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孤独なあんぱん。

パン屋が近所にオープンしたので、買いに行った。
あんぱんを買って、家に戻っておいしいコーヒーを淹れて、一緒に食べた。
ぼくはあんぱんが好きなのだ。

ものすごく美味しかったのだけど、
ああ美味しいという言葉は、誰にも届かなかった。

外食をしても、ああ、美味しい、とか美味しすぎて思わず笑顔になることがあるんだけど、一人なので、その笑顔は誰にも届かない。

そればかりか、ひとりでにやにやしている危ないおじさんとして認識されるかもしれない。

——あのおじさんさっきからひとりでニヤニヤしているんですけど。
ああ、これから犯罪ですか、最後の晩餐ですか、お気の毒に。
なんて思われるわけはないんだろうけれど、
一人でにやにやしているおじさんが存在しているという事実は変更されない。

でも、僕の美味しいと思った気持ちとか、笑顔とかって、そもそも誰かのためじゃないはずだ。自分の気持ちなのだから、自分で大切にすれば良い。

だからそれでいいんだけれど、なんだろうこのやりきれない気持ちは。

一人で生きていくと決めた。
決めていないけれど、誰かを巻き込めるような人生ではないので、しばらくは一人だということだ。このしばらくはずっとなのかもしれないが、それでも良いと思っている。

明日も食べようと思って、僕はあんぱんを2個買った。
半分は本当で、半分は見栄だったのかもしれない。

家に帰って誰かと食べますよ、っていう。
そんなつもりじゃなかったんだけど、気がついたら2個買っていた。
はあ。

部屋の中に、あんぱんが一つ残っている。

なんだか急にその事実に耐えられなくなって、
僕はあんぱんをたべてしまった。

あんぱんは無くなった。

美味しかった。





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守田樹|凡庸な日常
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