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価値を生むアイデア発想法と場づくり:∞プチプチの企画開発者・高橋晋平氏に聞く「妄想とVUCA時代の幸せな働き方」#02

(前回の「妄想から始めよう」に引き続き、数々のヒット商品を手掛けたおもちゃクリエーター高橋晋平氏に、妄想商品マーケット「MouMa」と妄想について、お話をお聞きします。)

高橋晋平
おもちゃクリエーター(株式会社ウサギ 代表)
Twitter:https://twitter.com/simpeiidea
HP:https://usagi-inc.com/

アイデア発想の仕事とワクワクの源泉


− 新しいものを生み出すことにワクワクする、その源泉は何ですか

僕のモチベーションは、人に笑われることだけなんです。

これは、僕の変態性でもあります。生い立ちを言うと、秋田県出身で、めちゃくちゃ内気で人見知り、根暗で友達を作れず、あまり喋らないような子どもでした。

中高は不良に絡まれることありましたし、もう二度と戻りたくないぐらい10代を過ごしたんですが、その当時、僕はお笑い好きで、テレビではボキャブラ天国を見て、色々な芸人さんをかっこいいなと思っていました。

誰かの話に合わせて、すぐに返すという喋りが自分にはできなかったし、そんなことができるお笑い芸人は凄いと感じていましたし、まして誰かを笑わせるということができなかったから、憧れていましたね。

− そう感じないのですが、何か変わるきっかけがあったんですか

大学に行って、僕の過去を知る人がいなくなり、いわゆる大学デビューしたいと思っていて、お笑いサークルの落語研究部に入りました。

最初は全然ウケなかったんですけど、続けていたら3年目ぐらいからウケ始めて、人を笑わせることというのは、本当に嬉しいし素晴らしいと思いました。

ずっと憧れていたことが、自分でできるようになって、自分が次のところへスタートできた感じがあり、もう取り憑かれていましたね。

笑いが変えたアイデア発想の仕事


− 人を笑わせるという喜びは、仕事にも影響を与えたんですね

就活の時も、僕は工学部だったのでシステムエンジニアや製造の仕事も検討したのですが、それらには全く魅力を感じず、一方で芸人になるような力が無いのは分かっていたので、人を笑わせられる他の仕事を考えました。

色々探したら、おもちゃ会社という選択肢が見つかりまして、自分がやってきたもの作りに関することを活かして人を笑わせられるのではないか考えて、バンダイに入社しました。

入社時から、ふざけた企画ばかり出すんですけど、その時は履き違えていて全然売れそうなものを出せていないから、当然ボツになるんです。

− 仕事に関しては、どこが分岐点でしたか

ずっと売れる商品を出せなかったんですが、入社4年目に発案した∞プチプチという商品が大ヒットして、それがやりたかったことに近いことができた分岐点でしたね。

人気のキャラクターグッズを作って売れたり、便利グッズを作って便利だねと言われたり、オシャレグッズ作ってオシャレだねと言われたりしても、まだ満たされないんです。それよりも、僕の場合は、笑われる商品を生み出したいです。

自由な発想の場づくり


− 人生のテーマが仕事のテーマと紐づいているんですね

僕は、自分の人生とか人生観を反映する仕事ができた方が嬉しいと感じています。自分は、30年ぐらい生きてきて、その中で色々あって、個性や性格も含めて、自分がやって嬉しい仕事で物を作れるというのが幸せなことだと思っています。

新しいことというよりは、自分が欲しい感情を得られる仕事を一人ひとりができたら素晴らしいと思っています。

ですので、僕の場合は、細かい話をすると、笑ってもらうというよりは、笑われるということを目指したいと思うんです。

− 笑ってもらうと笑われるでは違いを感じるんですね

最初は、笑わせたいという表現しか使ってなかったんですよ。お笑いに憧れて、落研に入った当初は、人を笑わせたいと考えていました。「俺のセンスで笑わせてやるぜ」という感じでしたね。

ところが、それでは全然ウケませんでした。その3年目ぐらいに、ようやくウケた時というのが、それを変えて自分を受け入れた時でした。

僕は、身長183cm・体重53kgぐらいの骸骨みたいな容姿で、全身のフォルムが凄くて、動きも骨が風に揺れて動いているみたいな感じなんです。さらに、昔は性格も暗かったですし。

しかも、高座にあがる時は震えながら緊張していたので、笑わせようとしてもウケるわけないんですよね。それが、3年目ぐらいの時に、原付で工事現場の穴に落ちた話をボソボソ話す自虐ネタにしたら、それがウケたんです。

− そこで笑われることが快感になったんですね

そうですね、そのままでも面白いんだと感じられましたし、嘲笑されるのではなく滑稽に思って笑われて、結果、それが手っ取り早いし、嬉しいと考えました。

独立・起業して、人前で話すことが増えるようになってからは尚更、笑わせるのではなく、笑われた方がうまくいっています。

みんなでアイデア会議をする際、ファシリテーターとして回すような役割をすることが増えましたが、闘争心むき出しでプレゼンし合うような環境よりも、自分が笑われることで、みんなが自由に意見を出し合える場をつくることを考えています。

発想の場づくりで重要なこと


− 笑われることでアイデアが生まれる場づくりをしているんですね

安心感を与えていった方が、参加する人は緊張せずに、痛いと思われるかもしれないようなことも言えるようになります。これも、起業して3年目ぐらいにようやく掴んだ感じです。

それまでは、初めて自分で起業して結果を出さなきゃいけないと考えて焦っているから、ウケるアイデアや良いアイデアを出さなきゃと考えても、何も起きないという状況でした。

考え方を変えてからは、笑われて愛される力というのが、とても重要だと思っています。

− 格好つけている所からは、自由なものが生まれづらいですよね

そう、本当にそうです。誤解を恐れずに言うと、僕はイノベーションを起こすと言えなかったりするんです。

笑わせると笑われるとの違いに少し近いイメージで、しょうもないと思われながらも、そこから面白いものができて、それを使って幸せになる人が出てくるというのが理想です。

別に、イノベーションと言っている人を否定しているわけではなくて、僕は、そういう仕事が楽しいし、憧れもあるし、そういう働き方をしたいと思っています。

求められる発想の場づくり


− 笑いから面白いものが生まれて、人が幸せになることもありますね

イノベーションと笑いが対極にあるものでもないですし、僕の少し歪んだ発想かもしれないですが、笑いというのは、生活用品や医療サービスとかと同格なぐらい人間にとって重要で、必需品だと思っています。

実際のところ、プロダクトで笑わせるのは超絶難しいのですが、講演では成功談を語るより失敗談をまとめて話した方がウケますし、参加する人は失敗から学べますし、そういう方が、ビジネスは楽になることを伝えられます。

特に大きい会社の場合、大変なことが多いから、安心感を持って笑顔で働いてる人が少ないように思います。エンタメ企業の人が、笑わずに商品を開発するのはしんどいですよ。

− 企画開発の現場でも、笑える環境は重要ですね

笑える環境で、自分が凄いと思われるより、しようもないと思われて安心感を与えられるのだとしたら、その方が仕事人としての力を発揮して役割を果たしているように感じます。

そう考えると、人に笑いを提供できる人は、居る価値があると思いますし、誰でもそうなれると思います。今は、別に何かを実現する必要がなく、何かを投稿して、誰かがそれを見てクスッと笑うこともあります。

そうであれば、その人とそのネタやアイデアには価値があるし、妄想というのは、その少しの笑いを生み出す手段というイメージです。

妄想というアイデア発想法


− 改めて、妄想についてどのように捉えていますか

多分いくつかの意味があって、自分なりに定義があります。

「妄」という漢字から読み解くと、男性が女性に心を奪われるという意味合いになります。それぐらい、色恋に夢中になって、訳も分からない状態になる強い欲求があるということです。

ですので、妄想というのは、そのぐらい欲してしまう状態で想うということになります。なので、中学時代に好きな子ができて、何の根拠も無いけど、その子とのことを妄想するわけです。

この点に関して伝えたい妄想のポイントは、その人の中で実現可能性を問わないということです。

− 「MouMa」でも、実現可能性を問わないことが前提ですね

そうです。何か強い欲求があって、こんなものがあったらいいなという妄想商品が生まれて、それを見て共感すると、やはり笑い生まれるんですよね。別にウケを狙いに行く必要はくて、実現可能性を問わないことで、笑いや共感が生まれる商品アイデアが出てくると思うんです。

作れるかどうかは置いておいてアイデア出しをすると、良い夢の発明合戦になります。そこに値付けをすることで、その後、実際に売れるかどうかやどうやったら本当に近いものを作れるかという話になります。

それが、1000個に1個ぐらいは必ず出てくるようになれば、妄想起点で新しいものが生まれるようになれば、凄く良いと思います。

− 「MouMa」においても価格を設定する前提を残されていますね

発明ゲームでも、売るということがどういうことなのか、欲求やニーズと商品の関係性を重要視していますが、値付けが無かったら、無価値になってしまうんです。

妄想アイデアと価格というのはセットであることが重要かつ本質で、その妄想が叶うのなら、お金を出してでも絶対に欲しいと思えるものが生み出される仕組みをつくることなんです。

そこが、お金を出してでも絶対に欲しいと思えるかどうかが、一番の面白い境目でありポイントだと考えています。

妄想アイデアから価値を生み出す


− 実現可能性は問わないが、単なるアイデアでは価値が無いと

例えば、以前話したことで、どこにでも行けるドアのジャンク品が8万円なら買うかという話がありました。これが、じわじわくるんですよね。どこにでも行けるドアのジャンク品だけだと、そうはならない。

実際に8万円で買うかどうかを考えることで、どこに行くか分からないようなジャンク品のドアだと危なくないかとか、ドアのノブが取れて戻れなくなったらどうするという話が出てくるわけです。

ビジネス企画文脈で話すときは、価格というのは必須要素なんですが、今話したような文脈でも、価格の設定があるかどうかで、その妄想アイデア自体の価値は大きく変わります。

− ビジネス企画文脈からも、有効的なツールになりえますね

そうです。決して、価格が安ければ良いというわけではないということも分かるでしょうし、ビジネスのセンスを磨くツール、言い換えれば、ビジネスに沿った学習ツールとしても、「MouMa」は十分に機能すると思います。

実現可能性を問わない妄想アイデアに、価格というリアリティを付与することで、分かる感覚があります。その感覚が無いと、発想ではなく空想に近づいてしまうんです。

妄想は、欲求を表すものなので、本当に欲しいかどうかということを語り合いながら、近いことができる方法を考えることも可能だと考えています。


(次の記事では、妄想で実現するコミュニケーションと幸せな働き方について高橋氏にお聞きします。)

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