ソウルミュージックを聴きながら〜Donny Hathawayを熱く語る
音楽は色んなジャンルを幅広く聴く方だけど、もともと父親がR&Bやジャズ、南米音楽が好きで、幼少の記憶ではスピーカーの前に何故か正座させられ、ブルースを聴かされていた。心して聴けって感じで当時は強制されていたけど、子供心にも痺れた。いや足が痺れただけじゃなく、心を持ってかれた。
その影響なのか、10代の終わり頃から今もずっと好きな音楽のベースにあるのはソウル / R&Bだ。
自分好みの音楽を探して中古レコード屋通いなんかもするようになり、時代を遡って聴き始めた中でも一番惹きつけられたのは、70年代のニューソウルだ。
60年代までのソウル / R&Bとは一線を画す、社会的なメッセージや個人の内面を書いた歌詞、ジャズやロック、クラシックまで幅広く取り入れ洗練された音楽性がニューソウルの特徴だ。
難しい説明はさておき、代表的な曲としてマーヴィン・ゲイの「What’s going on」をまずは聴いてほしい。
他にもよく名前が挙げられるのは、Curtis Mayfield、Stevie Wonderは70年代の「Talking Book」から「Songs in the Key of Life」辺りが好きだ。
◇
中でも私が敬愛してやまないのは、Donny Hathaway
その人だ。
子供の頃からプロのゴスペルシンガーだった祖母と歌っていたダニーは、当時としては珍しく大学でクラシックの音楽教育を受けた黒人中産階級出身のソウルシンガー&ソングライターだ。
ピアノやエレピを弾きながら歌うスタイルで、ダニーの伸びやかで懐の深いエモーショナルな歌声は、洗練された楽曲とハイレベルな演奏と共に、心に温かく響いてくる。
まずは軽快なナンバー「Flying Easy」から
オリジナルも良いけどカヴァーも素晴らしい。どれもまるで最初からダニーの曲だったみたいに聞こえてしまう。人種やジャンル関係なく沢山のカヴァーを残している。
レオン・ラッセルのカヴァー「A Song For You」は聴くたびに心が震える。
切々と歌い上げるダニーの歌声とピアノとオーケストラの音色が胸にジンワリと沁み渡る。
「What's Going On」は本家マーヴィン・ゲイはもちろん素晴らしいけれど、ダニーのアレンジも心地良いグルーヴを生んでいる。
ダニーのジャズを感じさせるWurlitzerのエレピ演奏も超カッコイイし、縦ノリじゃなくて横ノリのうねるようなグルーヴは、自然と体が揺れてくる。
観客との一体感や会場の熱気が感じられるLive盤は一聴の価値あり。
そして盟友ロバータ・フラックとの神デュエットも最高。
ロバータとダニーは大学の同級生だった。
二人の息の合ったハーモニーも美しい。
「Where is the Love 〜恋人はどこに」
「The Closer I Get to You 〜私の気持ち」
最後のオリジナルアルバムとなった『Extension of a man 〜愛と自由を求めて』に収められている「Someday We'll All Be Free」は、柔らかな光の中で空高く飛んでゆけそうなメロディーと、ソウルフルな歌声に優しく深く包み込まれる。
心の奥まで訴えかけてくる声は魂の叫びのように聞こえる。
何度聴いても涙が出てしまう。
ダニーは、もう全てから解き放たれて自由になりたかったのだろうか…。
絶頂期から精神的な問題を抱え、長期の休養を余儀なくされ、ロバータ・フラック
の熱心な誘いにより2枚目のデュエットアルバムを制作中だった1979年1月13日、宿泊先のホテルの15階から転落した姿で発見された。まだ33歳だった。
ホテルに戻る前にはロバータの部屋で夕食を共にしていた。その時は異変には気づかなかったという。
ロバータのショックは相当なものだっただろう。
なぜか昔から私が敬愛する人達は、早逝してしまった人が多い。
しかしダニーには娘がいて、 レイラ・ハサウェイもシンガーになった。
彼女がAppoloシアターで歌った「A Song for you」は一瞬ダニーが歌っているのかと思うくらい生き写しで、神がかっていた。
ダニーの遺伝子はしっかり受け継がれたのだ。
ジャズスタンダードの「For All We Know」は、ダニーの祈りのように聞こえる。