可愛げは、作れる?
先程まで、菅浜(すがはま)漁港ということろで、夫と釣りをしていた。
菅浜は夫が夏中、海水浴に通ったホームで「俺の海」とまで呼んでいるところだ。
テトラポッドに囲まれて、真四角のプールみたいに整備された砂浜だけの海水浴場で、岩場がないと満足できない私は、ほぼ来たことがない。
ウミウシはいないが、釣り人は多い。
以前一回だけ潜った時、ボラが大量にいたのを見て、「あれだけいるなら、一匹くらい釣れるだろうと思って、初めて釣りに来てみたのだ。
我々夫婦の釣りの実力は、どっちも素人に毛の生えたようなレベルだが、私の方が生えている毛が数本多い。(暇だから)
これまで釣りに行くと、たいてい私が爆釣し、夫が数匹釣って終わるパターンが多かった。
釣れないと楽しくない。
気持ちはよくわかるので、今回は、夫用に小さな3号の赤針を用意した。
「これなら、何かしら釣れるはず。あなたは素人だから、これを使いなよ。私は大物狙いだから、この8号で行く」
と、自分も素人のくせに、夫に宣言した。
しかし、当の夫は、老眼が進みすぎて、小さな針が見えない。
つまり、餌がつけられない。
かかった魚が外せない。
そのたびに、私が呼ばれる。
3号針を使う作戦は大成功で、本日、夫は爆釣、私はキスとベラ2で、合計3匹という成果だった。
全然面白くない。
今日の私は、夫のお世話係であって、釣り人としての活動が全然できなかった。
不満たらたらで、ひとりで釣り場をハシゴしようかと思ったくらい。
さて、そんな我々夫婦から、10メートルくらい離れたところに、明らかに初心者風の奥様と、中級者っぽい旦那様のご年配ペアが釣りをしていらっしゃった。
奥様は、アジ狙いでサビキ釣り。
サビキ釣りというのは、餌を海中にばら撒いたところに、その餌に似せた針を複数落としてやり、魚が間違えて針に食いつくのを待つという、騙し釣り。
アジは群れで回遊しているので、釣れる時は面白いほど釣れる。
奥様の針にも、アジが鈴なりだ。
奥様は、釣れるたびに
「おとうさぁーん」
と呼ぶ。
それは
「おい、オヤジ、ちょっとこれ見ろや!私が釣ったんやで。すごいやろ、どや?」
というニュアンスの
「おとうさぁーん」
ではなく
「見てみて!こんなにお魚釣れちゃったあ!でも、わたし、怖くて触れないの。お父さん、どうしよう、助けて?」
という、若干、上目遣いのニュアンスが含まれる
「おとうさぁーん」
なのである。
呼ばれた旦那さんは
「ちょっと待ってー、すぐ行くよー」
と、自分の仕掛けを作ってる途中でも、ほったらかして、奥様の元に駆けつける。
「んまあ、お歳を召しても、お熱いこと!」
と微笑ましく眺めていた。
と同時に私に足りないのはこれだな、と気づいてしまった。
「魚をさわれない?そんなやつは釣りに来るな!」
「エサのイソメが怖い?家帰って寝てろ!」
というのが、私の基本的なスタンスである。
どう転んでも、夫に向かって
「おとうさぁーん」
なんて、甘い声で呼びかけることはできない。
これから四国に行ったら、フナムシを見るたび、ギャーギャー騒ぐかもしれないけれど、それだって
「きゃあ♡ 助けてえ!」
じゃなくて
「来るな、近寄るな、このやろう!潰すぞ!」
のニュアンス多めだと思う。
「可愛いは作れる」というコピーがあったけれど、「可愛げ」も作れるのだろうか?
可愛げが身についている人ってのは、何を食べて、どう育ってきたんだろう?
育成方法にとても興味がある。
来世に向けて知っておきたい。
**連続投稿606日目**
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