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10年働いた公務員を辞めました
新卒で入庁し、10年働いた公務員を辞めました。
正確には、退職届を出して今は有休消化中です。
さらに言うと次の転職先が決まっているわけでもなく、いったん完全にまっさらな無職になる予定です。
辞めることはすごく怖かったけど、
今は「これから何でもできるぞ〜!」と晴れ晴れした気持ちでいっぱい。
辞める前は、公務員を辞めた人のブログを読み漁ったり、
公務員から異業種に転職した人の記事を読みまくったりと、
他の人の経験談がすごーーく参考になったので
せっかくなので私も辞めるまでの顛末を、ここに記しておこうと思います。
そもそもなぜ公務員になったのか
公務員になった最大の理由は、ありがちでつまらない理由ですが、正直なところ
「安定していて定時で帰れそうだったから」。
当時大学生3年生で就職活動が始まりかけた頃、
周りの友達が徐々にインターンシップや企業研究やらで「行きたい企業」「やりたい仕事」を見つけ始めキラキラしている中
私はどうしても就活に対するテンションが上がりませんでした。
というのも、バイトはいくつかやっていましたがどれも私には苦痛で、毎日バイトに行くのが嫌で嫌で仕方なかった。
当時の私にとって、「働くこと」は「辛くて苦しいこと」と同義だったのです。
それでも、これから生活のためには働かなくてはならない。
それであれば、その苦しみが最も小さい(=定時で帰れる)仕事に就こう!
と思い立ったのです。
※実際に公務員になったあとは、残業がめちゃくちゃあることを知ったのですが・・・
また、親が自営業で収入が不安定だったことを見てきたのもあり、
毎月安定して給料が入ってきて、倒産やリストラのリスクがないことも非常に魅力的でした。
そんなわけで公務員試験の猛勉強をし、無事第一志望の役所に合格。
合格した時は、定年まで働く気満々でした。
働いてみて気づいたこと
業務面でもメンタル面でも、思ったよりハード
定時で帰れてラクそうと言ったイメージは、入庁してすぐに打ち砕かれました。
残業も普通にあるし、イベント前には休日出勤もザラ。
朝起きて出社して夜まで働いて、家に帰ったらクタクタで何もできない・・・なんてことはよくありました。
しかも、メンタル面が結構キツい。
なぜならこれは公務員の宿命ですが、結構な頻度で住民の方からのクレームを受けます。
税金を使って事業を行ったり人件費を捻出しているので住民の方からの目が厳しいのは当然ですが、自分なりに必死に頑張っているのに「税金泥棒」「謝罪しろ」などと面と向かって言われるのはかなりメンタルに堪えました。
電話口で怒鳴られて、電話を切った後にトイレへ駆け込んで涙が止まらなくなるなんてこともありました。
それにも関わらず、プライベートでも知り合いや親戚から
「ハンコ押すだけの簡単な仕事でよかったね」
「公務員は接客を知らないから態度が悪い」
などと皮肉や悪口を言われることもあり。
ハンコ押すだけなんて・・・そんなわけあるか〜い!💢と思いつつ
自分自身も公務員になる前は、こんなにハードだと思っていなかったので
その時は何も言い返せずただモヤモヤするのみでした。
ノルマや目にみえる業績がない、だからこそ評価もされない
私はもともと「稼ぎたい!」「昇進したい!」といった気持ちは比較的少ないので
ノルマがあったり目標数値を追ったりする仕事は向いていないだろうなぁと、就活の時から考えていました。
公務員はその点、そのように数字に追われるということはありません。
仕事もルーティンワークが多いし、公共の仕事なので利益が生まれるのはむしろNGです。
しかし、そうするとどんなことが起きるかというと、
上司が部下を評価する時に、目立って評価するポイントがないのです。
つまり、「なんとなく上手くやっている」「割り当てられた仕事をちゃんとこなしている」のような、あいまいな基準で評価が下されてしまいます。
ある年のこと。
私の職場に、仕事が出来ると言われ将来を期待されている先輩がいました。
一緒に働いてみて気がついたのですが、その先輩は
自分の仕事を完璧にこなすために、深夜まで残業して資料のチェックをし、
100%完璧なものを気合いと根性で仕上げるタイプの人でした。
いっぽう私は、わりとおせっかいなタイプで、仕事がうまく進んでない人がいたりトラブルが起きて進捗が悪くなっているのを見ると手を差し伸べずにはいられないタイプ。
なので、よく職場のメンバーの仕事を手伝ったり、もっと仕事を効率化してみんなの業務をコンパクトにできないかを常に必死に考えていました。
だからこそ、その先輩の働き方がしっくりこなかったのです。
何故なら、数年おきに異動がある公務員は、誰が担当者になっても良いようにスムーズな業務フローにしておくべきで、深夜残業ありきの仕事は後任の人を苦しめることになってしまいます。
また、先輩は自分の仕事だけに集中していて、
周囲のフォローをしたり、部署の仕事を効率化するにはどうしたらいいかといったことには無関心でした。
しかし、結果として先輩は上司から非常に良い評価をもらっていて、
対する私の働き方はほとんど評価されませんでした。
評価されるのは、自分に割り当てられた仕事(だけ)をきっちりこなす人。
周りをフォローするとか、仕事のやり方を変えるとか、そういったことは
「やってもいいけどやらなくてもいい」ことであり、
求められてはなかったんだなあ、と気がついてしまったのです。
頑張れば頑張るほど、くだらない仕事も押し付けられる
これも公務員あるあるですが、リストラやクビがない、ということは
仕事ができない人、仕事をサボる人もずーっと在籍することになります。
そうすると、部署全体でやるべき業務量をこなすために
仕事をちゃんとやる人に集中して任せるしかなくなり、
頑張れば頑張るほどどんどん仕事をお願いされることになります。
そうなっても、仕事自体がおもしろければ
やりがいを持って仕事に打ち込めると思いますが、
公務員の仕事はそもそも前例踏襲のルーティンワークや、細かい雑務がとても多いのです。
私もそれなりに頑張っていたこともあり、あれもこれもと色々な業務を任されたことがありました。
しかし、その任された業務は「これって本当に必要なの?」「何のためにやっているの?」と首を傾げるものもたくさんありました。
例えば、毎年行われる調査の回答のために、膨大にあるExcelの表に数値をひたすら打ち込んで資料を完成させるといった仕事や、
多分使うことはないが、上司が万が一何か外部から指摘された時にすぐ答えられるようにするための補助資料の作成などです。
業務に追われて休日を返上してまでExcelの表に数値を入力しているとき、
「私、何やってるんだろ・・・・」
「こんなくだらないことにこと追われるくらいなら、頑張っただけ損だ・・・」
とすごくすごく虚しい気持ちになっていました。
退職を考え始める
安易な転職活動で撃沈
今の自分の仕事に対する失望や悲しみが溜まりに溜まったある日。
もうこれ以上は続けられないと思い、思い立っていくつか転職エージェントに登録をしました。
会社なんてたくさんあるのだから、今よりやりがいがあって、楽しいと思える仕事が必ずあるはずだと思ったのです。
しかし、「どんな仕事がしたいか」や「この職種で働きたい」などはまだ具体的に考えられていませんでした。
早速、登録した転職エージェントのキャリアアドバイザーの方と面談をすることになりました。
ドキドキしながらも、今は公務員であること、もっとやりがいのある仕事に就きたいと思っていることなどをお話ししました。
しかし、キャリアアドバイザーの方から
「公務員は数字を追っていないので、企業からは魅力的に映らない」
「年収は半分くらいになることを覚悟してほしい」
と言われてしまいました。
確かに、公務員は数字を追っていません。
しかも、公務員は数年ごとの異動ありきの仕事なので、ジェネラリスト的な仕事の仕方が求められ、専門的なスキルが身についているわけでもありません。
その後、実際に紹介されたお仕事は年収が半分くらいになることはもちろん、仕事内容も単調な事務作業や電話応対をするものばかりなど、私にとって魅力的なものはありませんでした。
ある程度転職活動が厳しいとは覚悟していたものの、
これ程とは・・・と思い、ショックはかなり大きいものでした。
「自分が必死に頑張ってきた10年は何だったのだろう?」
「何も意味がなかったのか?」
「転職は自分にとっての一大事で、結構なエネルギーが必要なのに、
いざ転職したら年収も下がりやりがいもないとすると、転職する意味はあるのか?」
そんなことをずっと考えてしまい、けれど職場に行けば嫌な仕事に悶々とするという繰り返しで、その時期は軽い鬱状態になってしまうほど本当に辛い日々でした。
「エレメント」という言葉と出会う
転職活動に撃沈し、その後何ヶ月かは
「もうこの仕事を続けるしかないんだ・・・」と絶望したまま過ごしました。
今思えば、別の転職エージェントを使ってみたり、ハローワークを使ってみたりなど他に転職活動をする方法はいくらでもあったと思うのですが、
心がボロボロになってしまったせいで気力を完全に失っていました。
そんな時、たまたま図書館でこの本が目につきました。
『才能を磨く 〜自分の素質の生かし方、殺し方〜』 ケン・ロビンソン著
曰く、「才能と情熱が出会う場所を”エレメント”と言う」。
それは例えるなら水の中にいる魚。
エレメントにあるときは、その状態にあることが自分にとって当たり前で、
泳ぐことが得意で好きであることに気がつかない。
どのようにして人は自分のエレメントを探すべきか、を書いた本でした。
読んだ後は「ふーん」くらいに思っていたのですが、
この「エレメント」という言葉が、何故か私の中に残り続けたのです。
私にとってのエレメントって何だろう?
「水を得た魚」というが、もしかしたら私がいるべき環境は、この公務員という職場ではなかったのかもしれない。
私が生き生きとできる環境ってどんな場所だろう。
そんなことをぼんやり思い続けているうちに、
そういえば自分は、絵を描くのがすごく好きだったことを思い出したのです。
美術の成績は大体良かったし、
学生のころは文化祭などがあると、当然のように看板やポスターの絵を依頼されていました。
軽い気持ちで友達の似顔絵を描いてあげたらすごく感激されて部屋に飾ってくれたこともあったし、
大学のサークルで勧誘チラシの絵を描いたら、それを見て心惹かれて入部しましたっていう後輩もいた・・・
思い出せば思い出すほど、私そういえば絵が好きで得意だった、
それなのになんで忘れていたんだろう?と思うようになりました。
なぜ忘れていたのかといえば、安定を求めるあまり
絵が好きで得意なことなんて不安定まっしぐらだと決めつけて、
自分の心の中に封印していたからです。
そのことに気がついてから、
絵が得意であること、デザインが好きであることを
何か活かす仕事ができないだろうか?と思うようになり
今からでも勉強してこの力を最大限に高めて、デザインの領域で仕事を獲ろう!と前向きな気持ちに一気に変わることができました。
そこからはすぐデザインが学べるオンラインスクールに入学して、
デザインの勉強を始めたら楽しくて時間を忘れて。
「ああ、私って、ずっとこういうことがやりたかったんだな」と改めて気付かされました。
もちろん私より絵やデザインが上手い人なんてたくさんいるし、
未経験ですぐに稼げる力がつくとも思えない。しばらくはかなり大変だろうと思っています。
けれど自分がやりたいことで、やりがいを感じられ、心から意味があると信じられる仕事なら、その大変さに耐えられる。
逆に、安定だけを求めて今の仕事を続ければ、私の心は確実に死ぬだろうと思ったのです。
ある日突然訪れた限界
デザインの勉強を始めた後も、
ある程度スキルがつき転職ができる見通しが立つまでは、勉強しながら公務員の仕事を続けようと考えていました。
しかし、そもそも公務員の仕事に対して疑問を抱くようになり、
退職したいと考えるようになったのは今から3〜4年も前のこと。
やりたいことを見つけたいま、
退職しようと思っているこの仕事に割くエネルギーが急速に無くなっていきました。
そしてある日出勤してPCを開き、いつものように仕事を開始しようとしたとき
停止したロボットのように、全く手が動かなくなってしまったのです。
「まずいな」と思いました。
やらなきゃ、やらなきゃ・・・と思っても、体が動きません。
その日はほとんど仕事ができず、その翌日も仕事ができると思えず、
そこから急遽理由をつけて有給休暇を申し出て、土日と繋げて数日間休むことにしました。
休みの間、デザインの勉強をしながらずっと自問自答しました。
デザインの勉強がすごく楽しい。出来上がれば達成感があり、もっとやりたい、やらせてくれという気持ちが湧き上がる。
一方、今の私の仕事は?休み明け、私は仕事を続けられるのか?いや、もうそんな気力は、私の中から消え去ってしまっている。
デザインの仕事が、私のエレメントであるかはまだわからない。
だけど、安定を求めて生活のためだけに仕事をしている自分は
例えるなら動物園の檻にいるシマウマだ。
エサが貰えて外敵もいない環境にいて、ここしかないのだと自分を納得させている。
けれど本当は、サバンナの大草原を駆ける脚力があるんじゃないの?
本当は、まだ知らない美味しい草の味に会いたいんじゃないの?
かなり突飛な考えだけど、本当に自然に、そう思ったのです。
そう思った時、「いま退職しよう」と決意ができました。
ある程度目処が立ったらとか、貯金があともう少し貯まったらとか、
そんなことを待つ体力は私の中にはもうない。
辞めよう。それしかない。明日出勤したら上司に退職を申し出ることを決めました。
退職を告げた日
休み明け、忙しそうな上司を無理に呼び止めて、話したいことがあるので時間をもらいたいと伝えました。
上司は「それならこの時間に会議室で」と約束をしてくれました。
それまでの数時間、どう話すかを頭の中でイメトレしていたのですが、
時間が迫るにつれて心臓がバクバクしてきて、
「本当にいいのか?」「言ったらもう戻れないぞ」という心の声が大きくなりました。
でも、私のこれまでの悩んだ日々、打ち砕かれた日々、もう生活のためだけに人生を使わないぞという決意を思い出して、込み上げてくる恐怖に耐えました。
そして時間が来て、上司に「退職しようと思ってます」と
無事に伝えることができました。
それから
退職を告げた後は、不思議と心がさーっと軽くなって、
自分はこれから何でもできるんだ。何になってもいいんだ。
と晴れ晴れとした気持ちでいっぱいになりました。
公務員になるくらいなので、慎重派で安定を求める私。
だから次が決まってないのに退職するなんて、怖すぎて耐えられないんじゃないかと思っていました。
けれど、その怖さだけを見つめて、やりたくない、自分のいるべき場所じゃないと思っている仕事を嫌々続けていたらーー
多分私は、健全な心にもう戻って来れなくなってしまっただろうと、そう思います。
まだ何者にもなれていない私ですが、
退職を決めて本当に良かった。
自分の決断に感動しています。
これから半年くらいは、勉強してスキルを磨いて、
自分が本当にやりたいと思える仕事をじっくり探したい。
貯めてきた貯金を崩すのは怖いけど、貯金とは本来こういう事態の時に使うべきもので、今はいいんだと自分に言い聞かせています。
読んでくれた人に、辞めたあとこんな仕事に転職できたよ!という事例を紹介できれば一番いいのだろうと思いつつ、
こんな中途半端な状態でも、人生や仕事や退職について考えている誰かの参考となればと思い長々と書いてみました。
これからの自分の人生が楽しみです。