④死ぬかもしれない
体幹失調がある
20代で突然歩けなくなるなんて、そうある事ではありません。
血液検査やレントゲンなどから始まり、MRI、神経伝達速度(末梢神経に異常がないか調べる)を何度もしました。
自分の症状はなかなか的確に評価するのは難しいなぁと思っていましたが、私は浮遊感と体幹失調と呼ばれる症状が強い事に気づきました。
初めて気づいたのは回診で「目を閉じて立ってられる?」と聞かれたのがきっかけでした。
閉眼立位で激しく動揺(身体がふらついた)のです。
これは体幹失調の検査でよく使われる方法です。
体幹失調というのは、すごく簡単にいうと身体のバランスがうまくとれずに動揺しやすいという感じです。
「私、体幹失調があるんだ」と初めてわかりました。
とにかく驚きました。
教科書で見た、あの患者さんにあった症状
これが体幹失調なんだ・・・と。
感覚も悪い
さらに足底の感覚もわかりにくいことに気づきました。
特に左足の感覚が分かりにくく普通に立っていても左足に体重がかかっている気がしないのです。
目で見ているから左足は床についているし、ついているから体重がかかっているだろうと頭で考えれば左足にも体重が乗っているのはわかります。
しかし感覚的には左足に体重がかかっている感じがしませんでした。
床と接しているのは右足だけという感じです。
普通は体重が左右均等になるように身体は自然とバランスをとります。
右にかけすぎたと思えば、左にもうすこしかけてみようと思って修正します。
感覚は今の姿勢を知るセンサーでそのセンサーを元に身体をどう動かすのがいいのかを脳で考えて実際に身体が動きます。
しかし感覚がわかりにく私はそのセンサーの精度が低いために身体のバランスをとるのが苦手になっていました。
さらに体幹失調もあるので、姿勢をうまく保とうとする機能自体も低下します。
そのためよけいに私はバランスを崩しやすい状態だった。
理学療法士や作業療法士でないと分かりにくかもしれません。
例えば正座していて左足だけしびれたとしよう。
しびれて感覚がない足で歩くのって難しいですよね?
そんな感じです。
実は私が歩行しにく状態だったのは、単に脚の力が弱かったからではなくて
この体幹失調と感覚障害によるものが大きかったと考えている。
MRIをとることになり膨らむ不安
失調がある、そして浮遊感がある。
これがはっきりしてから脳のMRI検査を受ける事になりました。
主治医は特に何も言いませんでしたが、私はすぐに何を疑われているかわかりました。
脳腫瘍だ。
失調、浮遊感は小脳に異常が出た時の典型的な症状でした。
他の原因でも起きますが、小脳=失調 は代表的な症状なのです。
小脳は脳梗塞も脳出血も起きる場所ですが、24歳という年齢的にも考えにくですし症状が違うかなという感じでした。
そこで小脳の脳腫瘍を疑われているんだなって思いました。
もしくは脳幹ですね。
脳幹とよばれる部分の障害でも失調はでます。
脳幹は呼吸を司る場所でもあり、生命を維持するための役割を持っている大切な場所です。
小脳と脳幹は隣り合わせています。
医療関係者でないとイメージがつきにくと思いますが、脳幹の損傷はそれこそ生命にかかわってきます。
小脳に腫瘍があったとしたら、その腫瘍が大きくなり脳幹を圧迫しはじめたらこれもまた同じ。
生命が危ういのです。
この時私が思った事をそのまま書くと
失調あるし、小脳の脳腫瘍を疑われているんだろうな。いや、脳幹の可能性もあるわ。脳幹・・・だとしたら私は死ぬのかなぁ。
小脳だったとしたって、腫瘍が大きくなって脳幹圧迫したら同じか。
・・・死ぬのかな。
もし脳腫瘍じゃなくても、このまま治らなければ私は仕事も、結婚も子どもをもつ事も全て諦めないといけないんだ。人生諦めないといけないのか…
これを思ったのはMRIの検査が始まってすぐでした。
こんな辛い感情があふれて、MRIの中で私は泣き出してしまいました。
MRIは動くとノイズが入りうまく撮影ができません。
「動かないでくださいね」と放射線技師に注意されたのは今となっては笑い話です。
初めてリアルに「死」という可能性を感じた時でした。
人間いつか死ぬのはわかっていても、それを20代で感じるとは全く思っていませんでした。
怖くて怖くてしかたなかったです。
見た目からは死を意識するほどの状態ではなかったのですが、良くない想像はいくらでもできてしまいます。
結果的に小脳に異常はなかったのだけど、はっきりと何か診断がつくわけでもなく不安はずっと続いていました。
つづく