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【書籍紹介】「スタンフォードの権力のレッスン」 デボラ・グルーンフェルド著

本書は、スタンフォード大学の人気MBAコースを書籍化したもので、権力の本質とその効果的な使い方について深く掘り下げています。著者は、ジャーナリズムの修士号、心理学の博士号を持ち権力と組織行動を専門に研究するデボラ・グルーンフェルド氏です。

権力の定義と誤解

本書では、権力を単なる自己利益のための資源として捉えるのではなく、あらゆる人間関係や役割の中に存在するリソースとして再定義しています。権力は、他者のためにどのように使うかが重要であり、個人の地位や権力の大きさではなく、他者に対してどのように貢献できるかが成功の鍵であると説いています。

権力とは、他者とその行動をコントロールする能力と定義することができる。従って、あなたの権力は他者があなたを必要としている程度で決まる。

権力は個人の属性でも所有物でもない。権力とは、他者のストーリーの中で自分が果たす役割のことなのだ。

権力とは自分の目的のために他人をコントロールする能力のことだ。もう1つは、権力とはだれかの人生にポジティブな変化をもたらす能力のことでもある。権力をうまく使うためには、その両方を使いこなす必要がある。

権力とステータスの違い

ステータスとは、他者があなたに対して抱く尊敬と敬意の尺度だ。ステータスのある人は、まわりの人が関係を持ちたがるので、権力を持っていると考えてまず間違いない。 権力とステータスにはもちろん関連があるが、ステータスがなくても権力を持つことは可能だ。

権力と権限の違い

権限も権力と関係があるが、二つは別のものだ。権限とは公式の立場や職位に基づいて人に何をすべきかを指示できる権利のことだ。権限と権力は相互に補強しあうが、正式な権限がなくても権力を持つことは可能だ。

権力と影響力の違い

影響力とは権力の効果のことだ。影響力があれば強制しなくても人を動かせるので、権力より影響力を持ちたいと考える人がいる。しかし、その区別は間違っている。本当に強い権力があれば、強制しなくても人を動かすことができるので、その点では権力と影響力に違いはない。

権力の二面性

権力には二つの顔があると著者は指摘します。一つは、権力を誇示し、他者に対して優位性を示すこと。パワーアップあるいはプレイハイと呼びます。もう一つは、権力を控えめに使い、他者との関係を重視することです。パワーダウンあるいはプレイローと呼びます。効果的な権力の行使には、これら二つのアプローチをバランスよく使うことが求められます。

決めるのは私だという態度は、自分には部下に何をすべきかを指示する正当な権限、役割や肩書きに付随する権利があることを部下に思い出させることである。コントロールする権限の正当化であり、反論は難しく、言う側にとっては都合がよい。しかし、こういう言い方をする人は集団から疎外される可能性もある。特に、地位や公式の権限しか権力の源泉を持っていない人の場合にその危険性が高い。

パワーダウンは弱さを示すことではない。リスクを取ってでも自分より他者の利益を優先できるほどの強さがあり、安全が確保されていることを示すものだ。

権力の獲得とその影響

権力を獲得すること自体は悪いことではありませんが、権力の追求が自己目的化することが問題です。著者は、権力を持つ者がどのように行動すべきかについて明確な指針を示しており、特に集団の問題を解決するために権力を使うことが重要であると強調しています。

予想外の危険な行動を取ることをプロットを見失う、ルージングザプロットと言います。文脈に合わず、社会的規範に違反し、だれの役にも立たないような不適切な方法で暴走することを指します。

権力を使うための戦略

本書では、権力を効果的に使うための具体的な戦略が紹介されています。例えば、プレイハイという戦略では、自分を大きく見せる方法や、他者を引き下げる方法が説明されています。これにより、権力を持つ者がどのように自らの地位を強化するかが示されています。

本書の中でゼロックス社のジョンクレデニンが格上の部下に対応する為に上手に権利を行使した事例が紹介されています。

ジョンは、ゼロックスに入社した際、社歴20年でインターン時代の上司であったトムガニングの上司となった。ジョンは役職により正式な権力を手にしたが、社内での経験、ステータス共に格上の部下を持つことになりました。

ジョンはトムのお気に入りのレストランを調べてランチに誘い、この状況は私が望んだものではありません。あなたにはこれをウィンウィンの関係にすることができます。と切り出しました。

「私にはあなたの助けが必要です。私は信義を重んじる人間です。そして、あなたの味方であるつもりです。そのためにはあなたに助けてもらわなければなりません。もし、そうするつもりがないなら、せめて邪魔はしないでください。

ジョンは自分の役割を効果的に果たすために必要ならパワーアップするが、自分をサポートしてくれるなら自分もあなたに配慮すると明快に伝えた。この素直さが功を奏し、後に二人は親しい同僚となったそうです。

権力の社会的側面

権力は個人の自由に使える資産である一方で、社会的な文脈においても重要です。著者は、権力がどのように人間関係や組織のダイナミクスに影響を与えるかを考察し、権力を持つ者が社会に対してどのように責任を持つべきかを論じています。

権力という言葉を聞くと、権利や特権という言葉を連想する。しかし権力は役割に付随するものであり、責任と表裏一体のものである。自分を属性ではなく役割によって定義している人は、ニーズより責任を優先するという研究結果があるが、権力に関する研究でも同様のことが判明している。

権力の視点からみた理想のパートナーの選び方

自分の力や権利が制限されてしまうハイスペックな相手ではなく、やぼったいくらいの男性を選ぶべきである。言い替えると、うっとりさせてくれる相手ではなく、安心させてくれる相手を見つけるべきであると。

シェリルサンドバーグは、恋愛の相手を求めている女性に対し、クールな男を避け、むしろ野暮ったいぐらいの男性に目を向けるべきだとアドバイスしている。 自分は恋のライバルを退け、相手に不自由しないほど魅力的な異性の関心を勝ち取った、自分だけが愛されている、という感覚は確かに力を与えてくれる。それはロマンチックな関係に限らず、友人関係であれ、上司と部下の関係であれ同じだ。 しかし、そういう観点でパートナーを選ぶと、自分の力、自分の権利、そしてその関係から得られてしかるべきものを得る能力が最小限に抑えられてしまう。うっとりさせてくれる相手ではなく、安心させてくれる相手を見つけるべきだというのが、サンドバーグの助言の意味である。

権力の持つリスクと責任

権力を持つことにはリスクが伴います。権力を誤用すると、個人や集団に対して破壊的な影響を及ぼす可能性があります。著者は、権力を持つ者が避けるべき行動についても言及し、権力の持つ責任を強調しています。

まず、ノーと言わせてくれない相手には気をつけよう。多くの場合、これは最初はやさしい雰囲気で始まる。ノーを翻意させようとする説得は、しばらくのうちは、ご機嫌取りのような雰囲気で進むことがある。 しかし結局のところ、あなたの選好を理解しようとしない人は、あなたの希望など知ったことではないと宣言しているのだ。

別の言い方をすれば、この種の押しつけがましさは、ベールで隠された軽蔑の可能性がある。 もし相手が強引に何かを迫り、あなたの返事を尊重しないようなら、それは危険な兆候だ。恐怖を打ち消そうとせず、自分の直感を信じて距離を置くのがよい。

権力を自分のための資源を蓄積する機会と見なすのではなく、自分の義務と結びつけて考えるリーダーは、ステータスや自己の証明や承認といった自分のニーズより、多くの人に利益をもたらす成果に焦点を合わせるようになる。リーダーを選ぶときは、野心や上昇志向を判断材料にして選ぶのではなく、他者の問題を解決するためのコミットメントによって選ぶべきである

カリスマ的リーダーは、自分の領分や権限を枠にはめられることを嫌う。自分の権力が抑えられることに抵抗し、ほかの人は受け入れているルールや規範をはねつけ、部下たちの欲求を理に適わないものとして不当に扱う。カリスマ的なリーダーに従うことが、単にその人物のスキルを認めることに留まらず、完全な服従になってしまうのはそのためである。

まとめ

本書は、権力の本質を理解し、効果的に使うための実践的なガイドです。権力を単なる自己利益のための手段としてではなく、他者との関係を深め、社会に貢献するためのリソースとして捉えることが、現代社会において重要であると著者は訴えています。この書籍は、ビジネスエリートだけでなく、あらゆる人々にとって有益な洞察を提供しています。

動画版は、こちら。


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マルセロ| 事業プロデューサー
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