新人がクレーム対応で大炎上、その裏で先輩が動いた
その怒声は会議室を震わせ、私の胸をえぐった。食品メーカーの担当課長、榎本が顔を真っ赤にして机を叩く。
「これが成果だと?俺たちのブランド価値をどうする気だ!」
新社会人の私は震える手で資料を握りしめるしかなかった。返す言葉も見つからない。謝罪を口にするも、榎本の怒りはますます激しくなるばかりだ。
「謝って済むなら警察はいらん!次はどう挽回するか、すぐに説明しろ!」
緊張に飲み込まれそうなその瞬間、横にいた先輩、山口が静かに立ち上がった。スーツの袖を整え、わずかに前傾姿勢をとりながら、冷静な声で切り出す。
「榎本さん、貴重なご意見ありがとうございます。森野はまだ新人で至らない点が多いですが、詳細な改善案を持って改めてお話をさせていただきます。少しお時間をいただけますか?」
その一言で、張り詰めた空気が一気に和らぐのを感じた。山口の動きには一分の隙もなく、相手の目を直接見ずに顔の中心をぼんやりと捉え、手を胸の前で軽く組む。その一つひとつが計算された「型」だった。
「……わかった。ただ、次は期待させてもらうぞ」
会議が終わり、オフィスに戻ると私は椅子に崩れ落ちた。
「山口さん、どうしてあんなに冷静に対応できるんですか?」
山口は笑みを浮かべて言った。
「最初は俺もお前と同じだったよ。だけど、クレーム対応は技術だ。感情をぶつけるんじゃなく、型を守るんだ」
山口は続ける。
「相手の目を見るな。顔の中心をぼんやり見るだけでいい。距離を取り、手は胸の前で右手を下にして組む。そして笑顔を封印しろ。さらに前傾姿勢をとれば、『お話を伺います』という誠意が伝わる。この型で、自分を守ることが一番大事だ」
数週間後、再び怒りを抱えたクライアントの前に立った私は、深呼吸をし、教わった型を思い出した。手を胸の前で組み、顔の中心に視線を落とす。
「ご指摘ありがとうございます。課題をしっかり伺った上で、改善案をご提示させていただきます」
クライアントの怒りは、驚きの表情へと変わった。
「まあ、聞くだけは聞いてやるよ」
その夜、山口に報告すると彼は微笑みながら言った。
「型が身についてきたな。だが、これからは自分らしさも加えていけよ」
翌週、新たな商談で扉を開けた私の前に現れたのは――満面の笑みを浮かべた榎本だった。
「森野さん、次回のキャンペーン、期待してるぞ!」
その言葉に一瞬驚きつつ、私は深呼吸し、背筋を伸ばした。次の試練にも、自分の足で進む準備はできている。
人生の試練が教えてくれたリアルなストーリーを、1日1話お届けします。迷いや悩みが生まれた時、一緒に解決の地図を広げていきましょう! @morizo_23
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