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外国語を学ぶ力!「動機づけ」を促す教え方とは?

今日は英語学習者向けに、「英語」っておもしろい、勉強したいと思わせる教え方について考えてみます。

前にも触れましたが、母語が確立した人が、例えば英語を外国語として学習する環境においては、すでに持っている限られた知識をテコにして、さらに5や10にしていく「発展性」を担っているのが、まさに文法です。

そこで、この文法を、いかに「動機づけ」と関連させて指導効果をあげていくか、というアプローチについて考えてみます。ただし、最低限の中学校レベルの基礎文法は理解しているという前提である点はお断りしておきます。

ではどのような教え方が動機づけを起こさせるのでしょう?

そのヒントになるのが認知意味論や認知言語学の知見です。というのも文法を“なるほど”の世界へ、学習者を導いてくれるからです。

高校生以上のレベルになると認知的にも発達しているので、ただやみくもに丸暗記するより理屈で理解、納得したもののほうが、断然記憶の定着がいいといえます。

例えば、前置詞についての説明を想定してみます。

まず学習者に「ドアをノックする」を英語で表現するよう問いかけます。
すると圧倒的にKnock the door.と回答する人が多いでしょう。

正解は Knock on the door.。英語を母語話者は決してonを忘れません。

元慶応義塾大学の田中茂範先生は『英語感覚が身につく実践的指導』(大修館書店)の中でその理由を次のように説明しています。

「Knock the door.では、『ドアそのものにノックという衝撃を与える』という意味になり、「そしてどうするのか」という疑問が残るため、通常、Knock the door down.(ドアをなぎ倒す)のようにdownなどの副詞を伴う。一方、knock on the door.だと『接触』のonがあるため、『ドアの表面』が前景化され、ドアの表面にノックするということで、そこから『トントンとたたく』という事態が意味づけされる」 (はしがきより)

onのもつ「接触」というコアが生かされている実例です。

onを単に「~の上に」と覚えただけではなかなか理解できないし、実際に自分でも使えません。この理屈がわかると、「鉛筆を噛むな、かじるな」も、以下のように表現するその理由がわかると田中先生は同著で述べています。

          Don't chew on your pencil.


よく机で考え事をしている時、鉛筆の端を噛んでる人がいますね。
これを、

           Don't chew your pencil.

ではおかしいことに気づくようになります。chewは「(ガムなどを)くちゃくちゃ口の中で噛む」なので、chew your pencilでは鉛筆をぼりぼり口の中で噛んでいることになってしまい、変人以外は通常の生活ではこのような行動はとりません。

onを入れることで、鉛筆そのもの「を」噛んでいるのではなく、表面の一部に接触して、噛んでる、という意味合いがこれで出てきます。

このように教える際は、前置詞onの持つコアの意味をしっかり認識させ、応用例をいくつか示してあげる。また類例を考えたり、発見させたりする。すると学習者は授業を離れた場でも、他の似たような事例に出くわしたときにonに注目するようになり、今までなら素通りして気にも留めなかったことに意識が向くようになります。

これが大事なんですよね。視点の置き方の大変革です。
こうして学習した原理の拡張が可能になります。

最も大切な点は、母語の日本語を通じて“なるほどそうなのか”というプロセスを経ているので、興味がわくし、もっと知りたいと英語学習への動機づけを促すことができます。

後は関連図書なりネットやスマホでの調べ方を提示してあげれば、自ら学習するものも出てくるでしょうし、課題を出して他の前置詞について調べさせて発表させればさらに次への発展が望めます。

このonをきっかけに、前置詞というのが空間関係や概念を表す働きがあり、英語母語話者はそれらをどのように認知しているのか、という新しい発見を学習者に与えることができます。

さらに、プロトタイプ的な意味からその概念の広がりを説明してあげることで、物理的で具体的なものから、非空間の抽象的な領域にも意味が拡張され、適用されている現実を紹介することもできます。

例えばDavid Leeは、『実例で学ぶ認知言語学』(大修館書店)の中で、前置詞inを用いた例をあげて、空間を表す前置詞が、具体性の乏しい抽象的なものに転換しているケースを説明しています。


「だれかが『自分は困っている(‘in trouble’)』という時には、‘trouble’を容器として、また自分を容器の中のモノとして扱っている」(p22)

英語でI’m in trouble.「困った状態にある」という表現を通常は熟語としてin troubleで「困った」の意味だと機械的に覚えさせます。

しかし、この表現を使用する話者には背景に何らかの認知的な解釈があってこの表現を選択しているはずです。その説明が上掲ということになります。つまり、前置詞inのもつ“容器の中の空間”にあるというプロトタイプ的な意味が、モノの相対的配置関係を表すものから、抽象的な領域へ広がり、troubleそのものを容器と見立てているのです。

これがわかるとI'm in love.というのがどういう状態なのかイメージできるようになります。「恋している」というのを英語では、「loveで一杯になった容器の中に自分がいる」と捉えるのだと。

こういった解釈と説明を加えてあげることで、より学習者の理解が深まり、興味、関心さらには動機づけへと発展させていけるのではないかと思っています。

もちろんこれだけが、動機づけを起こさせる最良の方法とは到底言えず、他にも学習環境や指導者の役割行動などさまざまな要因があります。さらにどういったシラバスを作成するのか、読む・書く・聞く・話すのスキルといかにつなげていけるのか、また一度喚起された興味や関心を如何にして維持し、保護していくのかなど、多くの課題も残されているのが現状です。

ただネィティヴ・スピーカーは母語として英語を身につけたので、ここで紹介した認知的スタンスによる文法感覚を自然に身につけています。直感として内在化しています。だから例えばなぜknock on the door.なのか、と聞かれても、言語学などを専門としている人以外は、感覚的にはわかるが、それをうまく言葉で説明できません。

onの持っているコアの意味と聞いても どう答えていいかわからない。ただknock the door.とは普通言わない、不自然だという直感は持っている。

思春期を過ぎて、英語を外国語として学ぶ場合には、ネィティヴ・スピーカーのような直感を身につけるのは、ほぼ不可能に近いと言えます。(日常的に英語を使って生活するというような特殊な状況は別)。

そこで、背後にある理屈を学び、その知識を拠り所として、英語を使っていくという経験を積むことで、文法力しいては英語力を伸ばすことが出来るのではないか。これをうまく動機づけと連携させて、時間的にも物理的にも限られた授業において、それなりに成果をあげるにはどうしたらいいのかを考える上で一つのヒントにならないか、とこうしてnote記事を書きながらも日頃考えたりしている次第です。

長文にもかかわらず、最後までお読みいただきありがとうございました。

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