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池田幸代さん(長野県駒ヶ根市議会議員)インタビュー 「女性の社会進出と左派の未来」


 薄々皆様、お気づきかと思いますが、最近レポートを出すペースがめっきり減っています。 取材済みで未執筆の選挙も抱えていますが、それに着手する気になれない(汗)コトに加え7月8月と取材可能エリア内(下道運転で片道4.5時間以内)で選挙が殆ど無く、新規レポートも出せない状況です。

 と、いうワケで、何か新しいコトをしたいと思い、以前からやってみたいと思っていたインタビュー企画を始めてみます。 第一回は、

 昨年の市議選取材以来、何度かお会いしている長野県駒ヶ根市議会議員の池田幸代さんにインタビュー。 特にテーマを決めず、対談、というか対話のような形から流れ行くままに話を進めてみました。(取材日:2024年7月25日)




・池田幸代さんプロフィール

 東京出身で小学校に上がる直前に長野県南箕輪村に移住して小中高と学び、東京の日本社会事業大学に入学。 在学中から東京・山谷地域の野宿者の生存権を守るためのボランティア活動に参加します。
 卒業後、福祉新聞で記者として貧困や虐待問題についての記事を書き、28歳から政治の世界に入って田嶋陽子参院議員、阿部知子衆院議員、福島みずほ参院議員の秘書を歴任。 2007年から衆院選等の選挙にチャレンジした後、2019年の長野県駒ヶ根市議選に当選し、現在2期目。
 社会福祉士で防災士。 また、社民党長野県連合副代表、長野一般労働組合上伊那支部書記長も務める。


・ 「女性差別撤廃条約」と「選択議定書」について

 インタビューに伺うと、池田さんは「女性差別撤廃条約」「選択議定書批准」を自治体に求める運動をするにあたりアドバイスを求めてきた市民の方と話をしていました。

 「女性差別撤廃条約」と「選択議定書」について(付け焼刃の知識ながら)説明させていただきますと、

 「女性差別撤廃条約」は女性に対するあらゆる差別を撤廃するコトを基本理念として1979年に国連が定めた条約です。 批准国は現在189か国で日本は1985年に批准しています。

 一方「選択議定書」は、同条約の実効性を強化し女性が抱える問題を解決するコトを目的に1999年に改めて採択されたものです。

 議定書を批准するコトで裁判所(司法)が女性差別撤廃条約を裁判に適用できるようになったり、国会(立法)で性別に基づく差別的法制度の見直し、法整備の進展が期待できるため、女性差別撤廃条約に記されている内容を実現するには選択議定書の批准が不可欠なのですが、批准国は現在115か国ですが日本はまだ批准していません
 批准を求める意見書は2024年3月時点で10府県、8つの政令指定都市を含め233議会で採択されていますが長野県では残念ながら動きが遅く、最近になって長野市や松本市など20自治体で採択され始めている状況です。

 ただ、選択議定書批准を求める意見書を採択したリスト(Googleドライブ)を見ると、とてもじゃないけど「男女平等」が進んでいるとは思えない自治体も名を連ねており、「これって “形だけの採択” で終わってねぇか?」という疑問が湧いてきたので、その辺りから聞いてみるコトにしました。


・ 「女性差別撤廃条約批准を求める意見書」を出すコトで、見えてくるモノとは

――先ほどまで「女性差別撤廃条約批准を求める意見書」(以下、「女性差別撤廃~」)についての話を見させていただいて思ったのですが、これだけ多くの議会が採択している割には、そこで女性の社会進出が進んでいるようには見えないのですが。

池田幸代さん(以下、池田) だって、全国1700自治体うちの200だから。

――とはいえ、これって役所で良く見る「核兵器廃絶宣言」みたいに “採択しただけ” で終わっているような気がして・・・

池田 終わってますね(断言)。 終わっていることは確かだけど、採択しないよりはマシというところで。 というのも採択の際に議員の賛成反対、賛否が「議会だより」に載るから。 だから男性は、それが “ポーズ” でも賛成しますよ。 だって「あなたは男女平等に反対なの?」って言われたら絶対票を減らすから。 だから男性議員も、本気ではないかもしれないけど通らないよりは絶対通った方がいい。 やっぱり可視化されるから、それは。

――否決されるケースってあるんですか?

池田 あると思いますよ。 「女性差別撤廃~」とは違うけど、「国に能登半島被災地域に強力かつ集中的な実施を国に求める意見書」を議会に出したとき、会期末だったってこともあったんだけど、とはいえ流れを追って行けば別に賛成とか反対とか採択できるでしょ、って思っていたのに、見送られました。 

――なるほど・・・ 話を「女性差別撤廃~」に戻しますと、〇〇県のような明らかに男尊女卑が強そうな県で多くの自治体が採択されていたりしているので「そんなバカな!」って思いながら、この自治体リストを見ているんですが・・・

池田 でも長野県は、つい最近まで「ゼロ」だったからね。

――そこですよね、それびっくりしたんですよ。

池田 私もびっくりした。 え、そうだったのか? みたいな。 私もチェックしていなかったから。

――国政とかの視点で見ると長野県って割と左派リベラル系が他県に比べて強いのに、実は細部まで見ていくと「女性差別撤廃~」を採択しないという現実が有るってコトなんですよね。

池田 なぜそうなっているかっていうと、地方議会の議員は「地区」から出ている人が多いから。 地区で選ばれて「実務」の経験が少ない人もいます。 例えば今回「伊那谷三市女性議員ネットワーク」を立ち上げましたが、

規約を作ったり、プレスリリースを作ってどこのメディアに流す、という実務をやったことがない人が多いのですよね。 だから一部のメンバーに実務が集中していました。

――メンバーを見て、そうだろうなという気がしてました(笑)

池田 だから「女性差別撤廃~」として可視化する。 ネットワークを作って可視化する。 そうすることによって女性の置かれているポジションがまだ低いんだよ、ってことをどうやったら伝えられるかという段階なのです。

――そうなると、女性議員が増えたからといって上手いコトいく・・・

池田 いかないいかない(笑) いいの。 でも、それでも女性議員が少ないより多い方がいい。 それは結局、地域から出てくる「ボス」を少なくするために必要だから。

――もちろんです。

池田 で、今なんで女が政治の場に出ないかというと、インキュベーター(育成する仕組み)が無いから。 男たちは地域のインキュベーターで育ってくるわけですよ、例えば立ち振る舞いとか見栄えとかも含めた経験値が。 だって、私が28歳で初めて候補者になった時、保坂展人さん(現 世田谷区長)から「池田さん地味だ!」って言われて、まず髪の毛を染めなさい言われたのですよ。 当時の私は普通の業界紙記者だったから派手にする必要は無いじゃないですか。 私が他の候補者の方々を見ていても「首から上は地味だが、洋服は派手」と感じました。

――なるほどぉ。

池田 候補者になるって普通の生活と変わっちゃうんですよね。 だからそこの意識を変えるのが一番大変。 男の場合それをJC(青年会議所)とか消防団とかで前に出させていくことによって、ちょっとずつ自分が「できるんだ」っていうことが分かってくる。 だけど女はそういうような「経験をする場」がすごく少ない。 ここがなかなか・・・

――確かに、はい。

池田 実は議員になるって、別にすごく難しいわけじゃない。 じゃあなにが壁になっているかというと、「意識」。 そこを超えられる人ってすごく少ないというのが私が感じていることなのです。 例えばさっきの「女性差別撤廃~」含めて、つまり成功体験が少ないわけ。 だけど意見書採択に向けて運動しますとかで活動していくと、そこで “場慣れ” していくじゃないですか。 だからこれって長い目で見ていくと、自分たちの意見をどう政治に反映させるかのプロセスとして「女性差別撤廃~」の動きはすごく大事だと思っています。


・役所の管理職に女性がいない問題

――ここまで話を伺って思ったのですが、「議員」は住民の「意識」を変えて、そこで女性が選挙に立ってもらい、投票によって女性を増やすコトが出来る。 その流れは分かった一方で、以前池田さん個人の発行物に書いてありましたが、「議会の答弁者に女性がいない」という問題。 つまり役所の女性進出というか “男多すぎ問題” をどうすれば良いかというのは議会を変えるよりよっぽど大変なコトじゃないかと感じたのですが。 

池田 役所はね、ほんと大変だと思いますよ。 私も長野に来てビックリしましたから。「え、誰も女性の答弁者いないじゃん!」って。 でも国会にもいないけどね。

――そうですね、確かに。

池田 各省庁から出てくる役人の中で女性があれだけしかいないから、どこも多分すっごい大変なんだろうと思っています。 ほんとにいなくてビックリで。

――それってどうすれば変わるのでしょうか。 例えば議会で女性が増えることで変わるものなのでしょうか?

池田 それには2つのルートが有ると思っていて。 ひとつは、女が首長をとること

――はいはいはいはい!

池田 それで首長が「うちの役所は管理職の女性を3割にします」という公約を掲げて当選すれば、というのが有るかなと思っています。 アファーマティブアクション(積極的格差是正措置)が絶対必要ですよね。 あとはね、そうだな・・・ 私や金城さん(池田さんと金城は同世代)ぐらいの時は高卒で役所に入った人がいたんだけど、今はほぼほぼ大卒ですよ。 だとすると(確実ではないが)採用の際に「男女」よりも「学歴」が重視されているんじゃないかと思って。 そうすると今の若い人たちは結構女性が役所に入ってきているだろうと思っています。

――入ってきているが、

池田 そこから管理職になってという時に、ちょうど結婚したり子どもを産んだりする “適齢期” ってあるじゃないですか。 それを気にする周りの視線というのが多分地方ほど厳しくて、例えば役所内で職場結婚すると女が辞める。 男が管理職になった時に辞める。 出産で辞める。 あと自分の更年期とか含めて女が働き続けるって多分いろいろハードルが高いと思うんですよ。 それは地方で暮らす女たちにとっては特に、ね。 つまり男は家を留守にしても妻か誰かいるけど、女が家を留守にするとなると、例えば親がいれば任せたりできるが結婚していると多分無理、みたいな。 そういうのはいろいろあるんだなと思ったんです。 で、更には女性で働き続ける「ロールモデル」がないからすごく不安なんだと思う。 そこから、不安が大きいから失敗し、失敗して自信を失う。 みたいな “負のスパイラル” になっていると思うんですよ。

池田 そういう人たちに例えば「伊那谷三市女性議員ネットワーク」で女性たちが立ち上がる姿を見せることとかで、女が管理職とか指導的ポジションを得るということについて「見える化」することが必要だと思うのです。 女たちは今の処遇に満足しておらず、議員もネットワークを作ります、「女性差別撤廃~」も働きかけます、 それに触発されて動き出します、というボトムアップが必要だとすごく感じていて。 役所の話も、そうやって女性が動いていくのを見た人が次に続くという形が、ふたつめかな。 長くかかる感じは有るけど。

――長くかかるけど、

池田 私たちはしつこく働きかけ続ける。 議会で「まだ女性の管理職は出ないのか!」と。 議会事務局の人が言っていたのですけど、議会って「圧力」なんですって。 役所内部でいろいろ思っているけど自分たちだけだと変われない。 そんな時に議員さんが一般質問で取り上げるとかの動きを見せていくと、その外圧で「変わらなきゃいけない」となっていくそうです。 そうやっていろいろな人の言葉を聞きながら、どうやって動かしたらいいのかっていうことを日々、虎視眈々と考えるわけですよ。 話をしてくれるって、私たち議員の経験が有効だと思うからこそ声をかけてくれるわけじゃないですか。 それってすごく大事にしたいと思っています。

――役所が「意見を取り入れる」という体で変わっていくと。

池田 例えば、市が「男女共同参画計画」を作るっていう時に、

当時、市議会内で「駒ヶ根市女性議員連盟」を作っていたから、そこに男女共同参画担当者が話を聞きたいって来たわけ。 で、本当は「女性『議員』の比率を3割にしたい」って言いたかったんだけど、それだとハレーションが起きるから「女性『候補者』を3割にします」っていうのを入れ込みました。 そういうことって役所側は言えないわけですよ。 「女性差別撤廃~」の話と同じで。 役所からは「批准します」とも「批准しません」とも言えない。 だけど「検討会」で調査と研究は続けている。 世のトレンドから遅れをとらないように。 しかし最後に決断するのは「政治」なわけです。 だからこそ「女性候補者の比率を3割にしてくれ」と女性議員側から言ったから、という “言い訳” のようなものを役所側に提供することで「そう言われたらやるしかない」という形になるように、うまく “素材” を提供して自治体毎に「見える化」していくことで競わせる。 その「圧」をかけるのが私たち議員の仕事かなって思っています。

――その「見える化」をしていくと、長野は遅れているワケですよね。

池田 長野、遅れているんですよ。


・情報を獲りに行かない人たち

――先ほどの市民の方との話を見ていて感じたんですが、連絡先を交換しようという時にスマホを使いこなせない方がいたじゃないですか。 というコトはネットの情報を収集していないハズなんですよね。 市民の方が「周りに自分の活動や思いを理解してくれる人がいない」とこぼしていましたが、今ならネットの配信とか見ていれば同じ意見を持っている人がいるというコトも知れるし、そこから学ぶコトも有るハズ。 でもそれが出来ない、というか、しない。 つまり、情報を獲りに行っていないんですよね。 

池田 そうですねぇ。

――ああいうトコが厳しいなぁという気がして。 情報を能動的に取りに行こうとせず、優秀そうな人(議員、首長など)を “崇め奉る” という傾向が最近強くなっている気がして。 

池田 そうですね。 長野に戻ってきて感じるのは、圧倒的に情報量が少ない。 それはちょっと、申し訳ない。 私たちの先輩もその部分を耕してこなかったのかなぁと思うところで。

――そうかもしれないですけど、社会が完全にネット社会になっている中で、そこのスキルを少し上げるだけで情報はもう入り放題になっているのに、そこに触れないまま社会活動をしているというのは・・・

池田 どうしていったらいいんでしょうね。 その情報量の差が女性たちの意識の差に繋がっているなと感じますね。 例えば、ボトムアップの市民活動を立ち上げた時に女性がそれよりもスピリチュアルな活動に魅力を感じちゃってそっちに走っちゃうというケースが有るのですよ。 

――先程の “崇め奉る” 話に似てますね。

池田 なんっていうか・・・ “希望” って全然人から与えられて出来るものじゃないわけですよ。 自分で苦労して獲得していく、あるいは経験値を高めていろいろなネットワークを作っていくとか、そういう「過程」が大事だと思っていて。 だから私はずっとそれを都会でやってきたんですけど、今の人ってそういうものをすっ飛ばして「成果」だけ欲しがっているように見える。 ハッキリ言って安直でお手軽なんだけど、そういったものに持っていかれているなという感じがします。


・自分を苦しめているもの

池田 なんっていうか、厳しいなって思ったのは、自分を苦しめているものっていうのは自分の内側じゃなくて外側に有るわけですよ。 だから、そこの構造とか仕組みとかシステムとか、そういうことに対してちゃんと感度を上げて、何がおかしいのか、どうやったらそれをクリアに出来るかっていうのを考えなきゃいけないのに「自分が変われば・・・!」って思っちゃって、それが酷くなると周りの人を巻き込んでしまう。 これがめっちゃヤバいなって思っているところなんです。 今、これから勉強したいと思う女性に対して、外側を変えようという方向に向かわせずに、「自分の内側を変えましょう !」という方向に向かわせるトリックがあまりに多いことに気づいて、いやこれヤベェわ、と。

――ヤバいですよね。 ただ、その話を聞いて気づいたのですが、「社会活動」「スピリチュアル」って対極なのでしょうが、現状を憂いて「変えたい」という点では同列と捉えるコトが出来るのですね。 もちろんその方向が「内側」か「外側」かで大きく異なるとはいえですが。 だから「変えたい」という同列という点において、参加したり活動したりするコトが難しいと思われがちな「社会活動」を今流行の「スピリチュアル」と同じハードルに設定するコトが出来ると。 なるほどなぁ・・・!

池田 これも都会と地方の格差に繋がっていると思っていて、私が都会で一緒にいた女たちは自信に溢れていたというか、みんな自分の仕事をそれぞれ持って、「私はこれで生きていく!」とか「私はこうやって働くんだ!」とか、すごく「自分軸」を持っていたんです。 お金がすごく有るわけじゃなくても。 私はそこでお互いに尊敬できるような人間関係の中で生きていたのですが、長野に来てみると、なんかみんな “焦ってる” なと感じたのですよ。 

――焦り・・・

池田 さっきも言った「経験の場」が無いから。 だから例えば子どもがいて、その子の出来が良かったりしたら「〇〇ちゃんのお母さん」みたいな感じで認められたと感じるのだろうな、と。 それ以外に女性たちが本当の意味で自尊心を獲得できる場をどうやって作れるかなっていうのがすごく課題なんです。 そうじゃないと「スピリチュアル」の名の下に搾取されたり騙されたりする側にまわってしまう。 もちろん都会も騙されることは多いですが同時に「経験の場」も多いから。 で、そういう自尊心を獲得できる場を作れれば政治的にもっともっと感度が上がる人が増えると思っていて。 何故かっていうと政治によって蔑ろにされているわけだから。 だけど、何故自分がこんな不当な目に遭っているのかという根源に気づかない限りは搾取され続けてしまう。 だからガチンコで社会生活を変えるしかないんですよ。


さて、話はここから、「都知事選」を通じて見えてきた「ミソジニー」「レイシズム」社会についてに移っていきます。 奇しくも取材後に岸田首相が次期総裁選不出馬を表明し、総選挙がより近づいてきたように感じる中ですが、左派リベラルはどう戦うべきかについて語り合っていますので、是非御購読いただいて後半も読んでください!


・ 「都知事選」について聞いてみた

――先程の「過程をすっ飛ばして成果を求める」という話もそうですが、最近「チート」(cheat:イカサマ、不正行為)思考ってものスゴく強くなってきていると思うのですよね。 それは右派左派問わず。

池田 確かにね。

――で、そこから話を「東京都知事選」に繋げますが。 まず、ざっくりで申し訳ないのですが、どうでした? あの選挙を見て。

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