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突然のメンタル不調!自分を見失った“20年目の気づき”

あの日、私はいつものようにデスクにかじりつき、終わらない案件とにらめっこしていた。空調が静まり返った深夜のオフィスで、タイピングの音だけが虚しく響く。

これが日常で、これが当たり前だと思っていた。仕事が人生そのものと信じて疑わなかったからだ。ふと時計を見て、針が午前2時を指しているのを確認したとき、私は小さく息をついた。

そんな矢先のことだった。部署のリーダーであり、気の合う同僚でもあった江上が、突然長期休養を取ると知らせが入った。健康問題だと聞かされるが、詳細は明かされなかった。

江上はいつも頼りになる男で、気さくな人柄が部署全体の雰囲気を支えていた存在だった。そんな彼が突然職場を離れるなんて、私には理解できなかった。

翌日、誰もが動揺を隠せない中で、私は一人、心の中で焦っていた。江上の分の仕事が次々と私のデスクに積まれていく。上司の指示を受け、やむを得ずその役割を引き継ぐことになったのだが、その膨大な量に圧倒されそうだった。

「まさか…これが俺の限界か?」と疑問が頭をよぎる。しかし、鋼のメンタルでここまでやってきた自負があった。「俺に限界なんてあるものか」と言い聞かせる。

だがその夜、私は初めての不眠に悩まされる。明かりを消した部屋の中で、じっと目を閉じるが、頭の中で業務の段取りや数字がぐるぐると回って離れない。まるで仕事に魂を奪われてしまったかのようだ。

翌朝、気だるさと疲労感を引きずったまま会社に向かうと、デスクにはさらに資料の山。定時の後も作業は終わらず、気づけばまた日付が変わっていた。いつもなら「やりがいだ」と感じていたはずなのに、その時の自分はただ、終わりなきトンネルに放り込まれた気分だった。

そんなある日、部署で定期健康診断の結果が配布された。「重度のストレス性高血圧」「要精密検査」と記された自分の診断結果を見て、私は愕然とした。「重度」などという言葉が自分に関係するとは思ってもみなかった。

今まで気づかず、ずっと無理を続けていた自分が恥ずかしかった。そして、その日配布された資料の中に「ストレス管理や心のケアに役立つワークショップ」の案内があり、「健康のためなら」という軽い気持ちで参加することに決めたのだった。

セミナー会場に足を運び、講師の話を聞き始めると、ただの健康管理ではなく、メンタルヘルスに関する内容だと気づいた。初めは少し戸惑いもあったが、講師の「あなたは自分の心の声に耳を傾けたことがありますか?」という言葉が、私の心の奥に静かに響いた。

それをきっかけに、私は少しずつ仕事との距離を意識的に取ることにした。以前の私なら「そんなことは甘えだ」と即座に否定していただろう。だが、これ以上体を壊しては元も子もない。

数週間が過ぎた頃、私は職場で少し変わった光景を目にした。なんと江上がひっそりと復帰してきたのだ。驚きの中で、「あの江上がどうして…」と思わずにはいられなかったが、彼の姿は以前の彼とはまるで違った。顔は精悍で、目には鋭い輝きが宿り、その一歩一歩にはまるで自信がみなぎっているかのようだった。彼の周囲には、今にも燃え上がりそうなエネルギーが漂い、まるで別人のように見えた。

「江上さん、復帰おめでとうございます。」私は思わず声をかけた。

「ありがとう。しばらくゆっくりして、自分を見つめ直すことができたよ」と江上が穏やかに笑ったが、その微笑には、以前にはなかった深い安堵と強さが感じられた。

その瞬間、私の心に何かが解けるような感覚があった。自分を追い込むことが全てではない、何かを乗り越えるには時に立ち止まることも必要なのだと、江上が教えてくれたように感じた。

それから私は、少しずつ「自分らしい働き方」を模索するようになった。仕事に情熱を注ぎながらも、心に余裕を持つ。かつてのように心身をすり減らしながら「鋼のメンタルだ」と思い込むのではなく、仕事も人生も前向きに歩める生き方があるのだと確信できた。

あの日、セミナーでの一言と江上の変化が、私の人生を変えた。「休むことも成長の一環だ」ということを胸に、私はこれからも歩んでいこうと、深く心に刻んでいた。

私のテーマは「人生の試練が教えてくれたリアルなストーリ」を1日1話発信。ビジネスや人生に役立つヒントや気づきをお届けします。迷いや悩みが生まれた時は、一緒に地図を広げ、進むべき道を探していきましょう!
@morizo_23

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