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いたたまれないきもちになる
老人に弱い。
私は老人が出ている映画はもれなく泣ける。
ニューシネマパラダイス、ストレートストーリー、
セントラルステーション、カール爺さんの空飛ぶ家。
さらに子供でもセットになっていようものなら二倍だ。
なぜ老人に弱いのか。
私のトップオブ老人シーンは山田洋次「学校」の中の田中邦衛が
字を書くシーンだ。
山田洋次は心の柔らかいところを
グリグリ「人間の優しさ」という武器で攻撃してくるので、本当に要注意な監督だと思う。
「学校」は夜間学校を舞台にした四部作の映画だが、
私が語りたいのは「学校」の一作め、西田敏行が先生のものだ。
田中邦衛は生徒の1人として出ている。
文盲なのだ。
文字を学ぶために働きながら夜間学校に通っている。
田中邦衛はそこで夜間学校の先生に恋をする。年若い女性だ。
30歳以上離れた年下の女性に恋をする。
普通ならその恋は終うべきだろう。犯罪にもなり得る。
それでも彼は気持ちを伝えようとする。
その判断は恋愛の経験の浅さなんだろうし、
彼が恋愛に構えない人生を生きた切なさでもある。
彼は気持ちを伝えるために何をしたか。
ラブレターを書いたのである。
ラブレター!!中学生か!
線路近くの安アパート、もちろん一緒に暮らす家族の姿は無い、一人暮らし。
田中邦衛はそこで、定規を使って文字を書くのである。
定規を!使って!
暗がりの中、電車の騒音とかすかな電灯の光。
本当に嫌なひとだ。山田洋次。
老人って人生の達人かと思った。だってたくさん生きてる。
でも全然達人じゃないのだ。何年も多く生きてるだけ。
なんでもできるわけではないのだ。知らないこともたくさん。
それでも身体だけは老いていく。上手く動けない。
ジレンマの塊だ。焦燥の塊だ。
私は知らなかった。老人は若者のようにだってなる。
でも身体は古い。
これから私も向かっていく。身体は老人、心は子ども。
なんの役にもたたないコナンくんみたいだ。
人様の映像を観て泣いてる場合じゃないのだ。
いたたまれないきもちになる。