小さき生物たちの大いなる新技術/今泉忠明
読了日2019/11/26
バイオテクノロジーという言葉はよく聞くが、
本書は中でも生物を模倣することに重きを置く、
バイオミミクリーについて記されている。
で、
バイオミミクリーって何??
というところからスタートする。
私の場合。
いちばんわかりやすい例を本書より。
夏といえば殺意の季節ですね。
花火大会で浮かれる若い恋人たちへその感情を抱くこともあれば、
お盆だからと久しく顔を合わせる友人やら親戚から最近の話をされることもある。
恋人だの結婚だの年齢だの……。
「いい人見つかるよよ!」
なんて私の現状も知らないのに語らないでほしい。
まだ結婚よりやりたいことがあるんです。
だがしかし、
そんな人たちよりもさらに殺意を抱く存在が夏になると出回る。
ぷう〜……ん
眠っているときに耳元で飛び交うこの音。
そう、
蚊。
静かにしていると聞こえる羽音だが、
騒がしいところだとまったく聞こえない。
すると気づいたら刺されている。
殺意を持って蚊取り線香を焚く。
だが不思議なことに、
連中、
刺すときには痛みを与えないでくれる。
なんなら下手な看護師よりよっぽど注射技術が上回っている。
たしかに蚊の刺す行為が痛かったら、
人間味にはすぐに「蚊だ!」とバレて叩かれておしまいだろう。
だから痛くないように針を細くして痛点を避けるように進化した。
立派である。
蚊ごときだが立派である。
ではその痛くない針の技術を利用して、
お前たち蚊の存在を少しでもありがたがってやろう!(違う)
と開発されたのが、
私たちが最近お目にかかることの多い、
痛くない注射針である。
私も注射は好きじゃないが、
刺されるところはじっと見ている。
過去に一度点滴か何かやったとき、
液剤が漏れたのか腕が青くなったことがあった。
それ以降は目をそらさない。
だが見ていると「ちくり」という感覚は見ないときよりも感じてしまうので、
痛くない注射針はやはり朗報だろう。
何より糖尿病患者さんなどは毎日のようにインスリン注射をするらしいので、
(毎日なら慣れるだろうという楽観派は糖尿病になってからモノを言えと侮蔑するよりも放っておくとして)
そういった身体的負担をやむなくかけられてしまう人々にはやはりありがたい。
何より皮膚に開く穴のサイズは小さいに限るだろう。
大きければ大きいほど、
病原菌やウイルスさんいらっしゃい状態になる。
そうなったら体のためにしていることが本末転倒になってしまう。
夏場の憎き蚊だが、
その痛くない針という大いなる進化だけは褒めなくてはならない。
見つけ次第叩き潰すけど。
というようなバイオミミクリーの世界を、
わかりやすく紹介してくれるのが本書である。
他にも、
「なぜ猫はかわいいのか」
ではなく、
「猫の舌はなぜザラザラしているのか+圧縮掃除機」
という話。
「かさぶた+自己治癒飛行機」
「カタツムリ+汚れがつかない外壁」
「アリ塚+高層ビル」
といった、
見る角度を変えれば役に立たないモノなどないのだなと思わされる。
また軍事目的に使用可能な技術も紹介されている。
軍事関係は特に予算がつきやすいので開発は進みやすいらしいが、
生物が生き残るために身につけた技術を物騒な目的に使わないでほしいと思う。
この本を読んでレビューを書いているときに、
ローマ教皇が来日されたのだけど、
繰り返し繰り返し世界平和を強調されていたのが印象的だった。
生物たちは生き残るためなら争いもやむを得ず、
それが進化の種となって花開いて、
こうしたバイオミミクリーとして私たちは生活に生かそうとしているけれど、
蚊なんかは同種同士争わず、
いかに自分が生き残るかに焦点をあてて痛くない針を作りあげた(と思う。多分)。
争うことなく進化することも不可能ではないのだ。
生物たちから学ぶバイオミミクリーで、
争わない世界というのもどうにか実現してほしいと思う。
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