戦闘シーンのない戦争映画「ぼくの家族と祖国の戦争」鑑賞
デンマーク映画「ぼくの家族と祖国の戦争」を観た。舞台はデンマークの市民大学。第二次世界大戦終戦の直前、ドイツに占領されていたデンマークにドイツ難民がなだれ込む。敵国ドイツからの難民を市民大学で受け入れざるを得なかったことから地元で孤立していく学長のヤコブとその家族が、人権を守ることと自分たちの生活を守ることの葛藤で揺れ動く様を描いている。
これが戦争の現実なのだろう。この映画は実話に着想を得てつくられたということだが、戦争に関する映画でありながら戦闘シーンはない。戦場のシーンもない。本当の戦争というのは戦場ではなく、自分たちが暮らしている生活の場に入り込んでくる残酷なものだということを思い知らされる。
市民大学で受け入れたドイツからの難民は、栄養状態や生活環境の悪影響から感染病が蔓延し死者が続出する。彼らを診てくれる医者はおらず、薬もない。敵国人である彼らは病気だからといって助けるべきではない、彼らを助けること=敵を利することだという排除の論理が小さなコミュニティを覆いつくしている。それでも病人の命を救おうと学長のヤコブは懸命に助けを求めるのだが、そうした行為が敵を利することであり、迷惑かつ不名誉なことであると家族が弾圧されるようになる。「正しいことを行っている」と信じて行動する彼らがコミュニティの中で孤立していき、息子セアンが父の姿をみて距離をとるようになるのも哀しい。
最初はドイツに占領されていたデンマークが、ドイツが負けて立場が逆転したあとの報復行為も残酷だ。戦争は敵か味方か、勝つか負けるかの二項対立しか存在しない。今ウクライナやパレスチナで起きていることを見聞きするとそれを実感する。いったん戦争が起きてしまうと、勝ち負けをつけなければ終わらない。
この映画が示しているように、終戦を迎えても感情のしこりは残り対立は残るのであろう。感情を揺さぶられ、引き込まれる力強い映画であり、戦争の現実と向き合わされる映画であった。