中島たい子さん『院内カフェ』介助する家族の理解されない心の悲鳴が聞こえた
本日は中島たい子さんの『院内カフェ』をご紹介します。
総合病院のロビーにある、カフェをめぐる物語を読みました。
私が去年の手術でお世話になっていた、そして家族の通院をしている大学病院にもスタバがあります。
この小説に出てくるカフェも、いわゆるフランチャイズのカフェのようです。
つまり、街のどこかで必ず見かけるカフェが、病院にもあるという設定です。
病院のカフェだから「健康に良い」メニューが揃っているという訳ではなく、ごく普通の飲み物と軽食のお店です。
主なお客さんは、病院に通院している患者さん、医師、入院患者さん、お見舞いの人です。
ある日、お店で夫婦がお茶をしています。
夫は入院患者、妻は見舞いに訪れているようです。
すると何か口論をした拍子に、妻が夫に飲み物をぶちまけて、お店を後にします。
朝子は、長年実の母を介護して看取り、ようやく訪れたと思った自分の時間、ようやく新しく自分のためにやりたいことも見つかりました。
そんな矢先に、今度は実の夫が潰瘍性大腸炎という難病を患います。
そのため、朝子は自分のやりたいことを断念。
病院を調べたり、健康に気を遣った手料理を作るなど献身的に支えているのですが、夫は横柄で、全く妻の言葉に耳を傾けません。
夫の孝昭もすぐにお腹を下してひどい腹痛や出血に悩まされる自分の体調のせいで、体力や判断力も失われて、朝子に向き合うことも難しい事情もあります。
朝子はこれまで介護で、病気の人から感謝もなく依存されてきて虚しい思いを抱えてきました。
病気の人、介助する人の、それぞれの気持ちがあるんですよね。
この小説では、夫婦を通して両方の事情が徐々に明らかになります。
朝子の介護人の心の葛藤が書かれていてるのですが、家族の介護や介助している家族なら頷いてしまう、重たい言葉だと感じました。
介護する人はなかなか正直な声を上げられないでしょう。
小説を読むことで少しでも癒しになればと思います。
店員の相田さんという女性は作家をしながら、カフェで働いているのですが、彼女も不妊という悩みを抱えています。
他のお客さんは、おそらく発達障害のウルメ、お医者さんぽい風貌のゲジデントなど、個性的です。
カフェはどんなお客さんでも、いつもそこにある。
優しく温かな居場所なんですよね。
ほっこりするだけの小説ではなく、丁寧に登場人物たちの事情や感情が書かれているのがとても良かったです。
病気や健康についても、向き合い方を考えさせられました。
人それぞれに歩んできた人生があります。
「どうして、こんな病気になってしまったんだろう」というそれまでの生活面への後悔、近しい人へぶつけてしまうやるせない気持ち。
家族だけで病気に向き合うと苦しくなってしまうけれど、こうした「サード・プレイス」があることで、また少し元気になって頑張れるのだと思います。
疲れたら、お茶しましょう。
30分でも1時間でもいいので、自分だけのための時間を過ごしてねぎらいましょう。
私も今、カフェ帰りです。
スーパーに寄りがてら、30分のお茶時間が、自分を取り戻せる大切なひとときになることもあるのです。
お茶しながら、ゆっくり読んで欲しいなぁ、と思います。
介護する人、病気の人も、お互いの気持ちに寄り添えていますか?
誰かに言えない思いは、物語だけでもわかってくれると思うと心癒されるものです。
私自身も去年手術を受けたり、介助が必要な息子の育児をしていて、病気はいつもすぐ隣にチョコンとある状況です。
私は誰かに抱えている気持ちを話せなかったりするので、小説を読んで気持ちを落ち着かせたり、安らぎを求めることもあるんですね。
文庫本になっていますので、ぜひお手にとってみてくださいね。
できたら、中島たい子さんの前作『漢方小説』も合わせて読んでほしいです。
私が漢方に興味を持ったときに、小説を読んだのがきっかけで中島たい子さんを知りました。
病気や健康について、ゆるっと読めて考えさせられる。
こういう本が私は大好きです。