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温かくて切ない、人生の物語『ぼくのお日さま』【映画感想文】

映画『ぼくのお日さま』を観てきました。

「とにかく美しい映画」
「やさしくて温かいヒューマンドラマ」

こんな口コミを多数見かけて、「絶対自分が好きなやつだ……!」と直感し、映画館へ。

噂に違わず、美しくて素晴らしい映画でした。

でも、ただ温かいだけではない、ピュアゆえの残酷さや切なさもあり。

とてもいろんなことを受け取れた映画でしたので、その感想を書きたいと思います。

※以下、ネタバレあります


あらすじ

舞台は、雪が降り積もる田舎町。
吃音でうまく言葉が出てこない少年・タクヤ、思ったことを素直に表現できない不器用なスケート少女・さくら、そんな二人を見守る元フィギュアスケート選手・荒川の交流が描かれます。

ある日タクヤは、『月の光』に合わせてリンク上で舞うさくらの姿に心を奪われ、自分もリンクの端っこでスケートの練習を始めます。
そんなタクヤに、荒川がスケートを教えてあげるところから物語はスタート。

どんどん上達していくタクヤ。やがて荒川の提案で、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習を始めます。
3人は練習を通して心を通わせていきますが、大事な審査の直前、さくらは荒川が恋人の男性といるところを目撃。密かに憧れを抱いていたコーチの意外な姿を受け止めきれず、さくらはスケートを投げ出してしまうのでした……。

美しい風景に心を奪われる

まずこの映画で特筆すべきは、風景の美しさ。

雪が降り始め、そして積もった雪がとけるまでの物語であることが、風景描写から自然に伝わってくるところがとてもよかった。
一面の雪景色の中、柔らかい陽射しに照らされる彼らの日常は、まるで絵画のように清らかでした。

登場人物全員が愛おしい

そして、登場人物全員がとてもリアルで、素朴で、魅力的。

タクヤは吃音があり、想いをうまく言葉にできない。
さくらは感情表現が苦手。
荒川は選手を諦めた過去がある。

心の中にいろいろなものを秘めながらも、日々を精一杯、前向きに生きる彼らがとても愛おしかった。

荒川は、タクヤにスケートを教え始めた理由を
「ちゃんと恋していて、うらやましかった」
といいました。

自分はゲイだから?
おおっぴらに言えなかったり、他人から非難されたりするから?

でも、わたしにはそれだけではないように思えました。
きっと彼は、フィギュアスケート選手の夢を諦めてしまったことを、まだ引きずっているのではないかな。
現役時代に載った雑誌やカレンダーを、いまだに持っているくらいだから。

きっとタクヤが、一生懸命スケートを練習する姿を見て、うれしかったんじゃないかと思います。

荒川のパートナー(若葉竜也)も、そんなに出番は多くないんだけれど、不思議な魅力を放っています。
もう何年も一緒にいることが伝わってくる、自然な空気感。2人のシーンは微笑ましくてとても素敵です。

また、タクヤの父が、タクヤと同じく吃音なのも印象に残りました。
でも、詰まりながらもタクヤの好きなことをすればいいと言ってくれたのを聞いて、優しく見守ってくれているのを感じられてよかったです。

さくらは荒川にひどい言葉を投げつけたけれど、きっと彼女も後悔しているのではないかと……。どうか、そうであってほしいと思います。
聞いていて心が痛くなるシーンではありますが、はじめて彼女が素直な気持ちをぶつけられたシーンだったのかもしれません。
彼女がまた、スケートに戻れてよかった。
あのままスケートを辞めてしまっていたら、荒川はもっとつらいと思います。

「ぼくのお日さま」って誰のこと?

タイトルの「ぼくのお日さま」って誰のことなんだろう?
映画を観てから、ずっとそんなことを考えています。

タクヤにとっては、憧れの存在であるさくら?
それともスケートを教えてくれた荒川?
はたまたいつも笑顔で一緒にいてくれる友達?

「お日さま=太陽」というと、強い輝きを放っている唯一無二の存在、というイメージですが、この映画にはそういう人物は出てきません。

きっとこのタイトルにある「お日さま」は、映画の中の柔らかい陽射しのように、「いつもそこにあって、あたりをほんのり照らしてくれる存在」なのではないでしょうか。

そう考えると、きっと登場人物全員が誰かの「お日さま」なのだと思えてきます。

これからの3人に幸あれ

誰かと関わって生きている以上、うまく伝わらないこともあるし、誰かの感情に振り回されることもある。

その結果、紡いだ絆がほどけてしまった3人。
どうか3人の今後が、幸せであるようにと願ってやみません。

ラストシーン、新緑の世界で向かい合ったタクヤとさくら。
タクヤはさくらに、そしてさくらはタクヤになんて声をかけたんだろう?

どうか、すれ違うだけではありませんように。
荒川が繋いでくれた、2人の縁。

願わくば、2人の歩く道が、また交わりますように。

『ぼくのお日さま』は、温かくて切ない、「人生」の物語でした。


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