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燕害

普段、買い物に行くスーパーの途中には、1階部分が駐車場になっているお宅が数軒ある。
そのうちの1軒から、燕が飛び出すのを目撃し、ああ、そんな季節になったか、と思った。
南の国で越冬した燕たちは、春から夏の間、日本に戻ってきて産卵し、子育てが終わると秋にまた南へ帰っていく。
4月は、日本に子育てにやってきた燕たちが、あちこちに巣を作る時期なのだ。

燕は、カラスや蛇やイタチなどの外敵から卵やひなを守るために、人の近くで子育てするらしい。
普通の獣は人の近くに寄ってこないし、害獣に人が気付けば、追い払ってもらえる。
だから、安心して巣を留守にし、ひなのための餌を集めに行けるらしい。
よく考えたものだなあと思う。

けれど、日本で人類が定住を始めたのなんて、縄文時代以降、つまりせいぜい13000年前ほど前からだ。
とすると、それ以前のツバメは、いったいどこに巣を作っていたのだろう?
人の近くに巣をつくるという、後天的な学習行動を、今では、本能のようにあらゆるツバメが持ち合わせているのは、なぜなのだろう?
それとも、私が知らないだけで、森の奥に営巣するツバメもいたりするのだろうか?

電線にとまったツバメを見ながら、ぼーっと考えていると、巣をつくられた家の方が出てきて、
「また来た。ほんと困るわ」
とぶつぶつ言っていらっしゃる。
ツバメが巣をつくる家には幸運が訪れる、なんて言い伝えもあるくらいなので、みんな営巣を歓迎しているのかと思っていたら、そうでもないらしい。
「ツバメ、好きじゃないんですか?」
と声をかけてみると、待ってましたとばかりに話し出した。

曰く、
「子どもが小さかったころ、ツバメが来るようになった。当時は、みんなで、かわいいね、かわいいねと見ていたけれど、子どもたちが大きくなって家を出た今、ツバメは悪者でしかない。泥で巣をつくるから、駐車場が、落ちた泥だらけになるし、糞も降ってくる。汚いし、ツバメが運んでくる病気も心配だ。車も見栄えが悪いから、汚れるたび洗車しなくちゃいけないし、手間でしかない。なんとか、来ないようにできないかと、あれこれやってみたけれど、全然効果がない」
というようなお話だった。

その場で、「ツバメ 巣を作らせない」と検索して、出てきた対応を読み上げてみたけれど、全部お試し済みだった。

「キラキラしたもの、つるつるしたもの、ひらひらしたもの」なんて、まるで意に介さないという。
ツバメも必死なのだろう。
一度などは、
「ほぼ巣が完成したところで壊されたら、さすがにツバメも心を折られて別のところに行くだろう」
と、心を鬼にして巣を壊したのだが、気にする様子もなく、また淡々と泥を運んできたとのことだった。
ツバメには、そもそも折れるような心が備わっているのか、どうなのか。

「最初に一回、いい顔を見せると、付け込んでくるところが、本当にたちが悪い」
家の人は、ぷりぷりしながら引っ込んでしまった。
子どもたちと見た時の『かわいい』という高評価が、『たちが悪い』という低評価に変わっている。
こういう経験を重ねると、今度はツバメの方でも「小さい子どもがいる家を狙った方が良いらしい」と学習するのだろうか。
だとすると、これからのツバメは、土地選びに相当苦労するんだろうな。

**連続投稿436日目**


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