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120年に一度

今年の春に、日本中のあちこちで竹の開花が見られたらしい。
しかも、120年ぶりという珍しい出来事だったそうな。

「へえ。この辺じゃあ、そんなの見たことないなぁ」
と120年に一度の奇跡に出会えなかったことに、自分の運の無さを感じていた。

竹は、開花すると枯れるらしい。
それ自体は珍しいことではなく、1年生の植物はみな、種を残すと枯れる。
ただ、その周期が120年というとんでもない長さだ、というだけのことだ。

それにしても、120年。

前回の開花は1904年、日露戦争が勃発し、与謝野晶子が「君死にたもうことなかれ」とうたった年である。
今年開花した竹たちは、そこから、2度の大戦や大きや地震や台風を乗り越えて、山に根を張りたくさんのタケノコを産み育て、淡々と生きてきた連中だ。

しかし、そんな長生きしてきた竹たちも、子孫を残すと、地下茎で繋がった一族が一斉に力を失い、遠くからでもそれとわかるほど山の一画が枯れて茶色くなるのだそうだ。

今年、開花する様子を見られなかったら、次は120年後の2144年、どう考えても私は死んでいる。
残念だったなあ、見たかったなあ、と思いながら山を走っていた。

すっかり夏らしくなった山には、ネムノキの花が咲いているはずで、今日は、それが見たくてバイクで適当に走り回っていたのである。

あちこちに見える、ふわふわのピンクの花たち。
猛暑が間も無くやってくる合図のように咲く。
もっと暑くなると、真っ赤なサルスベリが開花。
季節を追って、きちんと順繰りに花をつけるのである。

ぼーっとネムノキの花を眺めながら走っていると、1箇所緑の消えたところがある。
大量に突き立てられた物干し竿展示会場のようなそれは、間違いなく立ち枯れた竹藪だった。

竹の侵略に恐れをなした周辺の農家さんが、農薬を使って一斉に駆除でもしたのかと思ったが、それにしては周りの木々は、みな青々としている。
立ち枯れた竹藪は、細い谷川に沿って100メートルほど続いており、対岸の山にも同様の現象が起きていた。

私が知らなかっただけで、120年に一度の珍しい出来事は、淡々とそこで起きていたのだった。
くうううーーっ!見逃した!

あまりに悔しいので、この先、その枯れた竹藪から、どんなふうに竹が芽吹き再生していくのか、観察してやろうと、地図にポイントして帰ってきた今である。
花が咲いて枯れるのが珍しいなら、その種が芽吹くのだって珍しいはず。
竹の芽なんて、タケノコ以外見たことがない。
これから定期的に通って、経過を見て行こうと思う。

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はんだあゆみ
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