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BOOK REVIEW vol.069 すべて真夜中の恋人たち

今回のブックレビューは、川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』(講談社)です!

この小説の登場人物たちは、会話の中でときどき、「自分で選ぶ」という言葉を発していた。「これからは自分で選んでいく」と力強く話す人、「自分で選んだことだもんね」と肩を落とす人、そして「自分では何も選んでこなかった」ことに気づく人…。まったく異なる場面で、異なる人物たちがその言葉を口にするたびに、私の心の中にも、「今までの私が選んできたこと、そしてこれから選んでいくものって何だろう」という疑問がぽつんと浮かび、物語を読み終えたあとも、頭の中をぐるぐるとまわっていた。

主人公は、自宅で校正の仕事をしている冬子。私がこの小説を手に取ったきっかけは、“校正の仕事をしている主人公の話”という情報を、どこかで目にしたからだった。一時期、校正の仕事をしていたことがある私は、冬子に親近感を持っていた。冬子は、人と言葉を交わすことにさえ自信が持てず、誰もいない部屋で黙々と校正の仕事を続ける30代の女性だった。

物語は冬子の恋愛模様が中心で、帯にも『世界中が涙する、最高の恋愛小説』と銘打ってある。でも個人的には、恋愛や登場人物たちとの関わりの中で起こる出来事を通して描かれる、冬子の“心の内側の変容”に胸を打たれた。どんな人にでもきっと、誰にも言えない過去がある。それは、冬子にもある。過去の出来事が強烈なトラウマとなって心に影を落とし、“もうこれ以上、傷つきたくない”と防御し続けた結果、自分の感情をさらけ出すことも、自ら何かを選び取ることからも遠ざかっていってしまう…。そんな冬子が恋愛をきっかけに、溢れ出る感情を不器用ながらに解放していく姿がとても印象的だった。傍観者の私は、ただ想像することしかできないけれど、冬子が乗り越えた心の葛藤はとても大きく険しいものだったように思う。そしてそれは、冬子自身がようやく「自分で選べた」ことなのだと思うと、より一層、胸が熱くなった。

「今までの私が選んできたこと、そしてこれから選んでいくものって何だろう」・・・冬子や登場人物たちを見ていて、私もふと考えてしまった。これからのことはまだわからない。でも何かを選ぶタイミングが、もうすぐそこまで迫ってきている気配は確かに感じている。人生がどう変化してしまうのか、何だかすごく怖い。そして、二の足を踏みながら時間稼ぎをしようとしている自分の姿がどこか滑稽にも見えてくるけれど…。その時がきたら、私も冬子のように感情をごまかさず、自分の心に正直に選びたいと思う。たとえそれが、どんな結果であったとしても。

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もり さとこ
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