『シーラという子 虐待されたある少女の物語』簡単に語れない問題は静かに読書するという方法もある
本日はトリイ・ヘイデンさんの『シーラという子 虐待されたある少女の物語』を読みました。
ものすごい本に出会ってしまいました。
この本は約40年前のアメリカの特別支援学級の実話です。
著者のトリイ・ヘイデンさんは、特別支援学級8人からなるクラスを受け持っていました。
障害や特性がさまざまな子どもたちとの日々も、ようやく落ち着いた頃。
ある問題を抱えた少女を受け入れることになります。
名前はシーラ、6歳。
シーラは近所の3歳の男の子を誘拐して、木に縛り付け火をつけるという重大な事件を起こしてしまいます。
家庭環境も複雑で、母親に見捨てられ、父親もシーラが幼少の頃には刑務所で過ごしています。
親戚に預けられるもの、結局見捨てられてしまいます。
実父が、刑務所から出てきて一緒に暮らすようになります。
シーラは州の精神科病院に入院することになるのですが、小児科病棟に空きがないため、入院が決まるまでトリイさんの学級に入ることになります。
最初、シーラは誰とも話さず、身なりも不潔。
家でお風呂に入れないので、体からは臭いが漂ってきます。
クラスで問題行動を起こしたり、破壊行動をしたりと、周囲の子どもたちや先生を次々と翻弄させるシーラ。
しかし、トリイさんは、虚勢を張るシーラと少しずつ距離を縮め、信頼関係を築き上げていきます。
少女はあまりに大人に裏切られて、愛情を知らないまま育ってきたので、誰かを信用することも愛することも出来なかったんですね。
生き延びることに必死で、ましてや相手を思いやる想像力もなかった。
トリイさんは、誰もがそうではないこと。
シーラが大切で特別な存在なのだということを、繰り返し伝えていきます。
少しずつクラスの中で思いやりを示すことの大切さを学び、自分の気持ちも不器用ながら表現できるようになり、支援学級の子どもたちと心を通わせるまでに成長するのです。
そして、少女は少しずつ素晴らしい学習能力があることが明らかになり、大人たちが協力して精神病院に入らなくてもいいように、裁判を起こして勝訴するのです。
シーラにとってこの上ない幸福が訪れるかのように見えたのですが、さらに、とてつもない悲劇がシーラに襲いかかります。
身内から許し難い性的虐待を受けて、心身ともに大きな傷を負ってしまうのです。
感情を押し殺してきたために、決して泣くことが出来なかった少女。
身の上に降りかかる不幸を嘆き泣くのですが、本当に辛い場面でした。
40年前のことなので、学校での体罰の描写や特別支援学級の教育や考え方も、今の時代に読むと違和感を感じる部分があることも否めません。
しかし、学ぶべき点はそれを上回るほど多くあります。
日々の子どもたちと本気で向き合ってきた先生の強い思いこそが、奇跡を起こしたのには間違いのないことです。
トリイさんとシーラの別れの場面は、とても切なかったです。
シーラは「トリイ先生のためにいい子になる」と、誓います。
しかし、トリイさんは言います。
「いいえ、わたしのためにじゃないわ。
あなたのためにいい子になるの」
子どもの虐待問題について、深く考えるきっかけになる本です。
心は痛むでしょう。
しかし、どうか、目を逸らさずに。
私たち大人は、子どもを守る立場でなければならないのですから。