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「高天原」という地名は日本書紀本文にはない
「高天原」は、もっぱら『古事記』に出てくる地名でした。
他の地名「根之堅洲国」「黄泉国」「常世国」も『日本書紀』本文にはでてきません。
なお、驚くべきところは、このことが一般には広く知られていないことなのです。
日本書紀本文には登場しない地名「高天原」
高天原の特徴は3つあります。1つは、それが『日本書紀』本文には採用されていないこと。2つは、天之御中主神とセットで語られること。3つは、イザナギ・イザナミの誕生までの舞台であることです。
宇宙の始原の描写として高天原が書かれている文献は、2つしかありません。一つは『古事記』であり、もう一つは『日本書紀』巻第一神代上第一段一書に曰くの第四(以下、第四の一書と略す)です。『日本書紀』本文には、高天原は採用されていません。
高天原は、本文に採用されていないながらも一書に曰くとして外伝的に書かれていることから、それが多くの豪族に共通的に伝承されていたもののではなく、特定の一族にのみ伝承されていたのだと思われます。
一書曰:天地初判,始有俱生之神,號國常立尊;次國狹槌尊。又曰:高天原所生神名,曰天御中主尊;次高皇產靈尊;次神皇產靈尊。皇產靈,此云美武須毗。
日本書紀第7段本文はどうでしょうか。「故,六合(くに)の内常闇(とこやみ)にして,昼夜の相代も知らず」。これだけです。日本書紀本文は高天原概念を採用していませんから,世界は,「六合」という言葉で表現されます。
日本書紀本文は,「高天原」という用語を使っていない。
日本書紀「本文」では,「高天原」に相当するところは,すべて「天」ないし「天上」となっている。
第6段本文で「高天原」が出てくるが,著名な古事記学者である神野志隆光は,これすらも,テキスト自体に問題があり,本来は「高天」だったのではないかと指摘している(神野志隆光・古事記・174頁・日本放送出版協会)。
そして,「高天原」にいるとされるタカミムスヒも,日本書紀ではまともに扱われていない。
関連
古事記と日本書記の相違 【日本神話】
https://www.tsuyama-ct.ac.jp/ippan/H27_hokoku/ehara1.pdf
日本書紀本文における持統天皇の和風諡号
「高天原」は『日本書紀』本文では、養老4年(720年)に持統天皇につけられた和風諡号「高天原廣野姫天皇」にある。
他の文献における地名「高天原」
古語拾遺
一か所のみ
汝天兒屋命太玉命二神。宜持天津神籬。降於葦原中國。亦爲吾孫奉齋焉。惟爾二神共侍殿内能爲防護。宜以吾高天原所御齋庭之穗
常陸國風土記
次には冒頭に2か所と、香島郡 香島略記に一か所。以下出典では画像になっています。
先代旧事本紀
『古事記』同様に「高天原」がでてきます。
延喜式祝詞
『古事記』同様に「高天原」がでてきます。
論文
一〇『日本書紀』神代上、六・七・八段の世界覚書https://kochi.repo.nii.ac.jp/record/2850/files/KJ00002369369.pdf