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きょうりゅうぜつめつ #めだか子供の家

神奈川県相模原市中央区上溝にあるユニークな保育で有名な幼児保育研究所「めだか子供の家」。(以下、「めだか」と呼ぶ)

子どもがお世話になった頃の話を書こうと思い立った途端、普段は忘れていることがいろいろと思い出されてくる。
今日はその中の一つをご紹介しようと思う。

あれは、うちの子が年長の秋だったと思う。
いつものようにお迎えに行くと、わが子と仲のいい男児四人組が
「ねえ、ねえ、ちょっと来て」
と私を引っ張った。
連れていかれた先は、めだかの砂場だ。

「砂場」と聞くと、普通の人は、子ども用のカラフルな丸みを帯びたスコップや、小さなバケツ、ぞうさんの形のじょうろが転がるほのぼのした風景を思い浮かべると思うが、めだかの砂場はまるで違う。

普段は、規模の小さな工事現場のような様相で、大人が土木工事に使うような土がよく掘れる先のとがったシャベル(サイズは子ども用)や、長さも太さもさまざまな塩ビ管が、T字、L字の連結パーツと一緒に転がっている。
水を運ぶためのバケツや、踏まれたり蹴られたりして凸凹になった鍋も常備されており、子どもたちは、そこで泥だらけになって、山に塩ビ管を通し、水を流して池に貯め、自らが思う理想の「現場」を毎日変化させながら楽しんでいた。

ところが、今日はちょっと様子が違う。
塩ビ管や、鍋釜バケツの類は綺麗に片づけられ、代わりに砂場の真ん中にこんもりと山が作られ、そこに園舎の裏からとってきたと思われる、葉っぱの付いた木の枝や、丈の長い草が刺さっている。

「はじめます」
と一人が言うと、皆、それぞれの位置にばーっと散っていった。
何を見せてくれるんだろう?
ワクワクしながら待っていると、2人の子どもが四つ這いでゆっくりと現れて、山に刺さった草をもそもそと食べている風である。
そこに、二本足のナニモノカが、首を振り回しながらギャーギャーと声を上げ、おとなしく草をはむやつらに襲い掛かる。
逃げる2人、追う1人。

そこに、最後の一人が遠くから、ドッジボールを持ってゆっくり現れた。
「きーーーー・・・・・んんん」
と聞こえるかどうかの声量で、その空を流れ来る物体の速さを表そうとしているようだ。
ボールに気づき、空を見上げる三人。
と、思う間もなくボールは、山にぶつかり、木々をなぎ倒し、全員で
「どっかーん!」
と叫ぶと、みんな砂場に倒れ込んだ。

数秒後、子どもたちは服についた泥をぱんぱんと払うと、砂場の前に四人並んで、ぺこりとお辞儀をし、声をそろえて
「きょうりゅうぜつめつ」
と言った。

その時の私の感動が、想像できるだろうか?
なにこれ、ナニコレ、この子たち、すごい!
心の中は、それこそ隕石がぶつかったようなインパクト。
「なになに?四人とも天才なの?すっごいよ、よかったよ!!」
と大騒ぎした。

めだかは、決して子どもに何かを強要しない。
ということは、この寸劇は、先生方が「やってみなよ」とそそのかして始まったものではないだろう。
日頃から、恐竜が大好きだった四人組が、おそらくめだかの本棚の図鑑かなにかで、白亜紀の終わりの恐竜絶滅の話を知って、きっと、すごい衝撃を受け、いろんなことを想像したのだろう。

「それまで、みんなで遊んだり、草を食べたり、ティラノに追いかけられたりしてたんだろうな」
「空に明るい星が現れてどう思ってたんだろう?」
「変だと思ったら逃げたらよかったのに」
「逃げるとこなんか、なかったんだよ」
「みんないっぺんに死んじゃったのかな」
「かわいそう」

そのうち、だれかが
「これ、俺たちでやってみよう」
と言い出して、きっと砂場が白亜紀の舞台に様変わりしたのだ。

何のために、なのかはわからない。
恐怖を抱えきれなくて、誰かに伝えたかったのか。
過去にこんなことがあったという、その事実に純粋に驚いたのか。
大好きな恐竜の最期を知って、それぞれが抱えた言葉にならないものを吐き出したかったのか。

とにかく、その寸劇は、子どもたちの意思で始まり、子どもたちの意思で終わった。

恐竜の絶滅を知ってることがすごいのではない。
劇を見せてくれたのが偉いのでもない。
そこに至るまでの、コミュニケーションを想像すると、わずか5,6歳の子どもたちが協力してそれを作り上げた、その過程に感動するのだ。

どんな話にするか、だれが何の役をやるか、舞台をどう作るか。
話し合うことはたくさんあっただろうし、砂場を使いたい他の子どもたちへの交渉もしなくてはいけなかったに違いない。
練習も何回もしたのだろう。
それを可能にしたのは日々の遊びだ。
その中で生まれる、仲間意識、主張したり、譲ったりのバランス、臨機応変に組み立てていく力。
それがすごいと思った。

私がめだかの三年間で、子どもをすごいと思ったことは何度もあったが、今も一番鮮明に記憶に残っているのはこれだ。
普段は少し照れ屋な彼らが、真剣な顔で
「きょうりゅうぜつめつ」
と声をそろえた時のことは、一生忘れない。


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