幼女VS痴女②

 さて問題です。
 日本にある上り坂と下り坂。
 多いのはどちらでしょう?

 ……ええ、もちろんそうですね。正解は「どちらも同じ数」です。

 では、もうひとつ問題です。
 日本にある階段で、上り階段と下り階段、どちらがより多いでしょうか?

 ……どちらも同じ? いいえ、ちがいます。
 正解は、上り階段。
 なぜなら、絞首台へ続く十三階段は、上ることはあっても下りることはないのだから……。

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幼女VS痴女

 やばいことになった。まじでやばい。生まれてこのかた十一年、こんなにやばいことはない。塾の帰りだった。夜九時に外なんて歩くんじゃなかった。家まで歩いてすぐだからって、スマホ見ながら歩いているべきじゃなかった……この世は残酷なんだ。大好きなゾンビ映画から、わたしはなにも学ばなかったということか。阿呆め。馬鹿め。

 家まであと一分のところだった。いつもの通り、裏通りを選んで近道していたら、急に体がぐ

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うしろすがたの(小説)1/2

 ずっと昔、人がまだ人の姿を取る前のことを夢にみる。それは魚の記憶だったり、鳥の記憶だったり――原生生物の記憶だったりもする。揺らいで、よどんで、移ろって……今私たちが人の姿をしていることはある意味では奇蹟に近く、そこには神の実在を信じる根拠もあるのかもしれない。
 冷夏は名前のとおり冷たい人だ。けれど夏に現象としてみられる逃げ水のように、とらえどころのない優しさを持っている。
 前述のようなとり

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青ざめていたころ(小説)

青ざめていたころ(小説)

  1

 まだ震災からそれほど時間の経っていないころ。派遣先での仕事がひと段落ついて、ようやく正社員になれそうな話が持ち上がったり、結局つぶれたりした。そんな上司とのやりとりはもう五回目で、私は呆れて、出向先での仕事をしばしば雑にこなすようになっていた。毎朝、スーツを見るのもいやになっていたくらいだ。IT関係の仕事というものは、上の持ってきた企画とそれを実行するための説明書の束、それから確実に実

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