#135.【語源クイズ】合成語と知らなかった合成語2
問.2つの独立した語を合成したものを複合語と言います。古英語期にすでに1語として成立していた複合語を挙げました。しかし1つだけ、独立した語でない要素(つまり接辞)を含んでいる単語があります。どれでしょうか。
① answer
② nostril
③ garlic
④ worship
用語は英語文法なのかと日本語文法なのかによって厳密には違うようなので、詳しい方にはツッコミどころ満載かもしれませんが、ざっくりとした定義で考えています。ここでは「複合語(compound)」の定義を、もともと独立して使うことが可能な別の語が合わさったものと想定し、接辞は独立しては使わないものと考えます。それで、接辞のついた語はどれかを当てれば正解になります。
解説
① answer は 何かの語根に-erがついているのでしょうか?いいえ。古英語の andswaru から来ていますが、要素を分解すると "and" + "swerian" つまり現代英語風に言うと「and-swear」という言葉です。この and は現代では主に並列の意味ですが、古英語では「against」の意味でも使います。大元のゲルマン祖語 *andi、印欧祖語で *h₂énti に遡ると、根底には「面と向かう・前に」という意味がありそれに付随して「前に・すぐ目の前に・近くに・並んで」という意味がつながっているようです。同じ *h₂énti から派生したギリシャ語の接頭辞 ἀντι- (anti-) の意味も「against」ということからも想像できますね。つまり「anti-swear」ということです。投げかけられた疑問に対して確固とした自分の考えを発言する姿がanswerなのです。
② nostril の -il は fossil や pencil の -il のようなラテン語系の語尾のように感じるかもしれません。fossil の語尾は「~に関する」を意味するラテン語の接尾辞 -ilisが元になっていますし、pencil の語尾はラテン語の指小辞 -culus が関係しています。nostril の -il はその類のものではなく、古英語からの語彙です。古英語では nosþȳrel で、字義的には nose + thirl (穴) を意味します。切る場所はnos+tril で、trilの部分はもともと1語だったんですね。ところが þȳrel も印欧祖語まで遡ると *tr̥h₂kʷelo- となり、語根の *tr̥h₂kʷe (through) と、接尾辞の lo- に分解できます。lo- の意味は英語で言うところの ①動詞を名詞化する「-le」(bat + -le → battle) あるいは、②指小辞 (nose + -le → nozzle) のいずれかのようです。ちなみに thirl (穴) は thrill や drill と関連があります。nosedrill と言い換えてみると鼻に貫通した穴のイメージがよく分かります。thrill は「強く貫通する」→「体や感情に急に強く影響を与える」→「感情が震える」という意味の発展のようです。
③ garlic の -ic を ラテン語の-icus、フランス語の -ique から派生した語尾だと疑ってしまうかもしれません。しかし、古英語では gārlēac で 分解すると gār ("spear") + lēac (“leek”) となります。根っこから葉っぱが槍のように急に細く円錐型に出ているニラ類ということのようです。同じように槍のような魚を garfish と呼びます。garlic は純粋な英語本来語だったのですね。
④ worship の -ship は見るからに接尾辞で、これが正解だとすぐに分かった人は多いかもしれません。でも wor- って何でしょうか。古英語では weorþsċiepe となりますが、weorþ は 現代英語では worth です。それで worship とは 「worthship」つまり、「帰すべき価値・尊敬」という意味だった訳です。ちなみに worth は 原義は「代価」で、印欧祖語の *wert-/*wer- (“to turn”)に由来します。関連する語は convert, invert, vertex, versus...で、相対する・帰するというニュアンスを持っています。worship が 相応な栄光を"帰す" というイメージは世界共通なのかもしれません。-sċiepe/-ship は名詞化する接尾辞ですが、shape (目に見える形にする) という語と関連があることも興味深いです。
ということで、④の worship は接尾辞を含む語だが、それ以外は独立した2語を合わせた合成語ということでした。ただ、answer の and- の品詞をどう捉えるか、あるいは nostril の trilの語尾の要素をどう捉えるかによって、複合語なのかの解釈も変わってくるようにも感じました。単語は、分解すればするほど構成する要素の深みが見えて来ます。分子や原子を分析しても一皮むけばまたその下にむくべき皮が出てくるようなときと同じ、不思議な感覚に襲われます。単語って一体何なんだろう。