「音楽」と「言葉」の狭間で
音楽にとってタイトルとは
ちょっと前にチコちゃんが言っていたんです。あの「ジングルベル」は、本当はクリスマスなんて関係なくて、馬に曳かれたソリでナンパする曲だって。へぇですわ。バックに映っている何も知らない子供たちが歌っている姿が、何とも愛らしく見えました。
その昔、有名なゴーストライター事件華やかりし頃、とある昼の帯番組で新垣隆氏作曲の『交響曲第1番』(HIROSHIMA)をディスっていました。
「元々、この曲は広島の惨事とは全く関係がなく後になって名前が付けられた」
と。
司会者の呆れ顔と、コメンテーターたちの無粋な表情が、いまだに脳裏に焼きついています。
「えっ、でもクラシック音楽ってそういうものですよね」
この論調が盛んだった時、音楽評論家たちはそれを否定するコメントを出したのでしょうか?この件で音楽雑誌の紙面を割いていたかも知れませんが、実際はどうだったんでしょうか?とにかく、したり顔で何度も曲に対する批判を繰り返すこの番組に、私は違和感しかありませんでした。人には罪はあるでしょうが、曲には何の罪もない。今でもそう思います。
音楽評論家は、この曲が過去に登場した作風の模倣に過ぎないと批判を繰り返した記憶がありますが、元々この曲はクラシック音楽の歴史を辿るというコンセプトもあったようですから、それは作品としての品質を貶めるものではないと思います。それに、過去の作風に倣うことがそんなにいけないことなのでしょうか?誰も書いたことのない前代未聞の作品でないと評価しないという論調は、芸術至上主義の行き過ぎた面を象徴してはいないでしょうか?この曲はむしろ親しみやすい作風であり、一般の大衆が耳を傾ける要素はそれなりにあったと思います。人によって意見の分かれる内容ですので、まあ、熱くなる前に一旦横に置きまして、
もしそれを言うなら、「運命」なんてどうでしょう?ベートーヴェンは名付けてませんし、何だったら日本だけの通名ですよって。彼らはその事実を知っているんでしょうか?
音楽のタイトルはポップスには無くてはなりませんが、クラシック音楽にとって絶対ではないと思うんです。タイトルが付いているから、「ああ、そうなのかな~」と思わされている部分もあるのかな?とも思いますけどね。
音楽は私たちの心模様を表現したものだと思います。言葉も同じで、私たちの心の有様を表現したものですね。しかし、言葉は本当に私たちの心の状況を寸分違わず表現しているものなのでしょうか?恋や愛など、概念的な物を、
「ハイ、コレです」
と明確に示すことは出来るのでしょうか?ポップスの歌詞を読んでいると、なるほど人の心を余すことなく表現しているように見えます。しかしそれはそう見えるだけで、あたかも「そうである」かのようにリードされている面もあるのではないでしょうか?言葉はもともと、人の感情(心で思ったこと)を他人に伝えるために便宜的に作られたものですから。
言葉の性格
今仮に3者の間で「犬」という言葉を決める場合、他の二人が猿だの熊だのといえば、犬という言葉は生まれません。3者の合意が必要となります。3者がそれぞれに違う言葉で「犬」をイメージするなら、それを一つの言葉に集約することは出来ません。ですから、何かが一つの言葉で表現されていても、それは便宜的に過ぎないし、絶対的に何かを言葉によって表現することは、恐らく無理だろうと思うのです。言葉はこのように曖昧なものですから、タイトルで音楽の全てを正しく表現することは出来ないと、私は思います。先に「ジングルベル」や『交響曲第1番』(HIROSHIMA)の例をあげましたが、正直、タイトルがどうであっても、その曲の素晴らしさが変わるものではありません。音楽は音楽として成立していますので。
それでもタイトルは欲しい…
そうは言っても、ポップスに慣れている一般の音楽ファンに曲を聴いてもらおうと思うなら、なにがしかのタイトルがあった方が良いと思います。大衆は言葉の性格をわざわざ考えて使っていません。ましてそれが曖昧なものだなどとは思ってもいません。言霊信仰の影響なのでしょうか?それをまるで灯台(道しるべ)のようにして音楽を楽しんでいます。しかし私は思うのです。タイトルは音楽の有様をぼんやりと照らしているに過ぎないと。
言葉と音楽の関係は、実はそれぞれが独立しているのではないでしょうか?しかしそれがあたかもイコールであるかのように思いこんでいる。その一方で、言葉が曖昧だからこそ、タイトルとして用いられるのかもしれません。音楽も言葉同様、人間にとってファジーな存在ですから。
音楽と言葉の関係とはいったいどんな関係なのでしょうか?仲の良い老夫婦?それとも付き合いててのカップル?はたまた、仲の悪い兄弟?
みなさんにとって、音楽とタイトルってどんな関係性なのでしょうか?
タイトルと音楽の調和を考えながら楽しむ。それもまた一興ですね。
おしまい