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マーキュリー・ファー「ものすごく、愛してる。だから、お前をこの手で殺す」

衝撃的すぎた。
過酷な運命に翻弄される兄弟の話とは知っていたが、前情報をそこまで入れずに劇場へ行った私にはあまりの”過酷さ”に驚いたのだ。しかし、マーキュリーファーという戯曲が描かれた当時、そういった状況下にいた人たちが実際にいたのだ。”戦争””犯罪””薬””簒奪”が当たり前の世の中で生きている人。そして、過酷な世の中で生きなければならない人間は、今の時代も多くいる。

ものすごく、愛してる。だから、お前をつかむんだ。
ものすごく、愛してる。だから、お前は悲鳴をあげる。
ものすごく、愛してる。だから、もっと蹴ってもっと殴る。
ものすごく、愛してる。だから、お前は血を流す。
ものすごく、愛してる。だから、お前をこの手で殺す。

エリオットとダレンのこの台詞の応酬はとても、印象的な場面だろう。
舞台の冒頭で放たれたこの言葉。兄弟二人は、このように愛というものを確認しないと不安なのだ。また、彼らは、だから~に続く行為を「愛」と捉えないと生きていけないのだ。もっと蹴って、もっと殴るという言葉は、きっと父親にされた「暴力」から来ている。ダレンの頭をトンカチで殴ったのは彼らの父親であることが、後半の場面でお姫様の言葉により明らかになる。その行為を「愛」と捉えざるえない状況で育った兄弟に、最初私は悲しくなった。挙句の果てに、「愛してるから殺す」なんて残酷すぎるとも思ったのだ。

しかし、後半になり、兄弟二人の人生の記憶や彼らの愛が示されるにつれて、「愛することが相手を殺すこと」につながる理由が段々とわかってくる。この残酷な世の中から逃れる方法。それは「死」しかないのだ。つまり、愛する人をこの世界から救いたいなら、逃したいなら、相手を殺すしかないのだ。

そして、実際にエリオットは実行した。
他国から攻めれ、戦争が始まり、爆撃の嵐が起こったとき、もうこの残酷な世界から逃れられないということを悟る。だから、愛するダレンがこの世界(戦争など)に殺されないために、彼をこの世界から逃すために、エリオットは自分の手で殺したのだ。そして、最期ダレンも受け入れたのだ。

「ものすごく、愛してる。だから、お前をこの手で殺す」

英語にすると

「I love you so much, I could kill you」

と表記されるようだ。愛してるからこそ、殺すことができる。この「could」に全ての意味が集約されているのではないだろうか。


あのラスト解釈が二通りあると思う。爆発のような音が鳴り、暗転するが、あの爆発音は彼ら二人を爆弾が直撃した音なのか、それともエリオットの銃口から放たれた音なのか明確ではない。また、爆弾が落ちるのと銃が発砲されるのどちらが先だったのか、それによってダレンは何によって殺されたのか変わってくる。
ただ、私はエリオットが自分の手でダレンを殺したのだと解釈したい。

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