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【書籍紹介】BtoBマーケティングの戦略と実践 栗原康太著
著者の栗原康太さんは、株式会社ガイアックス入社後、BtoBマーケティング支援事業に携わり事業部長及び経営会議メンバーを歴任。2016年にBtoB営業支援及び新規事業コンサルティングを提供する株式会社才流(SAIRU)を設立し、現在代表を務めています。
本書は同社のBtoBマーケティング支援における試行錯誤の結果、蓄積した知見をまとめた書籍となります。
著者は、新卒で入社したガイアックス社にて、テレアポや飛び込み営業全盛の営業スタイルから、デジタルを活用したマーケティング主導のスタイルへ変革する様子を実体験として経験しました。
実際、BtoBの顧客もインターネットを活用して自ら情報収集を行い、自社が抱える課題の解決策を自分で見つけ、ベンダー選定もネットで完了。ベンダー選定の段階で選ばれなければ、営業担当に声がかかる前に購買プロセスが終了してしまいます。
2012年に米国のコーポレート・エグゼクティブ・ボードが発表した調査結果では、BtoB顧客の購買プロセスの57%が営業担当者に会う前に終了しているという衝撃の結果が発表されました。
一例を紹介しましたが、BtoBマーケティングには正しい型が明確にあり、その型を知っているか、知らないかで大きな差がつく領域であると著者は強調します。
コロナ禍において、顧客訪問ができなくなったことを受けて、多くのBtoB企業は新規リードの減少や商談数の減少という課題に直面しました。
一方、テレワークの普及で、テレアポからオンラインセミナーへのシフト、広告宣伝費のオンラインシフト、解説動画による商談の代替、SFAの導入等、BtoB営業及びマーケティングのやり方が激変しました。
今後、フィールドセールスの重要性は減り、デジタルを駆使した新しい営業及びマーケティングに対応できない企業は、存続が危ぶまれることになると著者は警鐘を鳴らします。
私自身、コロナが起きる直前頃に、初めてベルフェイスを用いた商談をバイヤーサイドとして経験しました。その時は、正直、リアルでなくオンラインで済まされた。自分たちは、軽視されているのではと感じたものです。
ところが、今はむしろ、忙しいときは訪問でなく、オンラインで済ませて欲しいと思うようになりました。
見込み顧客へのアプローチ、育成(ナーチャリング)、商談(クロージング)、受注、アフターフォロー(カスタマーサクセス)といったBtoBビジネスフローにおいて、従来のリアル中心から、オンライン中心へと切り替える際、以下の4つの論点が上げられます。
オンライン中心に切り替えた際、展示会やリアルセミナーに匹敵するリードが獲得できるのか?
デジタル広告やオンラインセミナーで獲得したリードは商談に繋げられるのか?
オンライン商談のみでクロージングまで持っていけるのか?
リモート環境でどのように営業部門を管理すれば良いのか?
リード獲得や商談化については、様々なデジタルツールを駆使することで、むしろ効率的に実現が可能。クロージングや営業管理は、リアルに軍配があがるが、SFA等のツールや動画コンテンツを活用することでデメリットを軽減できると著者は解説しています。
本書の中では、具体的に以下のリストが紹介されています。
リード獲得プロセスのデジタル化に必要なToDoリスト。
リード育成プロセスのデジタル化に必要なToDoリスト。
営業/受注プロセスのデジタル化に必要なToDoリスト。
BtoBビジネスの最大の特徴は、購買プロセスの中に営業が介在することです。従って、BtoBの戦略設計では、どう営業担当が商談しやすい状態で案件をパスするかが重要となります。
売上を要素分解すると、商談数×受注率×商材単価となりますが、この中で最も関与の余地が大きいのが商談数であり、実際、これが営業担当のKPIとなることが多いです。
また、原則として複数人、複数職種、複数役職の人たちが購買の意思決定に関与する点もBtoBビジネスの特徴の1つです。従って、顧客社内の確認、調整、稟議があることを前提に全体のシナリオを設計する必要があります。
BtoCの商材では、体験や所有が価値となるケースもありますが、BtoBの場合、原則、業務上の課題解決に繋がるかが購買行動の判断基準となります。従って、ウェブサイトや営業資料、広告クリエイティブを通じて、いかに顧客の課題解決に繋がるかを訴えかけることが重要となります。
購入企業側は限られた情報をベースに意思決定を行わなければならない情報の非対称性もBtoBビジネスの特徴です。従って、ウェブ上にコンテンツを大量に掲載し、検討及び意思決定にあたって顧客の不安を少しでも取り除くことができれば、顧客の意思決定におけるハードルを下げることができます。
BtoBビジネスでは、ユニット単位の取引の収益性をプラスに保つことが求められます。ユニットとは中古車販売であれば車1台あたり、サブスクビジネスであれば顧客1人あたりを意味します。
これは、LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)にて計算可能です。LTVがCACを上回っていれば収益性はプラス。LTVをCACで割った値が大きければ大きいほど収益性が高いと言えます。SaaSビジネスであれば、この値が3以上になることを目指します。
LTVは、顧客あたりの月次売上×継続月数。あるいは、月間販売個数×販売単価×販売月数といった算式で求められます。CACは、新規顧客獲得にかかった総費用を新規顧客獲得数で割って算出します。
ここで、興味深いのはCACには一定の法則があるという点。書籍「ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか」ピーターティール著の中で、死の谷が存在するという話が語られています。
極めて低コストで顧客獲得が可能なセルフ型のビジネスか、大手企業向けの大きな金額のビジネスを提供するかの二択であり、その中間に位置する年間契約金額が150万円から250万円のビジネスは、特にSaaSの世界では成立が難しいと言われています。
BtoBビジネスでは、購買決定までの検討期間が長い、購買に複数人が関わる、認知獲得のため一定の広告費が必要等を考えると、一定以上のCACを覚悟する必要があります。
特に上場レベルの規模を目指すのであれば、以下の2パターンのいずれかが選択肢となります。
1.エンタープライズ向け。サンサン、キーエンス、NTTデータ等。
2.インフラ系。Slack、Chatwork、楽々清算等。
本書では、BtoBビジネスの具体的な成功事例と、その切り口が紹介されています。
■ネットワーク効果を利用する。
製品やサービスの利用者が増えるほど、その製品やサービスのインフラとしての価値が高まることをネットワーク効果と呼びます。その代表がSlack。社内や取引先での利用者が多ければ多いほど利便性が向上し、指数関数的にユーザーが増えていきます。
■クチコミを活用する。
見込み客同士が積極的にコミュニケーションを取っている領域では、サービス提供側が何もしていないのに、クチコミで勝手にサービスが広がるケースがあります。例えば、経営者向けのサービス。勉強会やゴルフ等を通じた横のつながりが強く、ネットワーク内でおすすめのサービスが広まっていきます。代表が組織コンサルティング会社の識学。紹介経由の顧客が全体の6割を占めると言われています。
■第一想起され、指名検索される。
新しいカテゴリーを創造する、大きなカテゴリーの中でサブカテゴリーを形成する。それを効果的にブランディングすることでリーダーポジションを獲得する。名刺管理システムならサンサン、ネット印刷ならラクスル、オフィス用品ならアスクル等。
■強力な販売代理店の活用。
大塚商会や光通信などの強力な販売代理店を活用する。短期で販売を伸ばせる可能性を秘めた一方、販売代理店内でのマインドシェアを獲得する必要がある点。依存し過ぎると、自社で顧客ニーズが把握できなくなる等のデメリットも理解する必要があります。
■コンテンツマーケティングの活用。
研修会社インソースは、自社のウェブサイト内に13,000ページ以上のコンテンツを保有しており、200以上のキーワードでグーグル検索1位表示を獲得。企業研修を探すユーザーの大半が同社の記事にヒットする仕組みを構築しています。
■対象顧客を広げる。
クラウド会計ソフトを提供しているfreeeは、2019年にIPOの準備をサポートするIPO事業部を新設。従来のメイン顧客層であったスモールビジネスから顧客層の拡大に成功。
■長い契約期間を用意する。
求人情報サービスのWantedlyでは、6ヵ月、12ヵ月、24ヵ月の料金プランを用意し、契約期間が長いほど月額料金が割り引かれるようになっています。 こうした取り組みは、顧客にとっては年間で見たときのトータル費用が安くなるメリットがあり、企業にとっても、月額の単価が下がったとしても継続購買期間が延び、LTVが高まるメリットがあります。
■顧客の業務に深く入り込む。
大規模サイトの運営代行やデジタル人材の派遣を行うメンバーズでは、大手企業向けにデジタルマーケティングの専任チームを組み、大規模Webサイトを運用するサービスを提供しています。 こうしたサービスの顧客企業は、「Webサイトの運営を一括して相談・依頼できる」というメリットを感じられます。しかし同時に、いったん依頼した取引先を他社へ変更することは、ハードルが非常に高く、基本的にはWebサイトの運営終了まで長く契約を続けることになります。
本書では、これ以外にも才流社がコンサルティングを実施した様々な企業の実例が詳しく紹介されています。コンバージョンポイントの設け方、リード数の増やし方、MAの選定及び活用方法、メディアミックスの活用法、コンテンツマーケティングの指南等。
また、組織体制についても、「最低1名は専任マーケターをアサインする」「意思決定者と専任マーケター、外部の専門家パートナーがチームを組んで進めると良い」といった具体的なアドバイスが紹介されています。
まさに、本書のタイトルが示す通り、BtoBマーケティングの戦略と実践について効率的に学べる良書です。
■動画版は、こちら。
■BtoBマーケティング書籍の紹介記事
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