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映画『ラストマイル』を全人類が観るべき理由

8月24日に都内の映画館へ『ラストマイル』を観に行った。
当日は近くの江戸川で花火大会があったにも関わらず、夕方の回はほぼ満席。客層は若いカップルから家族連れ、お年寄りまで幅広い印象だった。
上映前の劇場内では『アンナチュラル』や『MIU404』の話題が方々から聞こえ、来場客の多くは塚原×野木ドラマのファンであることがうかがえる。("I ♡ JAPAN”Tシャツを着た2人組の女の子もいた)

映画の内容は、期待を超えた期待通りのものだった。ドラマファンの期待に応えながら、それ以外の人でも十分に楽しめる作品になっている。書きたいことはたくさんあるが、今伝えるべきことはたったひとつ。
今すぐこの映画を観に行ってほしい。
その理由について、極力ネタバレをせずに書いていきます。

誰もがこの物語の当事者である

流通業界最大のイベント「ブラックフライデー」を控える中、世界規模のショッピングサイトから配送された荷物が爆発する事件が発生する。
誰が、何のために爆弾を仕掛けたのか。
残りの爆弾はいくつで、今どこにあるのか。
これが本作の見どころではあるが、事件を通して明らかになる物流業界の深刻な問題が、本作の重要なテーマになっている。

3億品目が保管されている「DAILY FAST(デリファス)」の物流倉庫には、社員9人に対して800人の派遣社員が、ベルトコンベアの稼働率70%以上を維持しながら”システム”として働いている。最初の爆発が目玉商品であるデイリーフォンだと知ったセンター長のエレナは、1万台のデイリーフォンの出荷中止を決断する。「ブラックフライデー」中にベルトコンベアが停止し、膨大な損失を出す事態を避けることが、彼女に課された使命だった。

その影響を最初に受けたのが、商品配送の60%をデリファスに依存する配送業者だった。さらにしわ寄せは配送業者と業務委託を結ぶ個人ドライバーに波及する。単価150円という安価で配達を請け負う彼らは、荷物を受け取ってもらえないと一銭にもならない劣悪な環境で働いていた。

誰もが搾取の構造に気づきながらも、「お客様のため」「自分にはどうすることもできない」という魔法の言葉で正当化される現状。
荷物に爆弾が仕掛けられているにも関わらず、倉庫の稼働は止められないのは誰のせいなのか。
それは間違いなく、魔法の言葉で現状の問題に目を瞑りながら、社会の”システム”として生きる私のせいでもあるのだ。

社会批判に留まらないのが本作の素晴らしい点である

本作が素晴らしいのは、単なる社会問題の指摘で終わらない点にある。物語の終盤で、問題に目を瞑っていた自分の間違いに気づいた人物が、社会変革を企てるのだ。
自分ではどうすることもできない問題に対して、どういった行動を起こすのか。その答えは映画を観て確かめてほしい。
行動の結果に対して、あなたはどんな感想を抱くだろうか。

社会批判に終始する作品も多い一方で、本作からは社会を変えようとする制作陣の熱意が伝わってくる。
批判ならニュースや本を読めばいい。
物語は人を動かし、社会を変えることができる。
そんな声を私は本作から聞いた。

問題に目を瞑りながら、便利な社会を享受するすべての人へ。
社会に不満や怒りを抱えながら「何もできない」と嘆くすべての人へ。
社会のシステムによって苦しめられているすべての人へ。
今すぐこの映画を観に行ってほしい。
それが、この社会を変える第一歩だ。

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