お坊さんをデリバリーする
お坊さん便をご存じですか?
少し前のことですが,インターネット通販のAmazonで僧侶をデリバリーできる「お坊さん便」が話題になりました。2013年からサービスが始まり,2015年にAmazonに登録したことをきっかけに多くのメディアで取り上げられ,広く知られるようになりました(現在はAmazonでの販売を終了し,こちらのホームページから問い合わせられるようになっています)。
仏教界からは,「宗教行為をサービス化している」「お布施はお経の料金ではない」と批判する声があがっていましたが,お布施の位置づけはその通りだとして,私はお坊さん便の取り組み自体は決して悪いものではないと感じました。
寺院,僧侶を選ぶ時代がやってきている
本願寺派でいえば,どのお寺で聴聞したとしても,親鸞聖人が明らかにされた浄土真宗の教えであることに変わりありません。ご門徒の方は僧侶の性格や人柄,伝道の仕方などを参考にして,自分に合う僧侶や寺院をお探しになればいいと思います。もし,全僧侶がお坊さん便に登録していたとして,果たして私は選んでもらえるような存在なのでしょうか?先祖代々のかかわりだけではなく,目の前におられる方ひとりひとりに目を向けることが大切と感じます。お坊さん便に反対しているのは,お坊さん便が広まると困る人たちではないでしょうか?寺院の規模や歴史にかかわらず,きちんと勉強して,実力,人望のある僧侶に人が集まるのが本来だと思います。お坊さん便で頼んだ僧侶がすばらしければ利用する人が増えるでしょうし,そうでなければ,親や祖父母の代に付き合っていた寺院にそのまま依頼するだけです。
値段を決めてくれた方がありがたい?
お坊さん便は,定額(2020年5月現在,初回35,000円,2回目以降の利用は45,000円)で何宗であってもほぼ全ての宗派の僧侶を派遣してもらえます。はっきりとした価格(?)がわかってありがたいと感じる人も多くいると思いますが,その金額を用意することが難しい人はどうなるのでしょうか?35,000円が安く感じるか,高いと思うか,ちょうどいいかは人それぞれですが,基準を決めることはそこからもれる人が出てくることにつながると考えられます。
いずれにせよ,「仏法が伝わってほしい,お寺が続いてほしい」という気持ちで包まれているということを忘れてはならないと思います。なお,お坊さん便を意識してかはわかりませんが,本願寺派では築地本願寺が地方から東京に引っ越して来た人向けに僧侶を紹介しています。大谷派でも同様の窓口を設置しているそうです。日本のどこであっても浄土真宗の教えが聞ける、すばらしい制度と思います。
高め合える教団,仏教界をめざして
優れた能力があっても環境に恵まれなかったり,努力が報われなかったりする傾向がみられ,優秀な人材を失っているのが僧侶という集団の現状だと思います。正しい競争が行われなければ,その分野はどんどん停滞していくのではないでしょうか?共倒れになってしまってはいけませんが,足の引っ張りあいでなくお互いに高め合えるような関係が仏教教団の理想だと思います。
一方で,フェアな競争につながる事業なのか,ただ単に自分のビジネスに誘導して紹介料や手数料をピンハネする会社なのか,注意して見極める必要があると考えられます(当然ですが,35,000円あるいは45,000円全額が僧侶の手に渡るわけではありません)。今は既存の仏教教団や同様のサービスを行っている事業者と競争しなければならないため,価格を前面に出していますが,ライバルがいなくなったとき値段が変わる可能性はゼロとはいえません。いつまでそうした金額で運営が成り立つでしょうか?お坊さん便を運営している会社の方も生活していかなければなりませんし,善意や親切でやっているわけではありません。
登録する僧侶は仏教教団に育成させているのに,そのコストを支払わずに完成した僧侶を集めて手数料,紹介料というのは,少々都合がよすぎるのではないでしょうか?登録している僧侶向けに勉強会を行うなど,研修の機会を設けていただくと,より僧侶の質が向上するのではと思います。もちろん,門信徒の方に講座を開いても喜ばれると思います。本来は,宗門がこうした紹介サービスを設置するのがもめなくてすむのだろうと感じます。
まとめ
・お坊さん便は悪い制度ではない
・値段で選ぶのは望ましいとはいえない。今後価格が変わる可能性も考えられる
・お寺の歴史や規模は関係ない。きちんと勉強して,実力,人望のある僧侶が選ばれ,残っていってほしい
お坊さん便について考えていることを書かせていただきました。先祖代々のお付き合いだけでなく,目の前にいらっしゃる方ひとりひとりのお顔をしっかりと見て,新しい関係を築いていくことが大切と思います。最後までお読みいただき,ありがとうございました。
合掌
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