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知っているパターンに当てはまらないからわかりにくいのか?『落花流水』感想②

先日、山本文緒さんの『落花流水』を読んで感想文を投稿したところ、noteでよくやりとりしている仲良しのインローさんが、コメントをつけてくださった。

「してやったり!これで山本文緒ファンが1人増えるぜ」と思ったかというと、全くそんなことはなく。
私にそんな高度なテクニックが使えるくらいなら、今頃、バリバリの売れっ子ライターだろう。
私には自分が思ったことしか書けない。
「この小説、面白くないわけじゃないんだけど、主人公の気持ちがよくわからなくて、スッキリしなーい!」
『落花流水』を読んで感じたのは、これ以上でも以下でもなかった。
どう読めばいいのか、よくわからなかったのだ。
私の拙い感想文に対して、インローさんは、インローさんの解を示してくださった。

なるほど、彼女の生きづらさの原因を、インローさんはそう読んだのか、と触発されてしまったので、私ももう一度『落花流水』について書くことにする。

おさらいしておくと、これは手毬という女性の幼年から晩年までを描いた作品だ。
手毬には、実母が17歳という若さで出産したため生活力がなく、見かねた両親が赤子の手毬を自分たちの籍に入れて育てていた、という過去がある。
しかし、手毬は7歳までそれを知らずに生きている。
不憫さゆえか、甘やかされてわがまま放題に育った手毬は、「お母さん(実は祖母)の死」により、それまで「姉(実は母)」だと思っていた人に引き取られる。
実母は奔放で、男とくっついたり別れたりを繰り返し、夜の仕事や遊びのために、手毬を1人でポロアパートに置き去りにするような女だ。

ここで私に、ある思い込みが生まれていたことを白状する。
「手毬は、愛着形成不全。人に頼れない。自分を愛する人間を信用せず、常に愛情を試すようなマネばかりして、自分から関係を破綻させようとするタイプに育つに違いない。こういう人は、一見自立していそうで実は依存が強すぎるため仕事もうまくいかず、だれかに寄生しないと生きていけない」

いかにも、心理学のテキストにありそうなプロファイリングだ。
自分の知っているパターンに手毬を当てはめ、

「さあ、どんな不幸が始まるんだい?」

とミットを構えて待っていたわけだ。

ところが、貧乏のどん底で育ちながらも、手毬は学業に秀で、家事も育児も仕事も難なくこなせる才がある。

「あれ?手毬って、存外自立してるじゃん?男がいないと、ダメなずるずる依存タイプに育つかと思ったのに、堅実な人生を送りそうじゃん?」

実際、手毬は67歳でアルツハイマーを発症し、実母と実の娘に連絡が行くまでは、働いて自分で自分を食べさせることができていた。
少なくとも、実母・律子のように、男の経済力に頼って生きていこうという計算高さはない。
社会的には、なんの問題も無い自立した人格に見えるのだ。
なのに、手毬は、結婚、出奔、離婚、再婚、離婚、再婚、死別と、結果的に問題だらけの実母・律子と同じような遍歴を辿るのである。

私には、手毬のこの「幸せに安住できない理由」がよくわからない。
真っ当に生きようと思えばできるし、対等なパートナーシップも築こうと思えば築けるように見える。
そして、そう生きることを望んでいるようにも見えるのに、なぜか手毬はそれをしないのだ。

「できない」のではなく、あえて「しない」ように見えてしまうところが、手毬の不幸の源なのだろうか。
本当は「できない」のに、幼少期から放置されてきた10年で、弱みを見せられないように育ってしまったために、自分の欠落した部分を他人にわかる形で表出できないが故の「孤独」なのだろうか。

それとも手毬は、罪悪感のために自分に安心や安定を与えることが許せないのだろうか。
義父と通じた自分。
子を捨てた自分。
元夫を自死に追いやった自分。
そんな自分が幸せになっていいはずがない、と思うが故の「孤独」なのだろうか。

インローさんのおっしゃるように、自分に引き寄せた理由を類推することは、できなくはない。
上に書いたのは、部分的には私のことでもある。
だけどなあ。
なんか違うんだよなぁ。

もっと自分を語ってほしいのだ、手毬に。
古いと言われようがなんだろうが、「理解されない私を、頑張って伝える努力をした跡」が小説なんだと思っていた。
小説って、そういうものではないの?
それも私の思い込みで、この新しさが山本文緒の魅力なのだろうか。

うーん、やっぱりわからない。

『コンビニ人間』や『おいしいごはんが食べられますように』の方が、まだわかりやすいと思うんだけれど、どうだろう?

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はんだあゆみ
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