作家どうし
「落下の解剖学」
映画もコンサートもあまり前知識を入れずに臨むタイプです。これは「落下の解剖学」というタイトルから受けていたイメージとは違う作品でした。わたしは単純なので、シャーロックホームズがモリアーティに滝から突き落とされるくらいの、すさまじい落下と、その死体の解剖と思っていたのです。実際は、自宅ロッジの2階の窓から地面に落ちる程度の落下です。程度といっても、人が亡くなるのですが……。
単純に事故か自殺とみなして捜査は終わらず、人気作家である故人の妻サンドラに殺人の嫌疑がかかります。夫と息子がいて、静かな山荘に暮らし、作家として成功している。さぞ人がうらやむ幸せな女性と思いきや、実は夫婦仲はさんざんで、母国から離れた孤独な環境で、浮気していた過去までも裁判で暴かれていきます。裁判の途中で展開される夫婦喧嘩の回想シーンは、それはもうリアルでした。
妻は誰もが知るような作品を生んできたベストセラー作家。いっぽうの夫は企画構成で終わってしまう作家志望の域を越えない人。書けないのは家事や子育てを自分一人が負わされているからだ、君は身勝手だと、仕事が順調な妻を責める。猛烈な夫婦喧嘩の翌日に、夫は転落死します。
どれくらい実在するかまで知りませんが、作家どうしという人間関係はよく用いられるモチーフです。わたし自身は、自宅でくらいは「君の書いたあの文章のあそこは」とか言われたくないなあと思うのですが、逆に言うと一番の理解者にもなってくれるのかも。
わたしの属する雑誌編集という職場環境では、フォトグラファーとスタイリストとか、アートディレクターとヘアメイクといったカップル成立が多く、いつのまにかエディターだけが何も知らずにいたというのが、よく「あるある」なお話です。
見出し画像は今年の2月に訪ねた新潟県十日町市の雪景色。例年の3分の1ほどの積雪とのことでした。